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29.来寇来訪魔女襲来! あるいは妹との何気ない日常

「ふふふ……クティラちゃんどう!? お兄ちゃんはどう!? これが私が丹精込めて愛情込めて作った晩! ごはん!」

 クティラのように、腕を組みながらドヤ顔をするサラ。

 机の上にはカップラーメンが三つ置かれている。すでにお湯を注ぎ済み。

 作ってくれたから文句は言わないが、お湯を注いだだけなのに何故そんなにドヤ顔ができるのだろうか。

「……あ、三分経ったからクティラちゃん食べていいよ。お兄ちゃんと私のは五分だからもうちょっと待ってね」

「いただきまーす……ズビズバ」

 小さいが故机の上に座ってカップ麺を食べるクティラ。正座をしながら食べているからお行儀が良いのか悪いのか微妙にわからない。

「うむ……普通だな!」

「そ! 喜んでくれてるようで何より何より!」

 満足げに叫ぶクティラを見て、サラはニコッと笑いながら頷く。

「……あ、そだ」

 と、サラは何故か僕の隣の席へ、自分のカップ麺を持ってやってきた。

 丁寧に机の上にカップ麺を置き、椅子を勢いよく引いて、ちょこんと音を立てずに彼女は座る。

「……なーにお兄ちゃん。私のことじっと見て」

「……え、あ、いや。なんで隣に来たのかなって」

 僕の視線を感じ取り、サラが挑発するような目で僕を見つめ返してきた。

 口角を軽く上げ、バカにするように小さく鼻息を吹くサラ。若干ムカつく。

「ほら……お兄ちゃん今体調悪いでしょ? 私が食べさせてあげようかな……って」

 首を傾げながらサラが提案する。僕はそんな彼女に向けすぐに首を横に振って答えた。

「別に……自分で食えなくなるほど弱っているわけじゃねえよ」

「……あっそ」

 と、不機嫌そうにそっぽを向くサラ。

 わからない。微妙にわからない。今のサラは優しいのかどうなのか、絶妙にわからない。

「あ、五分経ったよ? お兄ちゃん食べよ食べよっ」

 タイマーの音が鳴った瞬間、ペリペリと隣から蓋を剥がす音が聞こえきた。

 僕もそれに倣い、まずタイマーを止めてから、蓋を剥がした。

 後入の油みたいなのを入れて、付属の海苔を入れて、割り箸でテキトーにくるくると混ぜる。

 そして麺を取り、口に含んだ。

(……普通に美味しい)

 美味しかった。けれどそれ以上でもそれ以下でもない。何の感想も湧いてこない。

 僕は何も考えずに食べ進めていく。

「ねえねえお兄ちゃんお兄ちゃん。これ美味しいよ? ほら食べてみ食べてみ?」

 と、サラが数本の麺を絡ませた割り箸を僕に差し出してきた。

 グイッと、グイッと、徐々に割り箸が近づいてくる。

「ほら、あーん」

「……食わないとダメか?」

「……どりゃ!」

「ぐボォ!?」

 僕が渋っていると、サラが勢いよく割り箸を口の中に突っ込んできた。

 口の中に広がる小麦の香り。何味かはわからないけれど刺激的な濃いスープの味。確かに美味しい。

「ね? ね?」

 ニコニコしながらサラが感想を求めてくる。僕は口には何も出さずに、ただ静かに頷いた。

(くそ……右のほっぺが若干痛い)

 ズキズキと痛む右の頬を僕は軽く摩る。割り箸アタックは存外危険なのだ。

「……ねえお兄ちゃん。私、お兄ちゃんの食べてみたいな……」

 と、サラが僕の肩をチョンっとして、僕が食べていたカップ麺を指差した。

「ああ……別にいいよ食べて」

 僕はケチな人間ではないから、妹の催促にイエスと答えた。

 ので、僕は箸を止め、彼女が一口食べるのを待つ。

「……ん?」

 視線を感じた。じっと、じっと、じっと。縋るような視線。

 視線を感じた方を見ると、サラがじっと僕を見つめていた。

「……じー」

 じー、と言った。

「……じー」

 もう一回言った。

「ど……どした?」

 僕が質問をしても、サラは答えない。

 ただじっと、じっと見つめてくるだけ。

 そこでようやく、僕は察した。

(もしかしてコイツ……あーんってして欲しいのか?)

