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32.電話

「なあなあエイジ。サラとラルカ、今どんな会話をしていると思う?」

「さあな……」

 夜ご飯を食べ終え、お風呂に入って、やる事全て終わらせた僕は自分の部屋のベッドの上にいた。

 隣ではクティラがピョンピョン跳ねている。

「漫画でも読むかな。エイジ、オススメはどれだ?」

「んー……? ほれっ」

 僕はゆっくりと立ち上がり、本棚に入っている漫画を一冊テキトーに取り出し、クティラに向けて投げた。

 意外なことにクティラはそれをキャッチした。小さい身体でよく動くなあの吸血鬼は。

「ふむ……面白そうではないか」

 ちょこんとお上品にその場に座り、漫画を置いてページを捲り始めるクティラ。

 彼女の邪魔にならないよう、僕はゆっくりと元いた場所に戻り、座った。

 おもむろにスマホを手に取り、画面を見る。

 すると、珍しくリシアから沢山のメッセージが送られてきていた。

 テキトーに流し見をする。内容は主に僕を心配している感じ。普段よりも優しい感じがする。

 と、最後のメッセージに「時間が空いたら電話してきて」と書かれていた。

 今は暇だし、ラルカもサラが何とかしてくれてそうだから邪魔してこないだろうし、クティラも漫画に夢中だし。リシアにお礼も言いたいし、僕は彼女に電話をすることにした。

 右上にある電話のマークを人差し指で押し、彼女に電話をかける。

 耳元にスマホを当て、しばらくコール音を聞いた。数秒後、コール音がぶつりと切れ、聴き馴染みのある声が聞こえてきた。

「もしもしエイジ……?」

 リシアの声だ。僕は心の中で安堵のため息をつき、彼女に話しかける。

「えっと……電話してきてってメッセージ来てたから電話したんだ。ありがとな、僕を心配してくれて。クティラは今日おとなしかったよ」

「そう……よかった。エイジが元気そうで何より……」

 優しい声色。落ち着く声音。

 サラは生意気寄りだし、クティラは色々面倒くさいし、ラルカはクティラ以上に面倒くさそうだし。僕が話していて落ち着けるのは親友であるアイツと幼馴染のリシアだけかもしれない。

「えっとねエイジ……実は私サラちゃんにエイジのアレ聞いててね……わ、私に出来ることあったら私にも相談してね! 私もその……女の子だから……ちゃんと相談に乗れるよ……?」

 と、恥ずかしそうにリシアが言う。

 僕の顔に熱が帯びる。頬が徐々に熱くなっている。顔が真っ赤になっているのを感じる。

 エイジのアレって、つまり昼頃僕が苦しんだあの痛みのことを言っているのだろう。サラめ、余計なことを。

 流石に羞恥心が限界に達するから、それについてリシアに相談はできない。女の子の幼馴染に生理の相談をする男とか流石にちょっとやばい。

 状況が状況だから仕方ないところもあるけれど、僕の心がもたない。

「あ……りがとう。リシア」

 僕はちゃんとお礼を言っておいた。絶対にリシアには相談しないけど、お礼は言っておく。それが礼儀だと思う。

「それでエイジ……明日は学校来れるの?」

「ん……いや、わかんない。いつ女体化が時間切れになるのかクティラもよくわかってないみたいなんだ」

「そっか……はぁ」

 漫画を読みながら楽しげに興奮しているクティラを見て、僕もリシアに倣ってため息をつく。

 せめて制限時間がわかれば、もう少し動きやすいのだけれど。

 と、ここで僕はふと思い出した。

 ラルカの探しているアーちゃんと言う女性についてだ。僕が知らず知らずのうちに関わっているという女性。

 もしかしたら同じ学校に通っているのかもしれない。沢山の生徒がいるのが学校だし、知らない人と知らない間に関わっていてもおかしくはない。

 ラルカの嗅覚がどこまで優れているのかは知らないが、例えば僕がアーちゃんとすれ違っただけなのに、僕の体からアーちゃんの匂いを感じ取っていたりするのかもしれない。

「なあリシア」

「ん……?」

 僕はあまり期待せずに、リシアに聞いてみることにした。

「アーちゃんって人に……心当たりないか?」

「あ……アーちゃん? んー……ちょっとわかんないかな。誰なの? アーちゃんって」

「えっと……ちょっと待っててくれ」

 説明するの面倒くさいな。と思った瞬間、僕の視界にクティラが入ってきた。

 そうだ。クティラなら謎パワーでかくかくしかじかと言うだけで説明ができるはず。

 漫画を読んでいるクティラの頭を僕はポンポンと叩いた。

「ん……? 何だエイジ。急になでなでか? それでデレるほど私はチョロくないぞ」

「いや……ちょっとラルカについてリシアに説明してやってくれよ」

「なるほど……私ほど説明の上手いヴァンパイアは他にいないからな! いいだろう!」

 漫画を閉じて、腕を組みながらドヤ顔をするクティラ。

「ちょっとクティラに変わるな。はい、クティラ。頼んだぞ」

 僕は耳元からスマホを離し、クティラに渡した。

 小さな腕で、両腕を使ってスマホを持つクティラ。器用に自分の耳元にスマホを当て、彼女は話し始める。

「もしもし? リシアお姉ちゃんか? 私だ、クティラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトだ」

 本名でいちいち名乗る必要あるのかな、と僕は思わず首を傾げる。

「そうだ……実はだな」

(僕もかくかくしかじかを使えればな……)

「私とサラとエイジで夕飯を食べていたらだな、急に窓を割って魔女が突入してきたんだ。その魔女の名はラルカ・エメ・ジェメレンレカ・ジテム・ジタドール・ヴゼムジュビアン・ラフォリアムテージュ・アドレ。妹力という謎のパワーを測定して私たちの家に突っ込んできたのだ。そうだ、その魔女が探している相手がアーちゃんという女性、彼女の妹だ。ラルカ曰く、エイジはどこかでアーちゃんと関わったことがあるそうでな、それ故にアーちゃんを見つけるため私たちの家に居候することになったのだ。特徴か? 魔女のような帽子、魔女のような服、魔女のような箒を手に持ったテンプレ魔女だったぞ。強いて言えば胸がデカかったな」

「何でそんなに長々と説明してるんだよお前は!? いつものかくかくしかじかはどうした!?」

「え……急に何だエイジ……?」

 僕は思わず叫んでしまった。どうして今回に限ってかくかくしかじかではなく、僕にもわかるようにちゃんとした言葉で説明しているんだこの吸血鬼は。

 違う。そういえば僕がいつもかくかくしかじかに突っ込むとクティラは変な顔をしていた。

 つまりおかしかったのは僕の方だったのかもしれない。何故か説明が軒並みかくかくしかじかに聞こえていた僕がおかしかったのかもしれない。

 つまり僕は正常に戻ったと言うわけだ。かくかくしかじかではなく、しっかりとクティラの長ったらしい説明を聞けたのだから。

 喜ぶべきなんだ。突っ込むべきではないんだ。これ以上気にしちゃダメだ。

「む……まあ別にいいんじゃないか。それじゃあまた後でな、リシアお姉ちゃん」

「え、ちょっ、僕に変われよ……」

 と、説明を終えたクティラが電話を切ってしまった。

 僕は思わずため息をつきながらクティラからスマホを返してもらう。

「それで……リシア、なんて言ってた?」

「うむ、今から来るそうだぞ。曰くエイジが心配だからと」

「……は?」

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