291.情景の第七曲
(エイジもサラちゃんもクティラちゃん姉妹も入ったし……私も当然入ったし……みんなお風呂に入って、みんな夜ご飯食べて、あとは寝る前の歯磨きだけか……あっという間だなぁ……)
夜の、午後十一時頃。私は隣に座るエイジに肩だけ預けながら、二人でボーっとテレビを観ながら、何となく一日を振り返っていた。
楽しい時間が過ぎるのは本当にあっという間で、もうあと数時間で朝になって、また新しい一日が始まってしまう。今日とは絶対に違う一日、同じような感じなのに確かに違う一日、本当はもっとしっかり大切にすべき一日が。
私とエイジってあと何日で卒業するんだろう、と時折考えたりする。あと何日で夏休みとか、あと何日でテストとか、あと何日で新年明けましておめでとうなのかとか、それらと似たノリで。
高校を卒業してしまったらもう大人だ。一応大学や専門学校に行けば学生ではいられるけれど、それでも責任感とかが段違いだろうし、立派な大人だ。
大人になったならば自分の人生をちゃんと考えないといけないし、大人になったからにはしっかり将来を考えないといけない。二回、同じようなことを言ってしまったけど、それだけ大人になったら、ちゃんと人生に向き合わないといけないと私は考えている。
今は学生だから、扶養の身だから、特に考えずにのほほんと暮らせているけれど、それもいつかは終わる。終わらせないといけない。だっていずれ人は皆、大人になるのだから。
大人になるんだから終わらせないといけない。諦めないといけない。今続いてるもの、これからも続けたいもの、それらを取捨選択しなければならない。
(……エイジ)
彼の名前を心の内だけで呟きながら、彼の顔を見ながら、私は彼を改めて想う。
最近色々なことがありすぎて、変化が起きて、だからほんの少しだけ不安になってしまう。
私の思い描く未来、それの実現って、どれだけ大変なんだろうって。
言うなれば私は今、夢を見ている状態だ。大好きなエイジと一緒に暮らせて、大好きなサラちゃんと仲良しで、クティラちゃんとお話しして、ティアラちゃんに癒されて。何の不自由も不満もない、私の思い描き見続けたいと願う素敵な夢。
でもそれは今、私たちが幼馴染で学生だから、実現出来ているんだと思う。幼い頃から何となく一緒にいて、そのまま何となく過ごしてきたから、過ごせていたからこその現在進行形。
理由もなく一緒にいる私たち。これまでそうだから今もそうである私たち。好きなのに、きっと彼らの方も好きなのに、好きとは伝えても本心からはそう伝えずに、それでも好き合っている私たち、どうしようもなく依存している私、依存し合っているであろう私たち。それを保とうと、続けようと、見続けようと思ってはいても、そうあるべきだと行動には移せていない。
夢だから、今だ私たちが過ごしているこの現実は夢だから、夢に過ぎないから。望んで得たのではなく、いつの間にか浸っていて、それでいて続いている、不安定なものだから。
「……どうしたんだ? リシア」
「……んーんっ。何でもない……」
誰かが言っていた、夢は必ず叶う、信じて願い続ければ叶うと。
だけどそれって間違っていると思う。見たいよ、見続けたいよと願うだけじゃ、それを得られたとしても夢のままで終わっちゃうんじゃないかな。
人は寝ている時に夢を見る。寝ているからこそ夢を見る。幸せな一時、何も恐れる必要のない一時、素敵な一時、出来れば感じたままでいたい一時。
でもそれって、本当の本当に一瞬。私たちは生きているんだから、寝ているだけではダメ。
夢を夢のままにしておいたら、きっといつか覚めてしまう。必死に目を瞑り続けても、寝よう寝ようと必死に目を瞑っても、必ず覚めてしまう。
だったら変えなきゃならない。立場を逆転させないといけない。入れ替えなければならない。夢を見続けるためには目を覚まして、覚めた状態でも夢を見れるようにしなきゃいけない。
夢を夢として終わらせるのではなく、夢を現実として昇華させないときっと、ダメなんだと思う。
(……うん、決めた。私……今週中にエイジに告白する……大好きだって告白する……夢を叶える……叶えて……叶えて……夢を終わらせてみせる……)




