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267.幕間

「クソ……もう少し優しく接するべきだったな……なぁ安藤リシア……快調好調絶好調なお前だがその実身体はボロボロだ……動けんのか理想通りによ……」

「らしくない心配しないでよ……」

「心配してるわけじゃぁない……後悔してるだけだ」

 彼は全身をゆらゆらと、大きく揺らしながら私を睨みつけてくる。

 不機嫌ではなくご機嫌な様子で。この人、どうしてこんなに私と戦いたいんだろう。

 エイジとサラちゃんと一緒に居るため。そう覚悟を決めたけれど、イマイチ彼と戦う理由が明白じゃなくて、意を決したにも関わらず私は、モヤモヤとした気持ちを抱いていた。

 それでも彼が脅威なの間違いなくて、私の邪魔をする嫌な人なのは正しくて、だったら私は──

「覚悟決めろよ安藤リシア……止まらねえぞ俺はもう……!」

 彼は今まで片手で持っていた大きな剣を両手で握り直し、私を挑発する同時に、その場に佇みながら勢いよくそれを振るった。

(え……!?)

 届くわけがない距離。それなのに私は危機を感じて、瞬時に身を守るために両手に持つ剣を己の前に構える。

 それと同時に二本を襲うのは謎の衝撃。まるで、彼の剣を防いだ時と同じ衝撃。

(もしかして斬撃を飛ばしたの……!? 漫画じゃんそんなの……!)

「よく察したな……ならば防げよこの物量……!」

「もう……!」

 彼は宣言すると同時に、物凄い勢いで剣を振り始める。

 それに呼応して私を襲うのは当然先程同様飛んでくる斬撃。漫画やアニメみたいに派手なエフェクトが付いているわけではないから、凄く見極めづらい。空気の動きとか読んで感を働かせて、最悪運に頼らないといけない。

(いた……っ!)

 ところどころ痛みを感じる。やっぱり完璧には防げないみたい。でも、重症にならなければ別に当たっても構わない。

 兎にも角にも致命傷を避けて、どうにかして彼に近づいて、こちらが攻めに転じなければ。

(……待って。彼が出来るなら私にも……出来るかも……)

「どうした……どうしたどうしたどうした安藤リシア……ァ!? クハハ……!」

 私は観察する。必死に斬撃を受け止めながら、それでも冷静に彼の動きを見て、剣の振るい方を見て──

(わかった……こう……!)

 私は彼の飛ばしてくる斬撃を受け止めると同時に、彼の動きを真似して剣を振るってみる。

「……あ……ぁぁ!?」

(出来た……っぽい!)

 剣を振るったと同時に彼の痛みを訴える声が聞こえた。ボロボロになった赤シャツの一部だけが綺麗に切れていて、そこから見える肌には確かに血が滴っている。

(やった……! 私にも使えた! でもこれ……加減しないと殺しちゃう……気をつけて使わないと……!)

「くは……ハハハ……! 安藤リシアァァァアアア!」

 滴る血を人差し指でそっと撫でた後、彼は私を睨みつけながら、どこか嬉しそうに口角を上げながら私の名を叫び、それと同時に地面を蹴りこちらに向かってきた。

 両手で剣を振い斬撃を飛ばしながら近づいてくる彼。私はすぐに逃れるため避けるため後退し、飛んでくる斬撃を受け止めながら、こちらも反撃と言わんばかりに次々に斬撃を飛ばしていく。

 空でぶつかり合う飛ばされた斬撃。剣と剣がぶつかっていないにも関わらず鳴り響く金属音にも似た音。避けられ受け止められなかった斬撃は、壁や地面を切り刻んでいった。

「安藤リシア……ァァァアアア!」

「く……っ!」

 私と彼は壁を走り蹴り、時には空に浮きながら剣を相手に向かい振い続け、一定の距離を保ったまま、それでも相手に近づこうと意識しながら、斬撃を飛ばし合いぶつけ合う。

(このままじゃ埒が開かない……! 何か予想外の一手を出さないと決着は……! それは彼もわかっているはず……それに注意しながら私も模索しないと……!)

