286.懐かしむ場所
(思えば愛作家……あ、クティラちゃんを除いて……えっと……エイジとサラちゃんがウチに遊びに来るなんて……あれ? 遊びに来たのか? えっと……ともかく兎にも角、二人がウチに来るの何年振りだろ……うわ……ちょっとソワソワする……)
長い間一緒にいるのに、どうしてかウチに彼らを上げる時、私はどうしようもなくドキドキしてしまう。
愛作家にお邪魔する時は別にドキドキしないし、エイジもサラちゃんにもそんな様子は見られないのに、どうしてだろう。
もしかして二人も私と同じで緊張しているのかな。と、そう思い私は振り返ってみる。
(……んー……)
クティラちゃんは物色するようにキョロキョロ辺りを見回しながら歩き、サラちゃんはやけにニコニコしながら私の真後ろを歩き、エイジはどこか恥ずかしそうにほんの少し俯きながら、普段よりも足取りが重かった。
(……私とエイジだけお揃いかー)
私は誰にも聞こえないように小さく息を吐き、廊下を歩き続ける。
リビングへの扉。それが見えたと同時に足の進む方向を瞬時に変え、進むと同時に手を伸ばし、私はドアノブを掴んだ。
そして、捻ると同時に押し出し足を踏み出し、私はリビングへと入る。みんなもそれに続いて、不揃いな足音を立てながら私の後を追う。
「ほぅ……これがリシアお姉ちゃん家のリビングか」
「お兄ちゃんとリシアお姉ちゃんとよく遊んだなー」
「……久しぶりに見た」
どこか偉そうにクティラちゃんが、あまり興味なさげにサラちゃんが、小さすぎる声量でエイジが、各々の感想を呟く。それらを私は、私に聞かせようとは思っておらず、自然に出てしまった声のように感じた。
なんか、すごく自然な雰囲気なのに。すごく違和感を感じる。面子は同じなのに場所が違うからかな? 場所が違うだけでこんなに変わるものなのかな。
「……んぇ? あれ? ティアラちゃんいるんだけど……え? なんで? リシアお姉ちゃん、ティアラちゃん誘拐した?」
「ぴぇ……?」
指でソファーを指しながら、サラちゃんが若干困惑した様子で、ティアラちゃんが何故ここにいるのかを聞いてきた。
それを聞いた私は思わず首を傾げながら、変な声を出してしまう。だって、ティアラちゃんが私の家に来ている事、サラちゃんは当然知っているものだと思っていたから。
「朝からいないなぁと思ってたけど……リシアの家に居たのか」
「……ぴぇ?」
エイジも疑問が解消したかのように、どこか納得したように小さな声で呟く。
この様子、この反応、エイジもティアラちゃんが私の家にお泊まりしていた事を知らなかったって事なのかな。嘘でしょ。
(ティアラちゃんが昨日来たの何時だっけ……結構夜中だったような……うぅ……あの時全身痛すぎて何も覚えてない……)
必死に、必死に必死に必死に私は思い出す。ティアラちゃんが何時頃にきたのかを。
場合によってはエイジとサラちゃん、それからティアラちゃんを怒らないといけないから。前者にはちゃんと小さい子の面倒を見なきゃ駄目と、後者にはお出かけする時はちゃんとお家の人に誰の家に行き、いつ帰ってくるのかをちゃんと伝えないと駄目、と。
(……ん? そういえばティアラちゃん……クティラちゃんに言われて私の様子を見にきた、みたいな事言ってたような……)
それを思い出して私は、すぐにクティラちゃんの方へと視線を向ける。
すると彼女は私の意図に気づいたのか、少し驚いたかのようにほんの少しだけ目を見開くと、すぐにいつものドヤ顔に戻り、プイッと私から顔を逸らした。
(……なんか隠してるよね、クティラちゃん。どうしてか私が怪我をしたのを知ってたみたいだし……ちゃんと聞かなきゃ)




