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43.デートデートデートデート

「ほお……! これが数多の虚弱貧弱無知無能な人間がこぞって集まり財産を投げ出す恐怖の娯楽施設か!」

「早口で何言ってんのかわかんねえよ……」

「私も初めて来たなー! あっはは! ジャカジャカ五月蝿くて耳痛え!」

「……色々な意味でエイジと二人がよかったな」

 午前十一時半頃。僕たち四人は近くのショッピングモールに遊びに来ていた。

 僕は普通の服装。リシアは昨日着ていた黒パーカーと黒スカートと白シャツ。ラルカは魔女の格好ではなく、ヨレヨレのシャツ一枚とダメージジーンズ。

 今いる場所は四階のゲームセンター。平日の午前なのに思っていたよりは人がいる。流石に学生の姿は見えないが。

「見ろエイジ! あのカレカノ! バカみたいに百円を投入しているぞ! 金持ちだな!」

「大声でそう言うこと言うなバカ吸血鬼」

「バカ吸血鬼……!? バカって言うなバカ!」

「見てエイジちゃん! 子供向けのアイドルゲームに若めのイケメンが座り込んでめちゃ金入れてる! その隣にはおじさんもいる! ぱっと見女の子向けなのに! 女の子いねえ!」

「頼むから余計なこと言わないでくれバカ魔女……」

 こいつらと一緒に居ると暴行事件が起きそうな気がする。大声でそれとなく罵倒する嫌な奴らだ。悪気がなさそうなのが余計に嫌だ。

「……私、他人のふりしようかな」

 と、リシアがボソッと小さな声で呟いた。僕もそうしたい。

「とりあえず……一周まわるか?」

「それでいいよー!」

「うむ! とりあえずな!」

「……うん、とりあえず」

 と言うわけで、とりあえず僕たちはゲーセンを一周することにした。

 子供向けのカードゲーム、多すぎるクレーンゲーム、人のいない音ゲー、やべえ手の動きをしているおじさんが座っている格ゲー。色々なゲームがある。

 それにしても、クレーンゲームが多すぎる気がする。絶対お店で買った方が安いお菓子が手に入るやつとか、どうやって取るのか全く想像がつかない筐体など、見ている分には楽しいけれど。

「うわすご……こんな出来のいいフィギュアがワンチャン百円で取れるんだ。やべえな日本……」

「あ、かわいい……欲しいかも……」

「何だこの剣と盾は!? よもやヴァンパイアハンター御用達の店だったりするのか……!?」

 三人それぞれ違った反応を見せてくれる女性陣。意外とそれを見ているだけでも楽しい。

 ラルカは美少女フィギュアばかり見て息を荒げ、リシアはかわいいぬいぐるみを見て呆け、クティラはおもちゃの武器を見て戦慄している。

 もしかしてクレーンゲームってやるよりも、見ている時の方が楽しいのかもしれない。と、何となく思った。

「エイジ! あれは何だ!? なんか凄い光っているぞ!」

 僕の頬をつねりながら、ビシッとクティラが何かを指差す。

 クティラの差す方向へ顔を向けると、そこにあったのはなんかデカい筐体。恐らく音ゲーの筐体。

「ぬおおお!? エイジ! あの動きを見ろ! 凄いぞ! わけわかんないぞ!? 無駄に無駄のない動き、次の相手の行動がわかっているかのような予備動作! もしや戦闘訓練……!?」

