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272.カンニングは駄目だよ

「……ん……んー……ん……あふ……今何時……?」

 夜中、目が覚めてしまった私は独り言を呟きながら、あくびをしながら寝転んだまま背伸びをした。

 なんかいつもよりベッドが狭い気がする、と思った瞬間思い出した。そうだ、私、今日はティアラちゃんと一緒に寝てたんだった。

 仲良くお喋りをしている間にいつの間にか眠ってしまっていたみたい。確かティアラちゃんの方が先に寝てたと思う。途中途中で目がしょぼしょぼし始めて、可愛らしく猫みたいな鳴き声を出しながら沢山あくびをしていたし。

(……おしっこ)

 私は隣で寝ているティアラちゃんを起こさないようにそっと起き上がり、触れないように邪魔をしないように慎重に動きながら、ベッドから降りる。

 何も踏まないように、足音を鳴らさないように。慎重に慎重に部屋の中を歩き、少しでも音を出さないよう、これまた慎重にドアノブを捻り、そっと扉を開け、廊下へと踏み出す。

 真っ暗な廊下、静かな廊下、そこに差し込む一筋の光。その光は、お父さんの部屋から漏れている本当に小さな光。

(お父さんまだ起きてるんだ……お仕事かな……大変そう……邪魔にならないようにしなきゃ……)

 忍足で、私は廊下を歩き出しお手洗いへと向かう。

 お父さんの部屋の前を通る時、彼の部屋から話し声が聞こえてきた。こんな夜中なのに電話をしながらお仕事してるのかな。

(私も大人になったらお父さんみたいに夜中まで仕事をする……なんて事があるのかな。やだなぁ……夜はちゃんと寝れる職業に就きたい)

 兎にも角にも私は歩き続け、お手洗いを目指す。

 数秒、数分経った頃。ようやく目当ての場所へと辿り着いた私は、思わず安堵のため息をついた。


 *


 お手洗いを終えた私は、洗面所で手を洗いながら、鏡を見ながら自分の姿を確認していた。

 あんなに傷だらけだった顔もすごく綺麗になってる。痣一つ残っていない。下手したら普段の私よりも綺麗になってるかも。心無しか、肌も数段潤ってる感じだし。

 ティアラちゃん様様だ。ありがとうティアラちゃん。この場にはいない、おやすみ中の天使にお礼を告げながら私はタオルを手に取り、手を拭いた。

 洗面所の電気を消し、私は再び忍足で廊下を歩き始める。

 真っ暗な廊下、そこに僅かに差し込む光。お手洗いに入る前後と何ら変わりのない廊下に不思議と安心感を覚え、私は自分の部屋へと向かい始めた。

 しばらく歩くと聞こえてきたのはお父さんの声。何やら楽しげで、だけど真面目そうな声色で誰かと会話をしている。仕事をしている大人の声色って感じ。例えるなら、学校で先生同士が話している感じに近いかも。

(大人か……来年……ていうか再来年は私も卒業だし……どんどん近づくなぁ……大人に)

 実感の湧かない未来にほんの少しだけ怯えながら私は、お父さんの邪魔にならないよう、彼が私に気づかないよう、より慎重に歩を進める。

 大人、大人、大人。将来、将来、将来。未来、未来、未来。

 何度も何回も考えていることだけど、私の未来は、未来の私は、エイジとサラちゃんと一緒にいるのだろうか?

 将来が不安、学生なら誰でも抱く感情。でも私の場合は少し、ほんの少しだけ違う気がする。

 みんなが抱えているのは将来どういうふうに生きるのかなとか、安定した収入を得られるのかなとか、どれだけ稼げるのかなとか、誰と結婚できるのかなとか、そんなのだと思う。

 でも私は、未来ではない現在が、過去から変わらず未来であり続けることを望んでいる。気がする。

 気がする、じゃない。きっとこう考えている、そう望んでいる。

 みんな隠してるだけで言わないだけで、もしかしたら私と同じ様なことを思っているのかもしれない。

 だけど頑張って、逆張って、諦めて。大人になるしかないと、大人になって生きるしかないと、今の日々を捨てなければいけないと、ため息をついているのかも。

 いや違う。現状が嫌で嫌で仕方なくて、それを変えようと頑張っている人もいるはず。そんな人たちは、より良い未来を目指している、望んでいるはず。

 どれが正しいんだろう。誰が正しいんだろう。誰かそれを教えてくれないかな? わからないとずっと悩んで悩んで悩み続けて、何もできなくなって、動けなくて、後々後悔しそう。

 知りたいなあ未来。だけどそれがわかった時私は、変えようと努力するのか、無駄だと諦めるのか。どっちの行動を取るんだろう。

(……夜中だからかな。なんか私今頭悪い……バカになってる……自分で考えてることなのに何言ってるのか全然わからない……)

 ふわぁ、と小さくあくびをして。私はゆっくりと、自分の部屋の扉を開けた。

 そして──

「……おやすみなさい」

 そう誰かに呟やきながら、私はそっと扉を閉める。

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