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42.みんな忘れてない?

「あっはは……寝ぼけてイビキ強化の魔法使っちゃったみたい。ごめんねリシアちゃん」

「何だその魔法……」

 リビングに集まった僕、リシア、クティラ、サラ、ラルカはテーブルを囲っていた。

 いつの間にか人が増えたなと、ふと思う。一週間前までサラと二人で暮らしていたのに。気づいたら五人で暮らしている。

 いや、リシアは居候じゃなくてお泊まりだから四人か。それでも倍だが。

「そういえばリシアお姉ちゃん制服に着替えなくていいの? 私そろそろ出るけど……」

「うん……制服家に忘れちゃって。面倒くさいから今日休むことにしたんだ……」

「わ……リシアお姉ちゃん意外と不良……。私も休もうかな……?」

 パンを咥えながら、リシアとサラの会話を僕は何となく聞く。

 ちなみに僕も今日は学校休みだ。まだ女の子状態だし。

「ねえねえ女子高生ズ……ちょっと聞いてもいいかな」

 と、ラルカが何やら真剣な顔を顔をしながら話しかけてきた。

 普段のおちゃらけた顔と違い、目がキリッとしている。僕は思わず固唾を飲んだ。

「君たち……アーちゃんのこと忘れてない?」

「……あ」

「あ……」

「……なんかそんな設定あったな」

「ほら忘れてた! 全くもう困っちゃうなぁ!」

 頬を膨らませながら、僕たちをビシッと指で差しながら、ラルカが叫ぶ。

 すっかり忘れていた。そういえばこの魔女、アーちゃんという妹を探してこの家に来たんだった。

「リシアちゃんとエイジちゃんからは今でもほんの少しだけ香りがするの、アーちゃんの香りが。二人は必ず絶対確実にアーちゃんと関わっている、と私のゴーストが囁いているわ!」

「とは言ってもな……なぁリシア」

「うん……覚えがないよね」

 僕とリシアは見つめあって同時に頷く。アーちゃんと関わったことがある、そう言われても僕たちは身に覚えがないのだ。

 恐らく同じ学校の生徒なんだろうが、ラルカのような長い名前の生徒は聞いたことがない。「あ」が名前に付く生徒なんてたくさんいるし。

「ねえラルカ……そのアーちゃんって子、本名は?」

「アーちゃんはアーちゃんだよ?」

(バカ魔女が……)

 昨日の夜も何回か名前を聞いたが、ラルカは頑なにアーちゃんとしか言わなかった。

 曰く、アーちゃんをアーちゃん以外の名前で呼びたくないらしい。謎すぎる拘りだ。

「ふにゃあ……あふ……んわあ……」

「うるせえよクティラ」

 僕の耳元でしつこくあくびをするクティラを僕はペチっと叩く。

 すると彼女はグイッと僕の頬を引っ張ってきた。痛い。

「つまんないし暇だし眠いんだし寝たいんだから仕方がないだろう? ふわぁ……ふぅ」

「じゃあ寝てろ」

 バカ吸血鬼は放っておいて、僕は立ち上がり冷蔵庫へと向かう。

 コップを手に取り冷蔵庫の扉を開け、お茶を取り出す。

(……今日は食欲が湧かなそうでよかった)