「お前……ちょっと大袈裟に言ってるだろ」

「ふふん、よくわかったなエイジ。流石、私と一心同体なだけある」

 僕は思わずため息をつく。もしかして今日一日、ずっとクティラのノリに付き合わないといけないのかと思うと余計に。

「ねえねえエイジちゃん」

 と、後ろからラルカが僕の背中をベシベシ叩いてきた。絶妙に痛い。

 僕が振り返ると、ラルカは露骨に可愛こぶった様子で、目をきゅるるんっとさせた感じで僕を見つめてきた。

 そして、ほんの少し顎を引いて、上目遣いになるよう調整しながら、彼女は言った。

「お金ないから貸して……欲しいな」

 両手をパンっと合わせ、お願いをしてくるラルカ。

 じっと見つめてくる。じっと、じっと、じっと。

「……じゃあ千円だけ」

「やたっ! ありがとエイジちゃん!」

 僕が財布から千円札を取り出し差し出すと、ラルカは二、三回お辞儀をした後、嬉しそうにそれを受け取り真っ直ぐに両替機へと走っていった。

「いいのエイジ……千円も」

「……遊ばせておいた方が楽かなって」

「お……お父さんみたいなこと言うね……」

「育児放棄だなエイジ」

 ぱっと見ラルカは僕たちより年上だし、放っておいても大丈夫だろう。

 僕たち三人は口に出さずともその意見に賛成し、三人で──クティラは肩に乗ってるけど──歩き始めた。

「あ、クティラちゃん……あれ楽しそうじゃない? 遊んできたら?」

「ううむ……今の私には大きすぎるな」

「……じゃあ、あれは? ボタン押すだけだし、行ってきたら?」

「カードゲームか……持ってないからあまりやる気はないな」

「……じゃあじゃあ、あれはどうかな? クティラちゃん欲しいんじゃない? あのお菓子」

「……リシアお姉ちゃん、さっきから私だけ遠ざけようとしていないか?」

「そ……そんなこと、ないよ? あはは……」

 リシアとクティラの会話を聞きながら、僕は歩き続ける。

 最初の方は景品を見ているだけでも楽しかったが、それにもそろそろ飽きてきた。

 どれかに挑戦してみようかなと、僕は辺りを見回す。

 だが、簡単そうなものは景品に惹かれないし、景品には惹かれるが難しそうなものばかり。そのせいでいまいちやる気が起きない。

 僕はゲーセンに向いていないのかもしれない。

「……ただいま」

「あ、ラルカ」

 と、突然目の前にラルカが現れ、僕たちに帰還を告げてきた。

 何も持っておらず、強く拳を握り締めたまま、この世の全てを憎んでいるかのような顔をしながら、彼女は俯いている。

「ほんと意味わかんない……あんなにかわいいのに……掴んでも掴んでもコロコロ転がるだけ……ていうかクレーンがおかしいよ……あいつ……あいつ……途中まで持ち上げるくせに一番上に着いたら急に離すんだもん……そしたらザンネーンとか言って煽ってくるし……それでムカついて……ムキになって……気づいたらお小遣いゼロ……悪魔だよ……間違いなく悪魔だよあいつ……私恐ろしいよ……一見簡単そうに見せて……もう何も信じられない……信じたくない……クレーンゲーム滅びろ……」

 ぶつぶつと恨み節を呟くラルカ。気のせいか、真っ黒なオーラが彼女から湧き出ている気がする。

「えっと……ラルカ何が欲しかったの?」

「あの悪魔……」

 リシアが問うと、ラルカは唇を噛み締めたまま遠くを指差した。

 僕たち三人は同時に、彼女の差した方向を見る。そこには、可愛らしいまんまるの猫のぬいぐるみが置かれた筐体があった。

「見て……あんなにかわいいのに……あんなキュートなのに……私の千円を一瞬で根こそぎ奪っていったの……きゅるんっとしたお目目しやがってぇ……!」

 プルプルと震えながら、ラルカは己を抱きしめるように全身を縮こませる。

「恐ろしい……! 私はあのゆるカワ猫ちゃんが恐ろしいよ!」

「なあエイジ。もしかしてラルカってバカなのか?」

「今更か?」

「ラルカ……かわいそう……」

 と、恐怖の顔を見せ、怯えるラルカにリシアが近づき、そっと抱きついた。

 よしよしと呟きながら優しくラルカの頭を撫でるリシア。すると、ラルカの表情が徐々に柔いでいった。

「私もやるよ……! ラルカのために……! あのクレーンゲーム……!」

「え!? リシアちゃん……! 持つべきものは友だね! 強敵と書いて友と読む強敵(とも)だね!」

「……普通に友は友でよくない?」

 と、首を傾げながら問うリシア。そのまま彼女たちは仲良さげに、猫の待つクレーンゲームへと向かっていった。

「どうだエイジ……賭けないか? リシアお姉ちゃんが景品を取れるか否かを」

「お前……すぐギャンブル始めようとする癖やめた方がいいぞ」

「むぅ……サラなら喜んでノッてくれたのに。エイジはノリが悪いな」

「サラ……今頃授業中なんだろうな」

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