303.違和感を感じる違和感
「あ、帰ってきた……」
ツインテールティアラちゃんの両触覚をぴょんぴょんさせて遊んでいると、玄関の扉が開く音がした。
次に聞こえてくるのは靴を脱ぐ音、その次は廊下に一歩踏み出す音。どっちがどっちの足音かまでは判別できないけれど、聞き馴染みのある足音を鳴らしながら、二人でこちらにやってくる。
「た、ただいまー……サラちゃん、クティラちゃん、ティアラちゃん」
最初に顔を出したのはリシアお姉ちゃん。何だか凄く満足げな顔をしている。デートが楽しかったからかな?
(……ん? でもなんかちょっと……恥ずかしがってるような……)
「……ただいま」
次に顔を出したのはお兄ちゃん。リシアお姉ちゃんとは正反対に、表情が見えないようにしているのか俯きがちで、リビングへとやってくる。
(……ん? なんかお兄ちゃんも恥ずかしがってるような……デート帰りを見られたからかな?)
なんて言う二人とも、いつも通りっちゃいつも通りなんだけど、ほんの僅かに違和感を感じる。
より仲良くなっていると言うか、すでに近づきすぎているはずの距離感がより近づいたと言うか、もはや一心同体に近いと言うか。
なんて言うか、なんて言うんだろう、なんて言うんだ?
「ふふふ……随分遅かったじゃないか。エイジ、リシアお姉ちゃん」
と。クティラちゃんがいつもの感じで、煽るようにお兄ちゃんたちに近づく。
彼らの目の前に辿り着くと同時に、ニヤリと笑みを浮かべて、ビシッと指で二人を指してから、クティラちゃんは口を開く。
「エイジ……風呂はすでに沸いてるぞ、入ってきたらどうだ? リシアお姉ちゃんとな」
「ぐげぇ!?」
「がはぁ!?」
「……えぇ?」
クティラちゃんのいつもの、カップル煽り風冗談を聞いた瞬間、何故か普段よりも大きく激しく大袈裟に、お兄ちゃんとリシアお姉ちゃんが反応した。
吐血する勢いの悲鳴と同時に、互いに背を向けるお兄ちゃんたち。こんなんだったっけ? 二人とも。
「くくく……冗談ですやん、と言うやつだ、二人とも。何をそんなに意識している?」
「いや! 意識なんかしてないよクティラちゃん! 全然してない全然してない全くしてない金輪際!」
「リシアの言う通り……だ……!」
まるで双子かのように、お互い同じ声量で、両手を激しく左右に振る似たような仕草で、クティラちゃんの煽りを必死に否定する。
私はそんな二人にめちゃくちゃ違和感を感じた。マジで、ちょっと、こんなんだったっけ? お兄ちゃんたちって。
「と、とりあえず私! 私、お風呂行ってくるね! 行ってきまーす!」
(……全力ダッシュだ。背景に風船が見えるくらいには全力ダッシュだ)
お兄ちゃんとリシアお姉ちゃんの不思議な言動、それから仕草に私は思わず首を傾げてしまう。
そんな私の頭を何故かティアラちゃんが、優しく撫でてくれた。
「……えっと? 何で、撫で撫でしてくれたのかな?」
「んにゃ? 何となく」
「……ありがと」
天使のような笑顔と、理解不能な幼さ全開の行動言動のギャップに戸惑いつつも、素直に嬉しかったの、私はティアラちゃんにお礼をする。
とりあえず、しばらくは様子を見ることにしよう。お兄ちゃんとリシアお姉ちゃんに何かあったかもしれないし、何もなかったかもしれないから、わかるまでは兎に角とりあえず様子見だ。




