256.友達が居ない人って生きるのたいへーん
(愛作さんが居残りだからーって、教室追い出されちゃったなぁ……アムの部活終わるまでどこで暇つぶそうかな)
放課後。まだそこそこ人がいる時間。私はスマホ片手に廊下をぶらぶらと歩いていた。
低気圧のせいか、頭が少しズキズキと痛む。アプリで確認してないから知らんけど。
「愛作くんは……帰ったのかな」
ポツリと独り言を呟き、私は目的もなく歩き続ける。
見渡す限り人、人、人。みんな同じ服を着ていて、同じような髪型で、無個性の無辜ばかり。
いや、無辜かどうかなんてわからないけど。少なくとも私よりは罪を犯してないだろうし、まともな人たちではあるだろう。
要するに社会適合者。一人で、ぼっちで、孤独に歩き続ける私と違って、すれ違う人は皆誰かと横並びに歩いている。
私は友達が少ないから。アムしか信頼できる友達がいないから。アムがいないとこうして一人ぼっちになってしまう。
愛作くんもいるっちゃいるけど、思春期真っ盛りの年頃高校生が異性と並んで歩いていたらそれは、パッと見友人同士ではなく恋人同時に見えるだろう。大きなグループならともかく、二人っきりなら余計に。
(……使う未来見えないよくわかんない計算式とか絶対使わない古語のルールとかより、コミュ力を鍛える授業とかしてくれればいいのになぁ)
はぁ、と。私は小さくため息をつく。
セックスだけでコミュニケーションを取ってきたと言っても過言ではない私は、この先どうやって社会に馴染んでいけばいいんだろう。
学校はまだ、本当の社会ではないからテキトーに猫かぶっておけばどうにでもなるけど。不特定多数年齢多様な社会で私の猫かぶり、通用するのかな?
仲が良くなった、つまり、親交深いアムには私の猫かぶりは下手くそって言われてるし。きっと社会に出たらすぐ見抜かれちゃうんだろうなぁ。
(……まあ。暇だからこうして将来案じてるフリしてるだけで、正直真面目に考える気はないんだけどねー)
歩いて、歩いて、廊下を歩き続けて。見かけた自動販売機でなんとなく飲み物を買って、それを飲みながら私はまた廊下を歩き始める。
みんながみんな、私とは正反対の方向に歩いている。当然だ。部活に行くものも帰路に着くものも基本階段へと向かうのだから。行く当てがなく廊下をぐるぐる歩き回っている私とは正反対で当然。
(……飽きた。屋上でテキトーにスマホいーじろ)
私はその場でくるりと足を回転させ振り返り、みんなと同じように廊下の方を向き、そこに向かって歩き出す。
今の時間、屋上にはきっと誰もいないだろう。とは言ってもあそこには基本、教師の弱みを握っている私しか入れないんだけど。
(鍵は開けっぱなしにしてるか気づいてる人はたまにサボりに来てるかもだけどねー)
手に持ったペットボトル。その中に残った一滴の水。私はそれを喉に流し込んでから、ぷはぁと一息ついてから、改めて歩き出した。