 冷蔵庫に向かうたびに、また彼女たちに向け食欲が湧くんじゃないかと怖くなる。

 本当に怖い。昨日はサラが来てくれなかったら危なかった。

「ねえねえエイジ。エイジも今日学校休むんだよね……」

 と、後ろから肩をツンツンと突きながら、リシアが話しかけてきた。

 僕はコップを口に向かわせながら振り向く。そこには、少し俯きつつ上目遣いで僕を見るリシアがいた。

「そうだけど?」

 リシアの問いに僕が答えると、リシアは嬉しそうに微笑みながら、両手を合わせながら言った。

「それじゃあ……その……一緒に遊びに行かない……?」

「……意外と不良だな、リシアって」

「あ……ぅ……やっぱりダメ……?」

 少し目を潤わせながら、か弱い子犬のような目で見てくるリシア。

 卑怯だ。そんな目は卑怯だ。卑怯すぎる。禁止カードで一発レッドカードだ。

「えっと……まあ、僕もズル休みみたいなもんだし。リシアが行きたいなら遊びに行くか……?」

「ほんと……っ! エイジ……なんだかんだ優しいよね……!」

 僕が了承すると、リシアはパァっと笑顔を咲かせ、ぎゅっと抱きついてきた。

 その時、僕の腹部あたりに彼女の一番柔らかいところが押し付けられた。僕が男ってことを忘れてないか? リシアは。

「えへへ……エイジとデート……楽しみだな……!」

「うむ! 楽しみだなリシアお姉ちゃん!」

「……え、クティラちゃん?」

 と、クティラが腕を組みながら叫んだ瞬間、一瞬リシアから笑顔が消えた。

 そして彼女は僕の肩の上にいるクティラを目にも止まらぬ速さで取り、僕に背を向けてきた。

「ちょ……! 来るの……!? クティラちゃんも……!」

「当然だ。私とエイジは一心同体なのだからな」

「うぅ……今回だけお留守番とかダメかな……?」

「ダメだな。いつヴァンパイアハンターが襲ってくるかもわからないのに、安心はできん」

「ヴァンパイアハンターは来ないと思うよ……私が嘘の報告しておいたから……」

「念には念を入れて、だ」

「……うぅ……でもしょうがないか……はぁ……」

 話が終わったようで、リシアが残念そうな顔をしながら振り返る。

 手のひらに乗せたクティラを僕に差し出しながら、リシアが深くため息をついた。

「クティラちゃんも一緒だって……」

「……お、おう」

 もしかしてリシアはクティラが嫌いなのか? でもよく考えてみたらリシアはヴァンパイアハンター、吸血鬼であるクティラと仲良くするのはあまりよろしくないのかもしれない。

「私もいーい? リシアちゃん、エイジちゃん」

 と、いつのまにか隣にいたラルカが僕の肩を突きながら、自分を指差しながら行ってきた。

 露骨に嫌そうな顔をするリシア。けれど彼女は一度首を横に振ってから、無理矢理愛想笑いをして言った。

「うん……ラルカも一緒でいいよ……」

「……えと、そんなに私と一緒に行くの嫌なのかな?」

「……えと、そういうわけじゃなくて……はぅ……」

 指をもじもじとさせながら俯くリシア。少し可哀想に見えてきた。

 僕はそんな彼女の頭を撫でてやる。昔からリシアを慰める時はそうしてきたからだ。

「そんなに僕と二人っきりがいいならいつでも付き合うよ……だから今回は我慢しような」

「……ありがとうエイジ」

 どうしてそんなに二人にこだわるのかはよくわからないが、多分幼馴染と二人っきりで久しぶりに遊びたかったのだろう。

 小学生の頃はよく遊んでいたのに、高校生になってからはあまり遊ばなくなっていたし。そう考えると僕も二人っきりが良かったな、と思ってしまう。

「え……私だけ仲間はずれなん……?」

 と、後方から悲しそうな声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこにいたのはサラ。

 一人だけいつも通り制服姿に着替えて、学校へ向かおうとしている最中だ。

「……なんかムカつく。まあいいや、お詫びとして週末お兄ちゃんに買い物付き合ってもらおっ」

「なんのお詫びだよ……」

 すぐに笑顔を取り戻し、悪戯っぽく笑うサラ。

 なんで僕がお詫びしなきゃいけないんだ、とは思ったが声には出さなかった。

「それじゃあ行ってくるね。お兄ちゃん、リシアお姉ちゃん、ラルカ、あとクティラちゃん」

 そう言って、サラは僕たちに手を振りながら玄関へと向かっていった。

「サラは真面目だな……良い妹だ」

「そーか?」

 クティラとテキトーに喋りながら、僕は座るためにソファーへと向かっていった。

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