 無数に飛んでくる斬撃に対し私もまた無数に相手に向かい飛ばし、少しずつ距離を詰めつつもやはり一定の距離は保ちつつ、私は彼と睨み合う。

 わかっている、わかっているはずなのに。全然何も思い浮かばない、思いつかない。どうすれば彼を出し抜いて勝利を得られる?

「クハハ……! どうしてそんなに強えんだ安藤リシア……! よもやヴァンパイアと契約して半パイアになっていたりしねぇだろうなぁ……!?」

「なってるわけ……!」

「だよなぁわかるぜ見えてるからよ……ただの女子高生のくせにここまでとは……それだけ強いのか想いが……くはは……しょうもねぇ!」

「え!?」

 彼は私を挑発し叫ぶと同時に、突然持っていた剣を放り投げた。

 それと同時に彼は飛び上がり、自ら投げ捨てた剣を思いっきり蹴り、私の方へと飛ばしてきた。

 凄い勢いで飛んでくるそれを私は避け、それと同時に彼を睨みつける。だけど、彼は一瞬前まで居たそこにはすでに影も形も──

「……ッ!」

「はは……っ! 反射神経すげぇな……!」

 影も形もなかったけれど、良くも悪くも存在感がある彼の居場所にすぐに気づき、私はその場で瞬時に足を回転させ振り返ると同時に剣を振い、彼の蹴りを既のところで受け止める。

 その瞬間、彼は地面に突き刺さった自身の剣を片手で抜き、口を大きく開けながらも歯を食いしばり、勢いよくそれを私に向け振るう。

 私はそれを防ぐために、彼の蹴りを防いでいた剣を一本それから離し、全力で右手に力を込めて──

「いた……ぁッ!?」

 右手に力を込めると同時に、物凄い痛みが右腕全体に走った。ビキビキと骨が痛む音、ズキズキと切り傷が開く感覚、肉が裂けていくかのような痛み。

 彼はもしかしたらこれを狙って、私の右腕が痛んでいるからそれだけで使わせて更に痛みを増させて、私の隙を作ろうとしたのかもしれない。

 だったら作らせない。今この瞬間に無理をしないでいつ無理をするの? 私はこの世のものとは思えない痛みに耐えつつ、彼が左腕で振るう剣を右腕だけで受け止め続ける。

「……意外だな……耐えるか……」

 するとどこか冷静に、彼は驚きを交えた声色でそう呟いた。

──私は、彼が作ったその一瞬の隙を見逃さなかった。

 彼が隙を見せたと同時に、私は右腕に全力を込め彼の振るう剣を軽く弾いた。その直後、私は右腕で持っていた剣を手放し、彼の剣を受け止めていたものを無くしバランスを崩し、彼が左腕に込めていた力の行き先を無くし体勢を崩させる。

 当然、彼の剣はそのまま地面に倒れ込むようにして私に襲いかかってくる。ので、私はそれを最低限の動きで避け、私ではなく地面を刻ませた。

 それとほぼ同時に、私は左腕で抑えていた彼の足を勢いよく弾いた。体勢を崩し、力をうまく込められなくなっていた彼の足は存外簡単に弾く事ができ、そのまま彼は全身のバランスを崩し地面に倒れそうになる。

 それを確認すると同時に私は彼の腹部に、先程のお返しと言わんばかりに右の膝を思いっきり打ち込み、そのまま回し蹴りをするようにぴょんっと飛び上がってから、左足で彼の全身を蹴り飛ばす。

 何も言わず叫び声もあげず飛ばされていく彼。私は瞬時に地面を力強く踏み締め──

(殺す必要はないよね……殺したくもないし……動けなくなるようにすればそれでいい……それには四肢を凄く痛い状態に……全身が痛くて動けないように……!)

