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317.誰かの何者かになりたい

 朝早くのリビング。僕は色々あって、クティラに相談、というよりは弱音を吐こうとしていた。

「さぁ話してみよエイジ……この私、クティラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトにな」

 尊大な態度で己の名を呼び、頼るように指示をするクティラ。

 普段だったら少しイラっとするけれど、今は何故か頼り甲斐があるようにも見える。

 彼女は言った。一人で悩みを抱え込んだままだといずれ壊れてしまうと。吐き出せる相手がいるならばたまにでいいからするべきだと。その相手に、自分がなってやると。

 その言葉に甘えるべきか否か。ここは多分、素直に甘えておいた方が僕にとってもクティラにとってもいいんじゃないか? と、根拠のない推測で、僕は自分を無理矢理納得させる。

 正直に言って、いくら吸血鬼とはいえ、女の子相手に弱音を吐くのはすごく恥ずかしい。それに、自分の嫌なところを見せるようで、嫌悪感がある。

 だけどきっと、するべきなのだろう。クティラの言葉を信じるならば、僕が彼女を信頼しているのならば──

「……そのさ、クティラ」

「話す気になったか……安心しろ相槌は打つ。好きなように好きな風に好きなだけ話すがいい」

「……うん、まあ、ありがと」

 少しだけ、普段よりもどこか強気なクティラに違和感を感じつつも、僕は話を続けようとする。

 息を飲んで、固唾を飲んで、咳払いをしてから。僕ら改めて口を開いた。

「そのさ……何だろうな、最近思うんだよ。僕って……リシアの幼馴染、リシアの隣にいる人間でいいのかなってさ。リシアは優しいからさ……幼馴染というだけで僕の隣に居てくれるし、僕をその……好きでいてくれる。凄い助かってるんだよその気遣い……だけどさ、そのお返しが出来てないというか……リシアが好意を示してくれるたびに思うんだよ……僕ってそれを受け取れるほどの人間なのか、僕はそれを受けるに値する人間なのか、僕は本当に……リシアの考える、リシアの好きな、愛作エイジなのか……ってさ」

「む……? そこまで自身に自信が無いとは……少し驚きだな」

「無いさ……日頃から、最初から。クティラと出会ってから色々あったけどさ……僕って、その起きた出来事に対して何も出来ていないと思うんだよ。初期の方に襲ってきたヴァンパイアハンターと戦う時もクティラがいなかったら何も出来なかったし……暴走してしまったリシアを止めるのにも、クティラが居なかった何も思いつかなかったし、何も出来なかったと思う。ケイの暴走もそうだよ……言葉は多少投げかけたけど、効果はなかった。結局はクティラの魔法頼り……そうだっただろ? 咲畑さんは……彼女の持ち得る強さで自分で立ち上がったし、サラとの仲違いも……正直、サラの優しさでどうにか平和に解決できた、って感じだった。そして今回の夢の中の出来事……夢見館さんの暴走……それに対して僕は何もできなかった。言葉を投げかけることも、リシアのサポートも、何もだよ。ただ見ていただけだ……守りたいと思っても、何かしたいと思っても、頭が回らなかったし、それを成し得る力も無かった。誰かに頼りきって、たまたまそこにいるだけで、自分が誰かのために何かをできた人間だと思い込んでる……思い込んでしまうのが嫌なんだよ」

「……自分に自信が無さすぎではないか? そこまで卑下するほど貴様は……エイジは……ダメな人間ではないぞ?」

「……ごめんだけど、その言葉、優しい言葉……今の僕は疑ってしまうよ。あまりにも何もできていなくて……それだけが実感できてしまっていて……優しい言葉も助けようとしてくれる言葉も肯定する言葉も何もかも裏に何かがあると疑って仕方がない。弱音を吐いておいて、相談に乗ってもらっておいて何だけど……素直に受け入れることができない」

「……なるほど、だな。わからんでも無い……私もそういう時期はあった」

「……今度は共感か。ありがとなクティラ……ちょっとだけ楽になったよ。ちょっとだけ、だけど」

 僕は思わずため息をつきながら、話を終えようと、ゆっくりとソファーを立ち上がる。

 本当に嫌な奴だ、自分。少しヘラっているとはいえ、最低だ。クティラに、相談に乗ってくれたクティラに、話を聞いてくれたクティラに、僕のことを思ってくれたクティラに、自分は何を言っているんだろうと、嫌な気持ちになる。

 やっぱり相談に乗ってもらわない方が良かったのかもしれない。自分でもわかる、自分だからこそよくわかる。今の自分が相当に、面倒くさい状況、ダルい心境になっていると。

 はぁ、ともう一度ため息。そのまま僕は、リビングから離れようと──

「待て、エイジ」

「……へ?」

 ソファーから立ち上がりそのままリビングを出て行こうとすると、クティラが何故か、ソファーに座ったままではあるが、僕の手をガシッと掴んできた。

 思わず振り返る僕。後ろにいたのは、僕をじっと見つめるクティラ。

「……誰かの何者かになりたいのだな、エイジは。やはり私たちは……一心同体だな」

「……え?」

 クティラにしては珍しく、とても小さな声で何かを呟く。あまりにも声量が小さく、口が動いているから何かを呟いているのは察せたものの、内容までは把握できなかった。

 何かを呟き終えた後、クティラは改めて僕をじっと見つめる。じっと、じっと、じっと見つめ──

「ここからは私が貴様に説教をし、貴様の心を救う展開だぞエイジ……逃げることは許さん、来い!」

「ちょ!? おまっ!?」

 華奢な腕に似合わず、物凄い力を発揮し、僕を己の元へと引き込むクティラ。

 体勢が崩れ、僕はそのまま、倒れ込むようにソファーの上へと戻されてしまう。それと同時に聞こえるのは、クティラの自信ありげな「ふふんっ」という笑い声。

 顔を上げると目の前には、いつも通りの、ドヤ顔を浮かべたクティラが座っていた。

「貴様が知らぬ存ぜぬ間にしていた事を私が模倣してやる……心して救われるがいい」

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