 多分そうだ。恐らくそうだ。きっとそうだ。

 でも何でだろう。普段はこんな事してこないのに。

 時折来る他人に甘えたい欲求が、サラの中で爆発でもしたのだろうか。

「……はあ。ったく」

 今日はサラに助けられたし、それくらいしてあげるか。

 僕は一度ため息をついてから、麺を数本箸に絡ませ、持ち上げる。

「ほい」

 と、それをサラの目の前に差し出した。でも彼女は動かない。

 変わらずじっと見つめてくる。じっと、ずっと。

(……あれを言えってことか)

 僕は心の中だけでため息をついて──

「……あーん」

 と、小さな声でそう言った。

「ん……」

 すると、サラは嬉しそうに僕に箸を口に含んだ。

 器用に一口で麺を全て己の口の中に含ませ、箸を口内から出すサラ。

 口を動かして咀嚼開始。表情を変えないまま、彼女は麺をゴクンと飲み込んだ。

「うーん……私のやつの方が美味しいや! ラッキー」

 と言いながら、彼女は僕から視線を外し、自分のカップ麺を食べ始めた。

 そんなサラを見て僕はため息をつく。時折面倒くさいのは何なんだろうこの妹は。

 僕は箸を構え、麺を掬い、自分の口へと──

(……これさっき)

 麺を食べようとしたその瞬間。脳裏にサラの唇が思い浮かんだ。

 僕が今使っているのは、先ほどサラが咥えた箸。

 きっとサラの唾液がついている。もしかしたら、彼女の唇の味も。

(……まあ、別にいいか)

 よく考えれば、サラが使っていた箸がさっき僕の口に無理やり入れられたし、今更間接キスなど意識する必要はない。

 そも兄妹だし、そんなに気にするものでもないだろう。衛生的にどうなのかは知らんけど。

「……私は何でエイジとサラのイチャつきを見せられているんだ?」

 と、クティラが呆けた顔で僕たちを見つめながらそう呟いた。

「別にイチャついてねえよ……」

 と、とりあえず僕はクティラの呟きに反論しておいた。

 とりあえず、ラーメンを食べ進めようと考え、僕は麺を口に含む。

 と、その時だった。

「アアアアアちゃあああああああああんんんん!!!」

「はあ!?」

 ガラスが派手に割れる音がした。それと同時に、部屋に何かが突っ込んできた。

 つまり、何かが窓ガラスをぶち破りながら部屋に侵入してきたと言うことだ。なにが起きたんだ!?

「へ!? へ!? へ!?」

「ヴァンパイアハンター……ではなさそうだな」

 飛び散ったガラスの破片を全身に纏いながら、リビングの真ん中あたりにそれは倒れ込んでくる。

「あいたたたたた……やっぱりガラスに突っ込むのはやり過ぎたかな。でもでも早く会いたいから仕方ないよね仕方なかったよね! うんうん!」

 それがゆっくりと立ち上がる。全身に付着したガラスの破片を手で払いながら、その人ニコリと笑った。

 アニメや漫画で魔女がかぶっているような帽子。漆黒のはだけたドレス。手に持っているのは大きな箒。

 誰が見ても一目でわかるほどに魔女魔女している格好をした女性が、ガラスをぶち破って突入してきた犯人だった。

「さてさて……このウルトラスーパー妹レーダーの示す妹力六万の子は……っと!」

 どこからか取り出した、大きな時計のようなものを手に持ち、女性──魔女がキョロキョロと辺りを見回す。

「だ……誰あの人? お兄ちゃんの知り合い?」

「んなわけないだろ……」

「あ! いた! でもやっぱりアーちゃんじゃないかぁ……」

 と、魔女がサラを指で差しながら叫び、わかりやすく肩を落として落胆した。

「……くんくん……でも感じるぞ……微かに確かに僅かに感じるぞ……アーちゃんの甘い匂い……!」

「うわっ!?」

 僕が瞬きをした瞬間、魔女が一瞬で僕の目の前に現れた。

 魔女は僕の周りをウロチョロと回り始め、何故か匂いを嗅ぎ始める。

「少年……さてはアーちゃんと知り合いだな?」

 顎に指を這わせながら、ニヤリと魔女が笑う。

(今少年って言ったか……?)

 魔女の言葉に疑問を持ち、僕は思わず自分の体を見回す。

 胸がある。手のひらが柔らかい。間違いない、僕はまだ女の子の状態だ。

 なのに何故、魔女は僕を少年と呼んだんだ?

 この女、一体何者なんだ?

「ふふふ……気になっているようね、私のことが!」

 と、魔女は手に持っていた箒をくるくると回し始め、それで勢いよく床を叩いた。

「私の名前はラルカ・エメ・ジェメレンレカ・ジテム・ジタドール・ヴゼムジュビアン・ラフォリアムテージュ・アドレ! 愛しの妹アーちゃんを探して三千里! この世界最高最強の魔女になる予定の麗人かつ超人よ!」

「また変な奴が増えたな……!」

 ドヤ顔で自己紹介をする魔女──ラルカ。

 また一波乱ありそうだ。そう思うと、思わずため息が出る。

「なあエイジ……あの魔女の名前、長すぎないか?」

「……お前が言うか? クティラなんたらかんたらうんたら」

「クティラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトだ」

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