 息を吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く。

 殺してしまわないかが怖い。散々あの人を痛めつけてきたけれど、それでも私は、彼を殺したいほど憎んでいるわけじゃない。

 ただ邪魔だったから、邪魔をするから。私に意地悪をするから、エイジとサラちゃんに意地悪をしようとするから、だから戦っただけ。

 ダメだ。変に倫理観を持とうとしちゃダメだ。ここで私だけが無駄に、人間らしい感情を持って隙を見せてしまったら、そこを突かれて逆転されて、負けちゃうかもしれない。

「……ァァァアアアッッッ!」

 私は叫び声を上げながら、地面にヒビが入るほどに強く踏み込み、勢いよく全力で剣を振い、彼に向け無数の斬撃を飛ばした。


 *


「はぁ……はぁ……疲れたよぅ……はぁ……!」

 飛んで行った彼に向け、追いかけるように飛ばした斬撃を放って数分後。全く動かなくなった彼を見ながら私は安堵のため息をつきつつ、乱れた息を正そうと深呼吸を繰り返していた。

(彼の呼吸音が聞こえる……よかった……死んではいないみたい……あれだけ痛めつければ当分自由に動けないはずだよね……あはは……私も当分動けなさそう……)

 戦いは終わった。そう認識した私は両手に持っていた剣を手放し、ふにゃふにゃと全身の力を抜きながら、その場に足を広げながら座り込んでしまった。

 今の私、凄く油断してる。もし彼が動けたら多分、簡単に殺されちゃう。けど、私は彼を倒したんだと自信を持って、自分に言い聞かせて、束の間の休息を取る。

 座り込んで、ぺたんと女の子座りをして、ふぅと一息──

「安藤リシア……くはは……! 油断しすぎだろ……」

「ッ!?」

 一息ついた直後、倒れていたはずの彼が私の目の前に現れた。

 全身切り傷だらけ、全身血だらけで、顔全体を真っ赤にしながら彼は、口角を口が裂けそうなほどに上げ狂気的な笑みを浮かべながら、私を見下ろしている。

 私は急いで剣を手に持ち立ちあがろうとする。だけど一旦全身の力を抜いてしまったからか、思うように体が動かず、手を伸ばすことすらままならない。

(どうしよう……!)

「慌てるなよバカ……俺だってもう限界だ……こうして立っているのがやっとなほどにな……クハハ……」

 私が立ちあがろうとする姿を見た彼は、呆れながら笑い、そのまま私に背を向けた。

 その行動に思わず私は首を傾げてしまう。チャンスなのにどうして、何もしないんだろうと。

「テメェの頑張りに免じて今日は退いてやる……俺の最終目標はテメェが隠しているであろうクティラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトだからな……クハハ……! 今度会った時には教えてもらうからな……」

「だから……それは誤解だって……」

「ツゴーイーイナーを解除するぞ……一般人に見られて心配されねえように注意するんだな……怪我が治ったらまた来るからよ……楽しみに待ってな……俺も楽しみにしるからよ……」

 それだけ言うと彼は、最後に顔だけこちらに振り向き、ニヤリと笑うと同時に歩き出し、一瞬で私の前から姿を消した。

「……はぁ……はぁ……もう……最悪……」

 とりあえずツゴーイーイナーが解除されるまでにここから離れきゃ。そう思った私はなんとか全身に力を込め立ち上がり、家に向かい歩き出した。


 *


「えー……ねえねえお兄ちゃん。リシアお姉ちゃんね、明日ね、学校休むかもだって」

「え……? 何かあったのかな……? ていうかなんで僕には連絡くれないんだ……」

 ソファーに仲良さげに、横並びに座る愛作兄妹。

 彼らの会話を聞いていたクティラは、椅子からゆっくりと立ち上がり、床にゴロンと寝転んで本を読んでいるティアラの元へと向かった。

「……ティアラ、少しいいか?」

 クティラがティアラに話しかける。するとティアラは本を閉じ、顔だけを上げてクティラを見て、小さく首を傾げた。

「……んにゃ?」

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