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305.初めての夜……?

 暗い部屋。真夜中の部屋。一人でいる部屋。僕の部屋。

 僕、愛作エイジ、十七歳。普段と変わらない部屋なのに、普段と違いすぎる感情を抱きながら、一人天井を見上げていた。

「……寝られるか」

 昨日とは違う理由で眠れない。あの時、あの瞬間から僕はずっと、情緒不安定だ。

 喜びが強くて、強すぎて、それと同時に戸惑いもあって、それから不安感も感じていて、それでいて自分で本当にいいのかと肯定感を下げている。

「……んっ」

 僕は何となく起き上がってみる。起き上がってから、辺りを見回してみる。

 誰もいない部屋、僕一人だけの部屋。クティラが珍しくサラの部屋で寝ると言うので、今日は僕一人なのだ。

 なんて言うか、クティラは気まぐれではなく、気を使ってくれた気がする。まるで僕とリシアの事を知っているかのようなムーブをしていた気がする。

 まだ誰にも話す気はないから、察していたとしても口に出さずにいてくれるのは助かるけど。

「……へ?」

 口元に手を当てながら、色々と考えていると、何故か部屋の扉が開いた。

 開いた扉の先から見えたのはドアノブを握る手、それから、見覚えのある人影。何度もみた人影。間違えるはずのない人影。

「……リシア」

 扉を開けた主の名を僕は思わず呟く。すると彼女は、ほんの少しだけ俯き、そのまま何も言わずに、部屋に入ってきた。

 変わらず何も言わずに、ゆっくりと近づいてくるリシア。僕の目の前に佇む彼女は、これも変わらず俯いたまま、ゆっくりと隣に座ってきた。

「……ねぇ、エイジ」

 彼女の僕の名を呼ぶ呟き。何度も聞いた呟き。聞き慣れているはずの呟き。

 なのにこんなにも胸が高鳴る。何を期待しているのか、何を感じているのか、自分でもわからないけれど。それでも胸は高鳴るし、湧き出る羞恥心を抑えることはできない。

「あのねエイジ……その……今日はね……あの……一緒に寝ない……?」

「……へ!?」

「……あ!? いや! そういう意味じゃないよ!? しないよ!? しないよって言うかえっと……ぴぇ……! あの! その! 本当に寝るだけ! 寝たいだけで……ぴぇ……!」

「あ、いや、えと、わかってる……いや……わかった……いやわかってた……わかって……えー……」

──ヤバい、ミスった。

 正直、リシアの否定する意味で僕は捉えてしまった。リシアの提案を、お願いを。

 完全に僕のミスだ。僕のミスでお互いがめちゃくちゃ気まずい感じになっている。僕の漏らした驚きで、お互いがより、間違った意味を強く意識してしまい、実際には違うのにリシアがそれを提案してきたみたいな感じになっている。

「と、とりあえず寝ようよエイジ! 昔みたいに! 子供の頃みたいに! あの時みたいに!」

「あ……ああ! そうだな! うん!」

 勢いで何もかも誤魔化す判断をしたリシアに乗り、僕は力強く頷く。

 それと同時に僕とリシアはほぼ同時に立ち上がり、お互い同時に掛け布団を手に取り持ち上げ、その瞬間に二人同時にベッドの上に寝っ転がり、次に掛け布団を二人で二人に掛ける。

「……えへへ。暖かいね……エイジ」

 寝っ転がって数秒後。二人して何も喋らずに天井を見上げていると、リシアが視線を合わせずに顔は動かさずに、そう呟いた。

「そう……だな」

 僕も同様に。彼女の方へ視線を向けずに、顔を向けずに、小さく肯定の言葉を呟く。

──そして会話は止まる。お互いの小さな呼吸音だけが聞こえる静かな部屋で僕らは二人、共に、天井を見上げ続ける。

 何も見えないけれど、気持ちだけは何故か満たされていく。プラネタリウムで星を見ている時の感情に似ている気がする。何も見えないのに、真っ暗なのに、隣にリシアがいると言うだけで、何だか凄く、落ち着くし安心するし、だけど──

(……心臓の音、聞こえてないよな)

「……ね、エイジ」

「はい!?」

「え、何でそんなビックリしてんの……?」

「あ、いや……」

──ヤバい、ミスった。

 ただ話しかけられただけなのに、ただ名前を呼ばれただけなのに、まるで後ろから警察に話しかけられたかのように、罪悪感を抱いている驚きの声を出してしまった。

 事実罪悪感は抱いている。先の反応もそうだし、リシアと二人っきりでベッドにいるのだからその、変なことも多少は考えてしまってるし。

「エイジ……ほれほれ」

 どこか煽るように、楽しげに。ニコニコ笑みを浮かべながら僕の頬を突いてくるリシア。僕はそれに反応し思わず彼女の方を見てしまい、目と目を合わせてしまった。

「エイジのほっぺ……意外とプニプニだね。女の子みたい」

(……っ!)

 "らしい"スキンシップに僕は恥ずかしくなって、彼女から顔を逸らそうとするが、僕の頬を突く彼女の指がそれを阻む。

「……ね、エイジ。意識しちゃってる?」

「へ!? な、何を……!?」

「私はね……意識しちゃってるよ」

「……んな……!?」

 頬を赤く染めながら、寝転びながらも器用に顔を俯かせながら、普段よりも恥じらいが入り混じった声色で、とても小さな声で呟くリシア。

 私も意識している。その言葉は、彼女が、僕と同じ事を考えている現れで──

「でもね……別にしたいってわけじゃないの、してみたいわけではないの。ただ、意識はしちゃってる……それだけなの……」

 変わらず僕の頬を突きながら、リシアはそう言い、僕の頬から指を離すと彼女は、右手で僕の右手をきゅっと、力強くも優しく握りしめてきた。

 そして、僕を見つめながら──

「寝よっか……明日も休みとはいえ、夜更かしは良くないもんねっ」

 と。微笑みながら言うと彼女は、ゆっくりと目を閉じた。視線は僕に合わせたまま、ゆっくりと。

 すぅすぅと聞こえる寝息、すぐそばにある彼女の可愛らしい顔、繋がれている手と手。

(……これで寝られたらさ……僕……世界最強の男だよ……)

 そんなくだらない事を心の内で呟きながら、僕は仕方なく目を閉じる。

 眠れない、眠れるはずがないこの状況で、それしか出来ることがなかったから。

(……おやすみ、リシア。僕は多分……眠れないけど)

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