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309.理解不能意味不明退避現実逃避夢想虚実真実感情感傷

(……いいなぁ。守れる力があるのも、守ってくれる人がいるのも、敵に襲われているのも。なんかよくわかんないけれど……羨ましい……)

 激昂と激情。すぐに変わる情緒。不安定な気持ち。気持ち悪い感情。私の心情。

 私は指を鳴らし続ける。男の子と女の子を攻撃するためにひたすら、思い浮かぶ脅威と抱く敵意を己の狂気に乗せて。

 だけど、そうしているはずなのだけど、なんだか段々と怒りが収まってきて、なんだか段々と落ち着いてきた。

 私って確か、怒っていたよね。イラついて、ムカついて、八つ当たりをするために彼らを攻撃した。そのはずなのに──

「大丈夫? エイジ」

「うん……リシアのおかげで」

(……なんだろ。私、何やってるんだ?)

 私が指を鳴らすと同時に現れるぬいぐるみのバケモノ。それから私の背後から放たれる光線。その他諸々色々な攻撃。

 それらは全てあの女の子に弾かれ、塞がれ、遮られてしまう。何一つ、どちらにも傷を負わせる事ができない。

 なんなのあの女の子、ちょっと強すぎると思う。そう考えるとイラついてきた。

「……いいから早く負けてよ……! 私は一人になりたいのに……!」

──嘘だ。

 私は嘘を吐く。彼に向け、彼女に向け、私はそう言う人間だと教えるために、そう思われるために、私は嘘をつく。

 誰のためでもなく、自分自身のためでもなく、ただそうしなければいけないと思っているから私は、そうやって嘘を吐く。

 思い出すのは、思い浮かぶのは、つい数分前の出来事。あの男の子と女の子が、私を心配してくれた場面。

 実質初対面なのに私は、彼らの見せたほんの僅かな優しさに堕ちそうになっていた。久しぶりだったから。誰かに情けをかけられたのが、誰かに心配されたのが、誰かに手を差し伸べられたのが。

 素直に受け取れたらよかったのにな、と私は後悔する。いつもこうだ。あの時ああしていれば、こうしていればと、誰かと関わるたびにそう思い、自分を卑下する。

 卑下するに値する己に嫌気が差す。自分のダメなところはわかっている、こうしなければならないと客観視できている。だからこそ、どうしようもないと動かずその場で佇みながら嘆いてしまう。

(……嫌われただろうな、私。もしもあの時、心配してくれたあの瞬間、素直な気持ちで彼女たちに甘える事ができたら私……二人と仲良く出来ていたのかな? そうは思えないけど……だって……誰かと仲良くできるような人間なら……話も聞かずに相手を襲わない……それが例え、非現実的な夢想空間だとしても……)

 クマのぬいぐるみが女の子を攻撃する。だが彼女は最低限の動きでぬいぐるみの攻撃を避け、それと同時に目にも止まらぬスピードで反撃し、ぬいぐるみを破壊する。

 それを次々と現れるぬいぐるみ達に繰り返していく。生まれてはすぐに死んでいくぬいぐるみ達を見て私は、少し胸がチクリと痛んだ。

(……可哀想だからもうやめよう。それに……あの子達じゃ勝つの無理そうだし……)

 私は両手をぶらぶらとさせ準備運動。それを終えると同時にため息をつき、彼女たちに指を向ける。

 ぬいぐるみ達が湧き出すのが止まったことに気づいたのか、女の子と男の子はゆっくりと顔を上げ、宙を浮かぶ私を見た。

(……なんで?)

私を見る彼らの表情。それを見て私は思わず、首を傾げそうになってしまった。

 てっきり、怒っているのかと思っていた。睨みつけるように、私を見るのかと思っていた。

 なのに男の子は、女の子は、私をまるで──

「……そんな目で見ないでよ」

 彼らに聞こえないように、私は小さく呟く。

 どうして? なんで? あの人たちは私をまるで、心配するような顔で見つめるの?

 攻撃したのに、襲ったのに、殺すとまで宣ったのに。それでもなお彼は何故、私に憎悪を抱かないの。

 なんか、ちょっと、気持ち悪く感じた。

 あんな事を言われて、あんな事をされてもなお、己を貫ける二人に、優しい二人に、恐怖を感じた。

 そして、そんな風に思ってしまう自分に嫌悪感を抱く。だって、今の私、凄く気持ち悪い。

 人の善意を素直に受け止めず、あまつさえそれを狂気と断定し、されど都合よく自分を見てくれんじゃないかと期待している自分に、物凄い嫌悪感を感じる。

 期待するな、信じちゃダメだ、近寄っちゃダメだ。

 私は思い出す。これまでの自分の失態を、作り上げてきた黒歴史を、傷ついてきた心を。

(……私が私じゃなかったら、仲良く出来てたのかもな)

 大きく息を吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて──

 私は大袈裟に大ぶりに両手を勢いよく振り、両手とも指を鳴らす準備をする。

 私が私であるために。あるべき私でいるために。私が私を私として私の持つなりたい私を描かないように。私は否定して、肯定して、思い込んだ真実を求めるために、指を鳴らす。

「……これで二人とも死んじゃ……いなくなっちゃえ……」

 夢見館ルル。私の名前。

 人間関係を築くのが下手くそで、コミュニケーションが取れなくて、友達がいなくて、現実が大嫌いで、逃避先は自身の夢の中。

 それでいい。そのままでいい。そうしていたら少なくとも、あの日のように傷つくことはないのだから。

「……なんでこうなっちゃうかな」

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