283.気づきづらい猶予期間
(……お兄ちゃんったら、クティラちゃんったら。私を置いて帰るなんて全くもう……全くもう……!)
学校の帰り道。私は友人と一緒に下校していた。
本当はお兄ちゃんとクティラちゃんと帰ろうと思っていたんだけど、教室に着いた時にはもぬけの殻。一応、お兄ちゃんの親友さんが一人教室にいたけど、なんか遠回しによくわからない事を言ってきたから、テキトーに相手をしてすぐ離れた。
その後、ギリギリまだ教室に居た友人を捕まえ、今に至る。誰に説明してるのかよくわからないけれど、兎にも角にもそうして今に至るのだ。
「ねえサラ……私思うんだけどね」
と。友達が話しかけてきたので、私は相槌を打ちながら彼女の方へと顔を向ける。
それとは正反対に。話しかけてきたにも関わらず、友人は私の方へ顔は向けず、真っ直ぐ前を見つめながら話を始めた。
「私ってさ……サラの事好きなんだよねぇ」
「え、何? 告白?」
「いや……普通にライクだけど……。勘違いする? 普通そんなさぁ……」
「えと……中学の時にその、たまに女の子から告白されたから……」
「え、嘘」
「ほんと」
「やばぁ……」
「……それで? 私が……好きだからその……何?」
「あ、やば。話ズレてた」
苦笑いしながら、照れくさそうに身振り手振りをする友人。女の子全開なその仕草にちょっと萌えつつ、私は話を聞くモードに入る。
「あのね……私、ほんとサラの事好きなの。可愛いし……優しいし……いい匂いするし……一緒にいて楽しいしさっ」
「……やっぱり告白?」
「違うって、ライクだって。兎にも角にも私はサラの事が好きなんよ。だからね、こうして日々を過ごしてると思うわけ。来年もサラと同じクラスがいいなーってね」
「……へー」
まだ夏休みにも入っていないのにもう来年のこと考えてるんだ。と感心しつつ不思議に思いつつ、私は相槌を打つ。
それにしても本当に急だなこんな話。まだ中間テストも始まってないのに。
「なんだかなぁ……ほら、今日の世界史ってプリントの空白少なかったじゃん? だから暇だから、色々考えてたわけ。将来の職業、進む学科、進路選択、そして希望校を」
「大人だね」
「寧ろ子供だよ。あれしたいこれしたいーって特に何の不自由もなく考えられちゃうんだから」
「……なるほど」
「それでね、思ったわけ。先輩が言ってたんだけど……二年から選択科目? みたいなのがあって、それの事前アンケートみたいなのでクラス分けられるんだって。それってつまり、似たような進路じゃないと仲の良い友達と二年目も一緒に過ごせないって事じゃん? 学校ってさ……仲の良い友達と過ごす時間があるから勉強も頑張れる側面があるでしょ? 自分の希望と相手の希望が違ったらさ、どんなに仲が良くても離れ離れになっちゃう可能性があると考えると……ちょっと嫌だな、寂しいなって私は思ったの」
「へぇ……でもさ、なんか聞いたことあるよ? 先生たちは生徒の交友関係把握していて、ある程度バランスよくクラス分けするみたいなの」
「そんなの表面上の様子でしか判断できないじゃん……それが合ってるか否かなんて結果を見た本人たちだけがわかるんだし」
「んー……そーかもねー」
なんて風に。私たちはとても大事な話をしているようで、その実物事の全容を把握していないが故に想像で補いすぎている仮定で、会話を進めていく。
こう言う会話、何となく楽しく感じる。なんて言うか、私たちも大人の事情をちゃんと考えられてるよーって気持ちになれて、自分たちが立派な一人の人間であるかのように感じるから。
実際には、知ったかぶり二人がそれっぽく会話をしているだけなのだけれど。
「……こんな風にサラと楽しく下校できるのもさ、もしかしたら一年も無いのかもしれないじゃん? だから私、今日からサラとの一日一日を大切にして行こうと思うの」
「……ねえ、ちょっと待って。私思い出したんだけど……中二の時もこんな感じの話しなかった?」
「……してないけーど?」
「その顔! 絶対してるじゃん! ていつか今思い出したじゃんあなたも!」
「……ふんふんふーん。ふんふんふーん」
「……鼻歌で誤魔化せると思ってるわけ?」
「……あうっ。頭叩かないでよ……」
「軽くだからいいじゃん……私もたまに叩かれるし、そのお返し」
「……じゃあこれで貸し借りなしね」
「……私、何も貸した覚えないけどね」
笑い合いながら、じゃれ合いながら、仲良ししながら、私たちは楽しみながら帰路を歩き続ける。
改めて思うと確かに。私たちはいつまでこうして、仲良く一緒に帰れるんだろう。高校生活は後二年以上あるけど、それって結構長いから、この関係が維持できるか否か、よくよく考えると少し不安になってくる。
でもまあ、なんだかんだで仲良しのまま過ごせそうかなとは思う。だって私たち、ずっとこんな風に仲良く過ごしてきたんだから。
そう。平凡な日々をこんな風に、仲良く仲良く過ごしてきたのだから。なんだかんだで続くのだろう。高校生活が終わるその時までは─




