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48.乙女の武器は誰にも穢せない純真無垢な恋心

「アーちゃん……私もう手加減しないからね」

 ラルカがそう呟き、箒をくるくると回し始める。

「あっそ……お姉ちゃんが何言おうがしようが、勝つのは私だから」

 若井がラルカを睨みつけながら、ステッキをくるくると回し始める。

 と、二人同時に回すのを止め、お互いの得物の先端を向け合った。

「ラルカ……カルラ……カラル……ルラカ……ルカラ……!」

 ラルカが何度も何度も指を鳴らしながら、静かに呟く。

「……カレン」

 若井はラルカとは正反対に、ただ一言呟くだけ。

 それと同時に、彼女たちを中心に物凄い衝撃が起きた。

 風圧が凄い。猛風がこちらまでやってくる。

「わああ!? と、飛ばされる……! エイジ! 私を持ってくれ!」

「え? あ、ああ!」

 僕の服に捕まりながら飛ばされそうになっているクティラを急いで両手で包み、飛ばされないようぎゅっと握る。

 それと同時に僕は地面を強く踏み締め、自身も飛ばされないよう耐える体勢になる。

 リシアは大丈夫だろうか? と彼女を一瞥すると、リシアは自慢のポニーテールを揺らしながらも、余裕そうにその場に佇んでいた。

「……あ、エイジ大丈夫? 手、繋いでおこうか?」

 と、リシアは飛ばされそうになっている僕を心配してか、こちらに向け手を差し出してきた。

 僕はそれを遠慮なく受け取る。情けない話だが、彼女に捕まっていないと今すぐにでも飛ばされそうだ。

「エイジ!? 片手で私を握るな! 凄い痛いんだが!? 潰れるんだが!?」

「そう言われても……!」

 クティラのことを一瞬忘れていた。何とか片手で彼女を握っているが、彼女の言う通り強く握りしめてしまっているため、とても苦しそうだ。

「あ、そうだ。ポケットに入ってろクティラ」

 いい案を思いついたので、僕はそれをクティラに伝えながら彼女を急いでポケットの中へと入れる。

「むぎゅぅ!?」

 変な悲鳴が聞こえたが、多分大丈夫だろう。多分。ポケットの中でモゾモゾ動いてるし。

「……ぷはっ! お……意外と居心地いいぞエイジ!」

 ポケットから顔を出して、楽しげに笑みを浮かべながら僕の足をペチペチと叩くクティラ。

 楽しそうで何よりだ。今日履いてきたズボンのポケットが大きめで良かった。

「アーちゃん、受け止められそうになかったらちゃんと避けるんだよ? お姉ちゃん心配なんだから」

「心配ならそんなビーム撃とうとしないでよ! バカお姉ちゃん!」

「む……むぅぅうう! だってアーちゃんに勝たないと一緒に帰ってくれないんでしょ!? アーちゃん強くなってるんだもん! 仕方ないじゃんバカアーちゃん!」

「バカはお姉ちゃん! 何回言ってもわかんないじゃん! 私帰らないって! バカ!」

「わ……私は! 私は一緒に帰りたいんだってばァァァアアアアア!!」

 ラルカが叫ぶ。それと同時に彼女はその場で一回転をしてから、ビシッと箒の先端を若井へと向ける。 

 次の瞬間、ラルカの持つ箒の先端が眩い閃光を放つ。僕はそれに目を痛めつけられ、つい目を瞑ってしまった。

 と、同時に聞こえてきたのは何かが発射される音。物凄い大きな音だ。ショッピングモール中が揺れ、僕の耳を酷く痛めつけてくる。

 目の痛みが引いてきた。僕はゆっくりと目を開ける。すると目の前に広がった光景は、とてつもなく大きく、太く、眩しい光線同士の鍔迫り合い。

 放たれている方向から見るに、青い光線がラルカ、黒い光線が若井の放ったものだろう。

 押したり引いたりの掛け合い。両者同格と言った感じで、光線同士の鍔迫り合いは続く。

