264.不真面目
「……来ねえなら行くぞ。俺ぁ最近流行りの草食系……もとい受け身全開男子じゃあねえからよ……!」
「変な言い回し……!」
彼はニヤリと笑みを浮かべると同時に、私に向かって一瞬で、数本のナイフを投げてきた。
瞬時に目の前に到達するそれを私は全て避け、それと同時に、投げられた全てのナイフを一つ一つ的確に柄を掴み、それら全てを彼に向け投げ返す。
(いない……!?)
ナイフを投げ返した先、一瞬前まで確かに彼が居た場所。そこに彼の姿はなく、投げ返したナイフは壁にサクリと突き刺さる。
それと同時に感じたのは、背後で切られる空気。私は感じたと同時に急いで地面をつま先で蹴り、その場から離れる。
その瞬間、私が一瞬前まで居た場所を、太く大きい脚から放たれる蹴りが襲った。
放ったのは当然、彼。彼は避けられた蹴りを勢いそのままに回し蹴りへと変え、そのまま己の足を地面に叩きつける。それと同時に彼は地面を蹴り、勢いをつけ私の元へと飛びかかってきた。
勢いよく振るわれる拳と全身。私はそれらを後退しながら避け、防ぎ、己の身を守っていく。
(一撃一撃が思っていたよりも重い……!)
「どうした安藤リシア……避けるだけなら普段運動しない奴でも出来るぞ……ドッチボールじゃあねえんだ……そうだったとしても……このままじゃ決着は着かねえが……!」
「……っ!」
左、右、上、左、右、下、左上、右下、上、背後、後ろ、左、右、真っ直ぐ。
止まらない彼の攻撃を必死に避けつつ、これまた必死に私は脳を回転させ、状況の改善方法を模索する。
だけど思いつかない。これは頭脳戦じゃない。何を考えたところで、何を思いついたところで、彼の圧倒的なフィジカルから繰り出される力押しには敵わない。
だったらもう、何も考えずに本能で──
「お……! 武器を手に取ったか……ならば俺も……!」
私が愛用している剣両方に手を添えると同時に、彼は口が裂けそうなほどに口角を上げ、目玉が飛び出してしまいそうなほどに目を見開き、嬉しそうな声色で私の判断を口に出す。
すると彼は攻撃を止め、私同様地面を蹴り相手から後退し距離を取り、まるで子供のように嬉しそうな笑顔を浮かべながらポケットを弄り始めた。
「お前は確か二本だったな……対してこの俺は一振りだ……数の差はあれど勝敗を付けるのはその実、質の差……勝る部分があれど驕るなよ……!?」
どうやって入っていたのかと疑いたくなるほどに、彼は己のポケットから、彼の足よりも大きな剣をゆっくりと取り出す。
絶対に重いはずなのに、顔色一つ変えず余裕そうに片手だけで柄を掴み剣を構える彼。剣先を地面に向けながらも、切先はこちらを向いている。
「……驕っているのはあなたでしょ」
「当然だ……男が女の子に驕るのはな……ぁ!?」
彼が叫ぶと同時に、大きな剣を持っているとは思えないほどに凄まじい速さで彼は移動し、一瞬で私の目の前に現れた。
振り下ろされる大きな剣。私はそれを携える剣両方で受け止め、勢いよく弾き返す。
その効果あってか、彼は一瞬姿勢を崩した。それを見逃すほど私は彼を甘く見ていない。私は瞬時に剣を握り直し柄の部分で彼の腹を殴打、それと同時に小さく飛び上がり頭目掛けて蹴りを放つ。
「ぐ……ッ!?」
頭を蹴ると同時に全身をフラつかせる彼。私はそのまま頭を蹴った脚を首に絡ませ、もう一度勢いよく飛び上がり、両手に持つ剣の柄で彼の背中を殴打。と同時に、全力で全体重をかけ、彼を地面に叩きつけた。
地面に叩きつけた後、私は瞬時に彼から距離を取る。彼を中心に広がる地面のひび割れ、地面に倒れたまま動かない彼。それを確認してから私は体勢を整え、一息つき、呼吸の乱れを正すため深呼吸。
「く……はは……! おい……安堵するには早いぞ安藤リシア……ァ!」
数秒後。流石の彼も息を荒くしながら、額に滴る血を腕で拭いながら、ゆっくりと立ち上がった。
私を睨みつけるその目は怒りよりも、嬉しさが込められている気がする。気持ち悪い。
「……っ……はは……! おいおい気づいたか安藤リシア……安堵するには早いぞ安藤リシアだとよ……ダジャレじゃねえか……くはは……!」
突然、変なことを言い出すと彼は、片手で剣を持ちながらそれをクルクルと回しながら、空いている手で己の腹を押さえ笑い始めた。
(……ほんと、ペースが乱される。ふざけてるのか真面目なのか……わかんない……)
私は改めて剣を握り返し、ゆっくりと構える。
とりあえずわかっていることは一つ。まだ、戦いは終わっていないと言うことだけ。




