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247.くっだらなーい

(あー……アムの家に帰りたーい……)

 夜ご飯を食べ終えた私、咲畑咲は自分の部屋のベッドの上に寝っ転がっていた。

 夜ご飯を食べ終えたと言っても家で食べたんじゃなくて外食だから、家に帰って寝っ転がってる、が正しいかも。

 どうでもいいけど。

(……最悪……今日もヤッてるじゃん……)

 部屋の外から聞こえてくるのは母の喘ぎ声。わざとらしく相手を喜ばせる雑で大きな喘ぎ声。

 幼い頃から聞いてるこの声。私は大っ嫌いだ。シンプルにキモいし、何より五月蝿い。

 左隣の部屋。弟の部屋からはベッドの軋む音が聞こえる。今日もヤッてるんだろうな、そこら辺の女の子捕まえて。

 右隣の兄の部屋からもベッドの軋む音。こっちからは女の子の声も聞こえてくる。彼女さんの声だ、結構可愛い顔の彼女さんの喘ぎ声。

 更に奥の部屋からは妹の喘ぎ声も聞こえてくる。どいつもこいつも激しい息遣い、甲高い声、古い家じゃないのにあちこちからギシギシ軋む音。

(やっば……頭おかしくなる……)

 段々頭痛が強くなってきたから、私は起き上がりベッドのの上に座り、こめかみ抑えながら少し唸る。

 アムの家に行きたい。彼女の家に泊まりたい。若井一家と共に暮らしたい。愛作くんのお家でもいいかも。最悪、知らんおっさんとのラブホでも構わない。

 達観したフリして平気な様子を見せるけど、やっぱり私はこの家が苦手だ。私以外誰も違和感を抱いていないところが特に嫌だ。

 そもそもサキュバスって何? なんのためにこの種族は生まれたの? 私はどうしてこんなふうに生まれたの?

(人間みたいな思考を持つ人型の生き物とか人間でいいじゃん……意味わかんない……)

 子を増やすためでもない、生命を繋げていくためでもない。ただそれが好きだからと誰彼構わず行為を楽しむ狂気の生き物、サキュバスとインキュバス。

 その生き物に生まれてきたんだったら、生き方にふさわしい性格に生まれてくれればいいのに。

 私、やっぱりサキュバスに生まれるべきじゃなかったよ。生まれた意味ないよ。生まれてきたこと自体間違いだよ。

(……ぅう……ちょっとヘラってるかも……あはっ♡ バカバカしい……ヘッドホンつけよ……)

 私は無線で繋げられるヘッドホンを手に取り、頭につけて耳に被せて、繋がっているスマホから好きな音楽を流す。

 流す音楽は主にインスト。今は人の声を、例え歌声だとしても聴きたくないから。

(……もう寝ようかな)

 はぁ、と小さくため息をついて。私は座ったまま全身を伸ばす。

 込めた力を一気に解き放ち気持ちよくなり、もう一度ため息をついてから、わざと勢いつけて寝っ転がる。ヘッドホンの硬い部分がこめかみを擦り、ちょっと痛い。

 はぁ、ともう一度小さくため息をついてから。私は流している音楽に合わせて、上げた両足をパタパタと動かしてみる。

(明日は学校かぁ……朝アムに会ったらイチャついて……昼休みは愛作くん呼び出して……午後はそうね……アムが部活休みだったら遊びに誘おう……)

 暇すぎて、守る気もない明日の予定を組み立てながら、私は静かに目を瞑る。

 そういえば兄や弟は学校でどんな風に暮らしているんだろう。学校でもヤリまくってるのかな? そうなんだろうな、あの人たちは。

(くっだらない……昔の私がそうだったからそうなんだろうって推測しちゃってバカみたい……てかどうでもいいしアイツらなんて……血が繋がってるだけの他人じゃん)

 家族の絆なんて彼ら彼女らから感じた事はない。あんなの嘘っぱちだ。

 一緒に居ないといけないから、一緒に居るべきだと誤認しているから、同じ仲間だと思い込んでしまっているから。本当は大して興味のない相手にも興味があるかのように接して、無理矢理繋がりを感じて、絆だと宣っているだけだ。

 そんな事を考えてるのは私だけか。多分そう。別に両親も兄妹も悪い人ではないし、こんなに捻くれてるのは私だけだと思う。私が彼らを嫌いなのは苦手なのはただ気持ち悪いから。私たち全員気持ち悪い。

「はぁ……」

 自分のバカさ加減に呆れながら私はため息をつき、ゆっくりとベッドの上から立ち上がる。

 そのまま離れ部屋を歩き、照明のボタンを押して消灯。ヘッドホンはつけたまま、力無さげにわざと全身をふらつかせながら、真っ暗な部屋の中を歩く。

 そのままふらふらしながら、ふらふらーっとしながら、ふにゃふにゃしながら、私はベッドの上に倒れ込む。

「……痛いっ」

 ポケットに入れたままのスマホが足に当たって、つけたままのヘッドホンがズレて耳が折れて、私は思わずそう呟く。

 流れ続ける大好きなインスト音楽。私を外界から遮断してくれる素敵な音楽。私の世界に入り込もうとする雑音を消し去る美しい音楽。

 それを聞きながら聞き込みながら聞き流しながら、私はゆっくりと目を閉じる。

 眠気は全然無いけれど、やる事が何も無いから寝れるように、眠れるように。

 頭もなるべく空っぽにして、気持ち悪い夜を終えて素敵な朝を早く迎えたい。

(……くっだらない)

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