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260.夢夢夢

「……ここは……どこだっけ?」

 気づいた時には僕は、何もかもがわからない状態で、よくわからない場所に立っていた。

 頭が重いような、逆にふわふわとしていて軽すぎるような、歪で言語化できない状態。全身に力が入っているような気もするし、全身から力が抜けている感じもする。

 何をしていたんだっけ? 何をしようとしていたんだっけ? 思い出そうにも脳が動かず思い出せず思い返せず頭が真っ白になっていく。こうして思考することはできているのに。

「……んー?」

 僕は何となく歩き出してみた。踏み締める地面は見えないけれど確かにある。いや、見えないのではなく、どんな地面なのかを認識できていない。

 右足を動かそうと思ったら右足が動き、左足を動かそうと思ったら左足が動く。だけど、左に曲がろうと思っても曲がれず、右に行こうとしても方向転換はできない。

 ただ歩くだけ。真っ直ぐに歩くだけ。確かに自分の意思で動いているのに、誰かに操られている感じがしてすごく気持ち悪い。

 それでも僕は歩き続ける。それしかやる事がないから、何となくそれをしなければいけないと思っているから。

 歩きながら辺りを見回してみる。薄紫とピンク色が混じった木々が僕を囲んでいることに今、気づいた。

 風に吹かれているからなのか、木々に生い茂る葉がゆらゆらと、静かに激しく揺れている。だけど僕は感じない、風に吹かれてなどいない。

 ふと、視線を落として地面をもう一度確認してみる。先ほどは見えなかったのに、今はしっかりと己の踏み締めている地面を視界に入れることができた。

 歩いている地面は全体的に淡い水色で、所々に可愛らしいデフォルメされた猫の顔が描かれていた。猫の他には、中心にハートマークが付いている絆創膏や、目玉がキラキラしすぎている髑髏マークなどがある。

 それらを見て確認して理解して、僕は思わず首を傾げてしまった。それらがどう言う意図でデザインされたのかが全くわからなくて。

「……なんなんだろ」

 何もかもが理解できなくて、だけど確かに存在を感じるから、僕は思わずそう呟いてしまった。

「……っ」

 段々と頭がボヤけていく感覚。それと同時に脳がクリアになっていく感覚。

 わけがわからない。さっきから一体全体、僕に身に何が起きているんだろうか。

(考えられるとしたら……あまりにも摩訶不思議だから……僕は夢を見ている……とか?)

 夢を見ている。そう仮定してみたけれど、それにしてはやけにハッキリと意識がある気がする。

 頭がボケーっとはしているけれど、そのボケーは授業中に暇になってる時のそれに似ているから。夢にしてはあまりにも感覚がしっかりとしすぎている。気がする。

 夢を見ているんだとしたら僕は今、どこで寝ているんだろうか? この場所に来るまでの前後の記憶が抜け落ちていて、全く思い出せない。

 だからこそこの状況は夢、と言えるのかもしれないけど。

「……原因がわからない。なんであなたがまたここに?」

「え……?」

 突然、後ろから誰かに話しかけられた。

 聞き覚えのない声、聞き馴染みのない声、だけど、どこかで聞いたことのある声。

 僕はすぐに声のした方、後方へと振り返った。そこに居たのは僕の友人知人ではなく──

「……ほら。呼んでるよ……あなたのこと。早く出ていって」

 少しボサボサした髪の女の子が立っていた。サイド編み込みが目立ち、僕を見つめる目にはハイライトがない。ように見える。

 ジッと睨みつけるように僕を見つめる彼女。何か、小さく呟くと同時に彼女は、ゆっくりと左の方へ人差し指を向けた。

「……聞こえないの? かわいそうに……あんなにも必死にあなたの名前を呼んでいるのに……」

 憐れむように、呆れるように、面倒くさそうに。彼女はため息混じりに僕に言う。

 名前を呼んでいる? 誰が? 誰を? 僕を? 僕の?

「……手伝ってあげる。邪魔だから、鬱陶しいから、あなたの居場所はここにないから……」

 耳元で囁くように、掻き消えてしまいそうなほどに細く小さな声で彼女は呟く。

 それと同時に。彼女はふわりと倒れ込むようにこちらにやってきて、僕の目の前に現れると同時に、パチンっと指で綺麗な音を鳴らす。

「……仏の顔も三度まで。誤用ではあるけれど……もしもまた迷い込んだなら……許さないけど……許してね……私は悪くないんだから……」

「何を言っ──」

「……おやすみなさい」


 *


「エイジ、エイジ……」

「ねえリシアお姉ちゃん。私、叩こうか?」

「ぴぇ……暴力はあまり使わない方が……」

「遠慮することはないだろう。どれ、私が叩いてやる……他者への暴力ではなく、己を傷つける自傷ならばリシアお姉ちゃんも文句あるまい? 私とエイジは一心同体だからな……私がエイジを叩くと言うことは、私が私を叩くも同じ、そして逆も然りだ」

「自傷行為もダメじゃない……?」

「クティラチョップ!」

「あ、やった」

「いてぇ!?」

「あ、起きた」

「ぴぇ……図書室では静かにしないと……ほら先生睨んでる……」

 頭に突然来た謎の衝撃。僕はそれに反応して、思わず叫びながら顔を上げてしまった。

 寝てしまっていたのか、目が覚めた感覚。僕は確か、何をしていたんだっけ? 状況を確認するために辺りを見回す。

「お兄ちゃん……図書室で寝るとか漫画のキャラなの?」

「あ……えっとエイジ……おはよう?」

 目の前にいて、僕に話しかけてきたのはリシアとサラ。サラは呆れた顔で、リシアは何故か困った顔で僕を見つめている。

(そっか……確かクティラが居残りさせられていて……それでそれが終わるまで待つことになって……僕は図書室に……)

 だんだんと思い出してきた。寝る前の状況と、それに至る過程。

 それにしても、我ながら恥ずかしい学生だ。まさか図書室で本を読んでいる途中で寝てしまうなんて、人生でこんなこと初めてだ。

 眠気も無かったし、なんで僕は寝てしまったんだろう。しかも手を見る限り、器用に本を開いたまま寝てしまってらしい。誰かに叩かれ起きた時の衝撃でも本から手を離していないのだから、地味に凄い。自分のことだけど。

「それじゃあエイジ……帰ろっか」

 と。リシアが手を差し出しながら、ニコッと微笑みながら言う。

 僕はその手を取ることなく頷き、椅子を後ろに下げてから、本を手に持ったままゆっくりと立ち上がる。

 直後。リシア達の後ろを通る一人の学生に僕は、何故か目を惹かれた。

 少しボサボサしている髪の、サイド編み込みが目立つ女の子に。

「……どうしたの? お兄ちゃん」

「いや……なんでもない」

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