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46.何を見せられているんだ僕たちは

「とりあえずリシア、僕たちは離れよう」

「う、うん……」

 睨み合う若井とラルカを傍目に、僕たちは急いでその場から離れた。

 彼女たちから少し離れた場所。そこで立ち止まり、動向を見守る。

「アリメメルタラホミシロカナカ……」

 若井がわけのわからない言葉を呟いた。その瞬間、彼女の目の前にステッキのようなものが現れる。

 先端に黄色い星が付いており、持ち手はキラキラとしたピンク色の可愛らしいステッキ。真っ黒な格好の若井にはあまり似合っていない。

 若井はそのステッキをくるくると回し、ラルカへと向ける。

 それと同時にラルカも手に持っている箒をくるくると回し、若井へと向けた。

「アムル……ウルトラビーム!」

「ラルカウルトラビーム!」

 二人が技名を叫んだと同時に、それぞれの武器の先端から勢いよく光線が放たれた。

 ぶつかり合う光線。それらは触れ合った瞬間に弾け飛んだ。

 と、同時に若井が地面を蹴り動き出す。ラルカの目の前に彼女は到着すると、ぴょんっと軽く飛び、勢いより回し蹴り。

 それをラルカは箒で抑え、勢いよく箒を振り払い若井を弾き飛ばす。

 それと同時にラルカはニヤリと笑い、指を鳴らした。

 その瞬間、若井を無数の魔法陣が囲む。それらは物凄い速さで回転し始め、数秒後それぞれの中心からビームが放たれた。

 リシアと戦う時にも使っていた技だ。リシアは動きが人外の領域に達しつつあるから対処できたが、若井はどう動くんだろう。

「あ、若井さん避けない気だ」

「え……?」

 リシアが呟くと同時に、無数のビームが若井に直撃した。

 物凄い衝撃。それによって起きた風が僕たちの元までやってくる。

「ちょ……! 大丈夫なのかよ……!?」

 湧き上がる砂煙。それの中心に佇む若井の影。

 次の瞬間、若井は勢いよくステッキを振り、砂煙を振り払った。

「お姉ちゃん……舐めプしてるでしょ」

「当たり前じゃん! 大切な妹を傷つけられるわけぇ……ないでしょ!」

「じゃあ勝負しようとか言わないでよ……もぅ」

 呆れたようにため息をつく若井。と、同時に彼女は地面を蹴り、ステッキを回しながらラルカの元へと向かう。

 目をギラつかせながら勢いよくラルカに向けステッキを振るう若井。それをラルカは余裕そうに構えた箒で受け止める。

 が、次の瞬間若井はステッキを手放し、ラルカの構えた箒を足で蹴り飛び上がり──

「アムル……スーパービーム!」

 と、叫ぶと、彼女の手放したステッキの先端から勢いよく光線が放たれた。

「わ!?」

 突然の不意打ちに驚き、箒を手放して光線を避けるラルカ。

 次の瞬間、いつのまにか地面に降り立っていた若井が落ちてくるステッキを手に取り、それの先端をラルカに向け叫ぶ。

「アムルウルトラビーム!」

 彼女が叫んだと同時に放たれる光線は、無防備なラルカを無慈悲にも襲った。

 光線がラルカの身を包む。ラルカの悲鳴が聞こえる。割と余裕そうな悲鳴だから心配はしなくても多分、大丈夫だろう。

 やがて光線が消えると、その場にはボロボロになったラルカが立っていた。

「ちょ……アーちゃん!? ガチすぎない!?」

 少し驚いたような顔をしながら、少し怒ったような顔をしながら、ラルカが若井をビシッと指差し叫ぶ。

 すると若井は申し訳なさそうな顔をしつつも、俯きながら、ステッキをくるくると回しながら呟く。

「だって……私、まだあの人と一緒に暮らしたいもん。ていうか……ずっと一緒に居たいもん」