「うへぇ……凄いなエイジ。成人のヴァンパイアでもあそこまで強大な魔力を解き放てる奴はそういないぞ」

「吸血鬼もビーム撃つのか?」

「撃つぞ」

「撃つんだ……」

 それじゃあ僕も、やろうと思えば彼女たちのような極太ビームを撃てる可能性があると言うことか。クティラ曰く、完全一心同体状態は成人した吸血鬼同様の力を持つらしいし。

 成人した吸血鬼、と言うのに出会ったことがないから具体的にどんな力を持っているのかは謎だが。

「ふふふ! どうどうアーちゃん!? そろそろキツイんじゃない!? 降参したら!? そして私と一緒に帰ろっ!」

「絶対……いや!」

 光線同士の鍔迫り合いは続く。どちらかと言うと、ラルカの方が優勢に見える。

 余裕そうに笑みを浮かべるラルカに対し、若井は冷や汗を掻きながら歯を食いしばっているからだ。

「なあエイジ。なあなあエイジ。ラルカとアーちゃん、どちらが勝つか賭けないか?」

「だからギャンブルはやめろって……」

 僕の足をポケットの内側からベシベシ叩き、賭けを提案してくるクティラに呆れ僕はため息をつく。

「じゃあリシアお姉ちゃんはどっちが勝つと思うんだ?」

 話を聞いてくれないと、提案を受け入れてくれないと判断したのか、クティラは僕に話しかけるのを止め、ポケットからほんの少し身を乗り出しながら、大きな声でリシアに向け話しかけた。

 それを聞いたリシアは、顎に人差し指を当てながら、上を見ながらうーんと唸り──

「……若井さん、かなぁ」

 と、言った。

 意外だった。素人目に見てもラルカの方が優勢なのに、リシアは若井が勝つと思っているらしい。

 素人じゃないからこそ、僕とは違う視点で見て若井が勝つと予想したのだろうか。

「あっははは! 勝つ! 私が勝つ! 勝ってアーちゃんを何処の馬の骨ともしらぬ不届者から取り返し! 私がアーちゃんとイチャラブぎゅっちゅっ♡ してやるんだから!」

 口角を裂けそうなほどに上げ、邪悪な笑みを浮かべ高らかに笑うラルカ。

 パッと見悪役そのものだ。嫌だと言っている子を無理矢理連れて行こうとする変質者。

「絶対負けないんだから……! 勝って……帰って……! 結婚するんだからアアアアアアア!」

「死亡フラグだな!」

「死亡フラグだね……!」

「死亡フラグだよな……」

 負けそうな台詞を叫ぶ若井。しかし僕たちの予想に反して、彼女の叫びに呼応した光線は更に大きく更に勢いを増して、ラルカの光線を押し始めた。

「バカな!? アーちゃんは既に限界だったはず! その力は何!? その魔力はどこから!? その勢いはどうして!?」

「お姉ちゃんにはまだわかんないよ……! これが人を愛する気持ち! 大好きって気持ち! 恋する乙女のパワーは無限大なんだからあああああああ!!!」

「恋する気持ち!? 何故ゆえに!? そんなの勝てるわけないじゃない! 肉親を愛し、妹を愛する私の真実の愛に! たかが他人に思いを寄せた程度の恋なんて感情がアアアアア!?」

「私の放つ恋は愛、私の抱く思いは愛にして恋! あなたの独りよがりで独占的な重い執着依存心なんて比べるまでもなく優れているの!」

 若井が叫ぶと同時に、彼女の放つ光線が目に見えて強化された。

 太く、分厚く、大きく、勢いよく。ラルカの光線を飲み込みながら彼女へと向かっていく。

「アーちゃあああああああああああん!?」

 悲鳴にも似た歓喜の声をあげながら、魔女ラルカは魔法少女若井の放つ光線に飲み込まれていった──

「……なあ、なんでラルカは最後の方悪役ムーブをしていたんだ? 私気になるんだが?」

「……ノリ、じゃないかな?」

「……若井、なんか主人公みたいになってたしな」

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