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28.頭痛生理痛情緒不安定

「暇だー暇暇暇暇暇暇」

「……人の腹の上で跳ねないでくれ」

 午前十一時半。僕とクティラは、僕の部屋のベッドの上で寝転んでいた。

 やることがない。学校を休んでいるのに友達とチャットするわけにはいかないし、昨日は宿題が出ていないからやるべき事もない。

 ソシャゲも軒並み飽きてやる気起きないし。僕は本棚に置いてあった漫画を仕方なく読んでいた。

「……展開全部覚えてると初回ほどの驚きはないな。もう少し忘れてから読み直そ」

「わあエイジ!? 急に動くな!」

 誰に聞かせるでもなくそう呟き、僕はベッドから立ち上がり、漫画を本棚に戻した。

 はあ、とため息。普段から暇な時間を望んでいるのに、いざ手に入れたらそれがキツいってどうなってるんだろう。

 逃げたいだけか。やるべき事から逃げたいから暇な時間を望んでいるのか。だからやるべき事がない今、暇を手に入れても不満というわけか。

 なんて傲慢。なんて我儘。これが人間か。

 みたいな感じで、悟った風に語ってみた。思い返すと厨二臭くて少し恥ずかしい。

「ぐ……バタンキュ……」

 と、誰かが力尽きる声がした。

 弱々しく、絞り出すように、それにしては間抜けな悲鳴をあげながら倒れたのはクティラだった。

 顔が若干青くなり、苦しそうな顔をしている。

「ど、どうしたクティ……!?」

 彼女の元へと駆け寄ろうとした瞬間、腹部の下あたりから酷い痛みを感じた。

 ズキズキする。内側から尖った何かを突きつけられているかのような感覚。

 胸の辺りも少し変だ。妙に張っているというか、無理矢理膨らまされているような感覚。

「んだよ……これ……!」

 今まで感じたことのない痛み。不思議な痛み。どうしようもない痛み。

 昨日食べたものに当たったか? いやそんなわけがない。昨日の夜ご飯はリシアが作ってくれた豚汁、それが食中毒を起こすわけがない。リシアがそんなミスをするわけがない。

 というか、腹部の辺りが痛いのであって、お腹が痛いというわけではない。便意も感じないし、下痢が溜まっている時の腹が膨らむような痛みでもない。

 頭がクラクラし始めた。うまく立っていられない。僕はゆっくりと、それでも確実に前進しながら、自分のベッドへと這うように向かう。

「……はあ……くそ……!」

 敵の攻撃だったりするのだろうか。例えば、ヴァンパイアハンターが作った新型の兵器とか。

 でもそんな気配は感じないし、見覚えのない物もない。僕の部屋はいつもと変わらない。

「エイジ……何なんだこれは……」

 普段の自信満々唯我独尊なハリキリ声ではなく、女の子らしく可愛らしい声色で弱音を吐くクティラ。

 大体何でも知っている彼女でも、僕たちを襲う痛みの正体には気づけていないようだった。

 助けを、助けを求めなければ──

「……っしょ……っと!」

 必死にベッドの上に寝転び、僕は枕元に置いてあるスマホを手に取る。

 そしてメッセージアプリを開き、サラとのトークルームを開いた。

 右上にある電話のアイコンをタップし、僕はサラに電話をする。

 一秒、二秒、三秒。僕の耳元に、コール音が鳴り響く。

 四秒、五秒、六秒。突如コール音が途切れ、人の話し声がかすかに聞こえてきた。

「……お兄ちゃん? 私今授業中なんだけど……!」

 ヒソヒソ声でサラから返事がきた。

 そうか、今授業中か。すごいな、授業中に電話に出るだなんて。

「お兄ちゃん……? 用がないなら切るよ……?」

 切られたら困る。だが、腹部周辺の痛みはいつの間にか更に増しており、声を出すのすら苦しい。

 僕は必死に、端的に、確実に、正確に、絶対に要件を伝えられるよう。簡単な言葉でサラに向かって助けを乞うた。

「身体がやばい……助けて……」

「え……? だ、大丈夫なのお兄ちゃん……!? お兄ちゃ……待っててよお兄ちゃん……!」

 サラがそう言うと、電話はブツっと唐突に切られた。

「……くそ」

 悪態を吐きながら、僕は痛みから逃れようと必死に目を瞑った。



「お兄ちゃん……?」

 何かが聞こえる。

「お兄ちゃんってば……」

 身体が揺らされる。

「ねえったら……!」

 頭が上手く回らない。身体は揺れているのに。

「もう……! お兄ちゃん起きてってば!」

「おわぁ!?」

 唐突に耳元で爆音が鳴り、僕は思わず起き上がってしまった。

 視界がぼやけている。起きたばかりだからだ。

 僕の目の前に誰かがいる。僕は目を擦りながら、徐々に脳を目覚めさせていく。

 と、同時にあの腹痛が僕を襲ってきた。思わず吐きそうになってしまう。

「おはよお兄ちゃん。大丈夫……?」

 視界がクリアになると、目の前にいた人物がサラだとわかった。何故か彼女は僕に馬乗りをしている。ついでに頭も撫でてきた。

「ほらお兄ちゃんこれ飲んで。私のだけど特別に貸したげる」

 心配するような顔をしながら、サラが何かを差し出す。

 僕はとりあえずそれを受け取る。彼女が差し出してきたのは、コップ一杯の水と謎の錠剤。

「なにこれ……?」

「鎮痛剤。お兄ちゃんに合うかわかんないけど……」

 と、サラは僕の上から降りて、なにやらブツブツ呟きながら、部屋を回り始めた。

「うーん……もし来たら私の貸してあげればいいよね……残ってたかな……残ってるはずだけど……」

 サラの呟きを聞いてみたが、正直何の話をしているのかはわからなかった。僕とは関係のない話なのかもしれない。

 とりあえず僕はサラのくれた鎮痛剤を水で流し込んだ。しばらく経つと、痛みが徐々に消えていった。

「……ふう。ごめんサラ。本当に助かった」

「いいっていいって別に。じゃあお大事にー」

 と、サラは手を振りながら部屋から出ていった。

「……はぁ。なんだったんだあの痛みはほんと」

 僕がため息をつくと、いつのまにか肩に乗っていたクティラも同じようにため息をつきながら言った。

「サラ曰く生理前痛だそうだ……二度と味わいたくないな」

「……は? 何それ」

 僕は思わず首を傾げた。今クティラは何と言った?

 生理ならまだわかるけど、生理前痛? 聞いたこともない。

「……ていうか生理って……嘘だろ……なるのこの身体……?」

 以前、何かの番組で辛さを語っているところを見たことがあるが、正直なにも意識してなかったから覚えていない。

 とりあえず、その状態になると辛く苦しい人がいる。程度の認識しかなかったのだが──

「私たちは半パイアだからな……本来ヴァンパイアに生理など存在しないのだが半パイアが故……最悪だ……」

 と、クティラが残念そうに語る。

 僕もそれを聞いて、思わずため息をついた。

 もしかしてこれからも起こり得るのか? 女の子特有の何かが──

(ていうか生理前痛って……じゃあこの後もしかして──)

 僕はそれを想像して、自分への嫌悪感と気持ち悪さと、体験するかもしれない恐怖感に怖気付き思わず吐きそうになってしまった。

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