「うぅ……! 私の大切なアーちゃんを奪った冷酷無慈悲な残忍凶悪残虐暴虐悪鬼羅刹なとんでもモンスターのどこがいいのよ!」

「むぅ……! あの人のこと馬鹿にするなら私! お姉ちゃんとは絶交だからね!」

「むぅうううう……! 私が勝ったらアーちゃんこそ! その人と絶交してもらうからね!」

「絶対いや!」

 二人も怒号を上げ、額に青筋を立てながら睨み合う。

 そんな二人を見て、僕の肩の上に乗っていたクティラが小さくため息をついた。

「なぁ……この姉妹喧嘩、私たちが見届ける意味あるのか?」

 僕の頬をペチペチ叩きながらクティラが言う。

 僕も少し、ほんの少しだけそう思うけど、だからと言ってのこのこ帰るのは少し違うとは思う。

 それに、クティラの使ったツゴーイーイナーが無ければ今頃大惨事だろうし。

 僕はなんとなくリシアを一瞥する。すると彼女は顎に指を添えながら、真剣にバカ姉妹の戦いを見ていた。

 そういえばリシアも戦闘民族と言えば戦闘民族だった。彼女たちの戦いを見て、何か思うことでもあるのだろうか。

「……ん? どうしたのエイジ」

 僕の視線に気づいたのか、リシアがこちらを見て首を傾げてきた。

「いや、別に……」

 僕は特に何も言わずに、リシアから視線を外し魔法姉妹の方へ顔を向ける。

 すると、彼女たちはまたビームの撃ち合いをしていた。それしか攻撃方法が無いのかな、魔女と魔法少女は。

「私ずっとアーちゃんのこと探してたんだよ!? 大好きなんだよアーちゃんのこと! 昔みたいにまた一緒に仲良く暮らそうよ!」

「先に家出て行ったのお姉ちゃんじゃん! 私から離れていったのお姉ちゃんじゃん! お姉ちゃんのこと今でも好きだけど……! 私にはもう! お姉ちゃんより大切な人がいるの!」

「むぅうううう! 妹がお姉ちゃんより好きな子なんて! 出来るわけないでしょおお!?」

「でーきーるーの! 毎日毎日イチャラブぎゅっちゅっ♡ って感じなんだから!」

「嘘だよ!?」

「嘘じゃないもん!」

 叫びながら、怒号を上げながら、空に浮きながら、お互いに向けビームを撃ち合い続ける姉妹。

 一体全体僕は、僕たちは何を見せられているんだ。

 昨日会ったばかりのラルカ。クラスメイトと言えど仲が良いわけではないし、あまり話したこともない若井。

 二人の痴話喧嘩を見せられても正直、あんま面白くない。

 早く終わらないかな、と僕は思わずため息をついてしまった。

「ラルカのあの動き……まだあの時は本気だとしても全力は出してなかったんだ……ふーん……私と同じだったんだ……へぇ……」

「……リシアは楽しそうだな」

 目を輝かせながら、ほんの少し口角を上げて笑みを浮かべるリシアを見て、僕は思わず呟いてしまった。

 ここにいるメンバーで一番弱いの、もしかして僕なのかな。唯一の男なのに、一番弱いのか。

 なんだか自分が情けなくなってくる。女の子状態なら身体能力は高くなっているとは言え、それを自分の力とはとてもじゃないが言えないし。あくまで借り物の力だし。

 鍛えようかな。僕は少し、そう思った。

「なあなあエイジ。あの女の子……魔法少女の女の子、最初刀持っていたよな」

 と、クティラが僕の耳たぶをペチペチ叩きながら話しかけてきた。

「うん……? 確かにそうだな」

 思い返すと、若井は変身した直後は刀を持っていた。それも血まみれの。

 だがそれは今では影も形もない。いつの彼女はそれを手放していたのだ。

「賭けないかエイジ……あれが何かしらの伏線なのか否かを!」

「だからすぐギャンブル始めようとするのやめろって……」

 僕はペチっと、軽くクティラの頭を叩いた。

「あぅ……」

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