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292.ぼえっ

 見飽きた景色。最初はとても幻想的だったし、美しいと思えたし、素敵だなと心ときめかせていたけれど、さすがに毎日見ていたら飽きた。

 薄紫色の空、薄ピンクの木、可愛い色だけで構成された地面。素敵だけれど、素敵すぎて、現実的じゃなくて、そこがいいのだけれど、だからこそ気持ち悪くも感じる。

 あまりにも理想通り。どこを見ても想像通り。だからこそほんの少しゲンナリ。

「……今日は来ないのね。あれだけ強く言えば当然……そういえば……彼は故意的に来ていたのかな……どうなんだろう……雰囲気や様子は何もわかっていない感じではあったけれど……でもこうして現れないと言うことはそれがそうである証拠……嫌な男だった……何目的で私に近づいたの……」

 手に持っていた本を閉じて、また開いて、それを自身の顔の上に乗せ、視界を暗闇で覆う。

 五感の一つが失われたからか。吹く風がより心地よく感じ、鼻腔をくすぐる香りはより強く、そして木々の揺れる音がダイレクトに聞こえてきた。

 夢なのに。私は今、夢を見ているはずなのに。どうしてこんなにも現実味があるのだろうか。

 意識がしっかりしているからと言って、身体全体もしっかりしているのは何だか、とても不思議に感じる。

 だけどそれも今更だな、と私は呟き、思わずため息をつく。

 そもそもどうして私はこうして、夢の中で意識を保てているのだろうか。夢を夢として認識し、その夢の中でこうして、生きていられるのだろうか。

 思考能力も、身体の動かし方も、何もかもが起きている時と変わらない。まるでこちらが、こちらこそが、現実であるかのように。

 私の思い描く理想世界。好きな色で構成されたこの世界。もしもこの世界が現実ならば──

(……気持ち悪いな)

 浸っていたい世界ではあるけれど、それにばかり依存するのは何だか少しだけ、気持ち悪い。

 何でだろう、どうしてだろう。こんな事、いつもなら思わないのに、感じないのに、意識しないのに。

(……頭おかしくなったか? 考えるな想像するな思い描くな……私自身が一番わかっている事じゃんか……私は……この世界に引き篭もるのが一番幸せなんだってさ……ぁ)

 訪れる頭痛、止まらないえずき、鳴り止まない耳鳴り、収まらないイラつき。

 何だこれ、何これ、やばい、私頭おかしい。

(……夢から覚める? 夢から覚め……たい? 私がどうして……何がきっかけ……あの男……? あの男……? は……? 何のフラグも立ってないし……私が一方的に話した……話しただ……け……?)

 私の夢に入ってきた男、同じクラスのあの男子。彼の顔を思い浮かべると同時に私は、思わず吐きそうになり、喉を鳴らし胃を暴れさせ目から涙を出してしまう。

(……っ……あ……)

 吐きはしなかった。けれど凄く、口の中が臭──


 *


「……ぅが……あー……うぇ……吐いてるのかよ私……リアルで……きっしょ……」

 目が覚めた。と同時に私は、口元の気持ち悪さと、嗅ぎ覚えのある嫌な臭いで全てを察した。

 意味がわからない。寝ながら吐くとか、マジでそんな事あるんだ。

 ていうかおかしい。どうして私は目が覚めたんだろう。以前吐いた時や、お漏らしをした時は私、目が覚めなかったのに。

 それほどに私の眠りは深く、夢を見ていたい気持ちは強いのに。

(……強いはずなのだけれど……弱まって……る? っぁー……そもそも私……自分のこの力? 能力? 素質? よくわからんし……たまたま寝続けられただけかもしれんし……たまたま起きてしまっただけかもだし……)

 とりあえず、私は起き上がって──

「……後始末しよ」

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