277.ちょうちょ
「はいお兄ちゃん。今日の朝ごはん、チーズトースト」
サラが笑顔を浮かべながら皿を持ってきて、椅子に座る僕の目の前に置く。
「ありがとう」
お礼を告げてから、僕はそれを食べる。
味は美味しい。しないけど美味しい。
「エイジはコーヒー飲む?」
リシアが問う。
「えっと……飲もうかな」
僕は頷きながら答える。
「じゃあはい、どうぞ」
リシアが笑顔を浮かべながらコーヒーを持ってきて、椅子に座る僕の目の前に置く。
「ありがとう」
お礼を告げてから、僕はそれを飲む。
味は美味しい。しないけど美味しい。
「エイジ。鯨の群れがあろうことか我らが王を滅したらしいぞ」
クティラが新聞片手に話しかけてくる。
「まあ……最近の世界って全国不景気みたいだし……値下げは仕方ないんじゃないか?」
僕はクティラに向け返事をする。
「そうかな……私は大根が美味しいと思うけど……」
リシアが会話に混じり、自分の意見を言う。
「エイジお兄ちゃん、構ってー」
突然現れたティアラちゃんが、手に持つバットで僕を指す。
なので僕はソファーから立ち上がり、手に持つ皿を彼女に目掛けて投げた。
するとティアラちゃんは、僕の投げた野球ボールを見事ラケットで打ち、ホームランを成功させる。
「わーい!」
喜んだティアラちゃんは自転車に乗りながら、窓を割り外出。
そんなティアラちゃんを、サラが全力ダッシュで追いかけて行った。
「ねえお兄ちゃん、明日って何曜日の宿題を休日にやるんだっけ?」
隣に座るサラが話しかけてきたので、僕は答える。
「多分……ドレスが喜ぶんじゃないかな?」
「あーなるほど……オッケー」
僕の返事を聞くとリシアは立ち上がり、歩きながらその場から去った。
(……いつも通りだなぁ)
*
「……っ……ん……ん?」
目が覚めた。頭がボーッとしている。
とりあえず僕は上半身を起き上がらせた。目が覚めてしまったから、二度寝するほど眠気が強くは無かったから。
辺りを見回すと見覚えのある部屋、場所。僕の部屋だ。何の違和感もない、僕が普段暮らしている部屋。
ベッドの上ではクティラとサラが一緒に寝ている。それを見て、僕は一人床に布団を敷き寝ていたことを思い出しながら、ついでにあくびをしながら立ち上がった。
(なんか……すごい変な夢を見ていた気がする……)
夢を見ていたことは覚えている。誰かと会話を交わしたり、微妙に非現実的な日常を過ごしていたり、した気がする。
夢を見ていた時には、確かに起きた出来事を認識していた。けれど目が覚めた瞬間、それは全て失われてしまったらしい。
やけに現実的で、だけど夢だとハッキリわかって、それでも違和感は感じなくて、それでもやっぱりどこかで不安を感じていた。ような気がする。
(こういうの何て言うんだっけ……何とかの夢……みたいな表現あったよな……?)
何も思い出せない、思い浮かべられない、記憶にない。残っているのはただ、夢を見ていたという事実だけ。
(まあいいや……ついでにお茶飲んでトイレ行ってから寝よ……)
ふわぁ。と大きくあくびをしてから、僕はゆっくりと足を動かし始め、ノロノロと部屋を出て行った。




