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27.お休み

「……ん……ふわぁあ……んく……」

「あいたぁ!?」

「あ、ごめんクティラ……あふ」

 目が覚めた。僕は枕元に置いてあるスマホを手に取り、時間を確認する。

 現在時刻午前七時ジャスト。そろそろ起きないとダメか。

 今度はクティラに当たらないように注意しながら、僕は身体を伸ばす。

 力を入れて、全力で伸びて、一気に解き放つ。すごく気持ちがいい。

 と、胸が少し揺れて痛みを感じた。ブラを着けていないと時折こうなって煩わしい。

 これだから女の子ってのはめんど──

「……しまった!? 僕まだ女じゃないか!?」

 すっかり忘れていた。昨日僕はクティラとキスをして、女の子になったんだった。

「やば……どうすんだ学校……! クソが……!」

 どうしようもない。行けるわけがない。この姿のまま行ったら不審者として追い返されるか、警察の厄介になるだけだ。

 漫画やアニメのように、都合よく女の子として登校できる術などないし。完全に詰んだ。

 違う。逆に考えるんだ。学校なんて休んじゃってもいいさ、と考えるんだ。

 いや駄目だろ。宿題とかノートどうするんだよ。

 僕は脳裏に一番仲の良い友達を思い浮かべる。アイツはダメだ、授業中ずっと寝ている。

 よく絡む友達三人も思い浮かべる。いやダメだ、全員バカだから当てにならない。

 僕の友達はバカしかいないのか。何故だ、僕がバカだからか?

「ていうか出席日数が……成績が悪くても出席日数高ければギリセーフのはずなのに……風邪でもないのに休みは痛すぎる……!」

 必死に脳を回転させる。ポクポクポクポクと、頭の中で考える音を鳴らす。

 チーンと鳴った。出た答えはただ一つ、諦める。

「今日はもうダメだああああああ!」

「どうしたのお兄ちゃん!?」

「どうしたのエイジ!?」

 と、僕が叫んだ瞬間、リシアとサラが勢いよく扉を開けて入ってきた。

 リシアはすでに制服姿、見慣れた姿。サラは着替え途中だったのか、上下とも下着のみ。

「バカお前サラ! ちゃんと服着ろ!」

「ん? 別にお兄ちゃん今女の子だしいいでしょ……気にしすぎだよ」

 正しい指摘をした僕を、呆れた顔でサラが睨んでくる。

 何故だ、僕の方が絶対に正しいのに。

「それでエイジ……何で大声を……?」

 と、リシアが首を傾げながら問うてきた。

 今更だが何でリシアがここにいるんだ、と思ったがそういえば彼女は昨日、ウチに泊まったんだった。

 僕は縋るように、助けを乞うようにリシアを見つめ、言った。

「僕さ……今この姿じゃないか」

「うん」

「無理だろ……学校行くのこれじゃ」

「……あ! 確かに!」

 手のひらを叩きながら納得したような顔をするリシア。しかしすぐに彼女は首を傾げ、僕に質問をしてきた。

「あれ……? でもエイジって女の子になるの二回目なんだよね……一回目はどうやって戻ったの?」

 すぐに答えられる質問だった。僕はため息をつきながら、リシアの問いに答える。

「時間切れで戻れたんだ……二日くらいかかった気がする……」

「それ以外に方法あるの……?」

 僕は知らないが、クティラなら何か知っているかもしれない。

 枕にしがみつきながら安らかに眠っているクティラの身体を、僕はゆらゆらと揺らす。

「ん……まだ眠いんだが……?」

「いいから起きろ緊急事態だ」

 僕は軽くクティラの頬を引っ張る。すると彼女は、痛い痛いと言いながら起き上がった。

「全く……か弱きヴァンパイアの頬を躊躇なくつねるとは……これだから童貞は」

「童貞関係ないだろ」

 ペチッと、軽くクティラの頭を叩いてから、僕は質問をした。

「僕が女の子から戻る方法ってさ……時間切れ以外あるの?」

 すると、クティラは寝ぼけた顔から一転、シリアスな顔に瞬時に切り替わり、じっと僕を見つめながらゆっくりと口を開いた。

「……無いな! ていうか知らん!」

「詰んだあああああああああ!!!」

 僕は怒りと憎しみと絶望と憎悪と愛しさと切なさと心強さを込めながら、出せる限りの大声で喉を痛めながら絶叫した。



「あ、リシアちゃんおはよ〜」

「うん、おはよっ」

 朝の教室。私はその騒がしい教室に一人で足を踏み入れた。

 女の子になったエイジはもちろん自宅待機。本当は一緒に登校したかったけど、仕方ないよね。

 すれ違う友達に軽く挨拶をしてから、私は自分の席へと着く。

 鞄を床に置いて、椅子を引いて座れるようスペースを開けて、ゆっくりと腰を落ち着かせる。

 地面に置いたまま鞄を開け、中から教科書を取り出しながら、私は深くため息をついた。

(エイジ心配だなぁ……クティラちゃんと二人っきりで大丈夫かな……変なことしないかな……)

 もう一度ため息をつく。すると、目の前に人影ができた。

 私がゆっくりと顔を上げると、そこに居たのはクラスメイトの若井さんだった。

「安藤さん、これ昨日の……ありがとね! 本当に助かった!」

「う、うん……よかった」

 短く結ばれたツインテールを揺らしながら、手を振りながら、彼女は自分の席へと戻っていく。

 私は彼女に渡されたボールペンをテキトーに机の中にしまい、再び鞄から教科書を取り出す作業に戻る。

 と、また人影が私の作業を邪魔してきた。

 相手に聞こえないように小さくため息をつき、ゆっくりと顔を上げるとそこにいたのは男子生徒。

(えと……誰だっけ? 確かエイジの友達だよね)

 顔は見覚えがある──クラスメイトだから当然だけれど──が、名前が思い出せない。

 エイジとよく一緒にいる人だ。友達なんだろう。だけど名前がわからない。

 ていうか、私の先にやってきた意味がわからない。なんだろう。どういった要件だろう。

「いきなりごめん安藤さん……エイジの事なんだけどさ」

 手を合わせながら、謝るジェスチャーをしながら彼が話しかけてきた。

 私は思わず首を傾げる。エイジがなんだろう?

「いつもこの時間には来てるんだけど今日来てなくてよ……なんか聞いてねえか?」

(……いつも来る時間より少し遅れただけで心配するんだ。いい友達いるなぁエイジ)

 私は少し俯いて、彼とは目を合わせないように喋る。

「エイジ休みって言ってたよ……なんか病気だって……」

 もちろん嘘だ。本当のことを言ってもしょうがないし。

「あ、マジかぁ……アイツ、親友の俺には何も言わず休みやがって……! ごめ安藤さん! 助かったわ!」

 と、言いながら彼は私の顔は見ずに、テキトーに手を振りながら複数人の男子で形成されたグループの元へと戻っていった。

「……ふぅ」

 私は一息ついてから、教科書を取り出す作業へと戻る。

(……エイジ大丈夫かなぁ。心配だなぁ)

 無理言って私も休んでエイジと一緒にいればよかったかも。

 万が一、万が一にもクティラちゃんがエイジに悪さするかもしれないし。ヴァンパイアハンターとしてはヴァンパイアを信じず見張るべきだったよね。

(ヴァンパイアハンター……か)

 私はため息をつく。エイジを守るためにヴァンパイアハンターになったのに、あんまり意味ないなぁ。

「早く学校終わらないかなぁ……」

 まだ始まったばかりなのに、私はそう呟いた。

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