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246.こんな感じ

(……は? 何? 隣に座ってきて何も言わないの……?)

 突然隣に座ってきたお兄ちゃんを少し睨みつけながら、私は心の中で不満を漏らす。

 何か話があるのかと思ったから身構えたのに、きっと話しかけてくれると思ったから色々言葉を用意してたのに、お兄ちゃんは何故か話しかけてくれない。

 手に持った本に視線を向けて、私を一瞥もせずに、どんどん読み進めていく。

(……なんなの)

 聞こえないように小さくため息をついて、私はその場からは離れずに、ポケットからスマホを取り出す。

 取り出したところでこの携帯端末を弄る気も気力も今の私にはない。だからテキトーにホーム画面をスワイプして起動するアプリを選んでいるフリをしたり、映えてる写真をテキトーに流し見たりして誤魔化す。

 時折チラチラっとお兄ちゃんをチラ見する。けどお兄ちゃんは一切私に視線を向けない。本当にただ、本を読んでいるだけ。

 なんなのこの人。何がしたいのこの人。結構本気でムカムカしてきた。せめて何か言ってよ、私の名前を呼んでよ、話しかけてよ。

(……意味わかんない)

 思わずため息をついて、私は再びスマホに視線を向ける。

 けれど変わらずやる事がないから、ただテキトーに弄るフリをするだけ。

 お兄ちゃんが隣に座って何秒経ったかな? 何分経ったかな? 何時間も経ったのかも?

(……わけわかんない)

 スマホをしまってから私は、天井を見上げため息をつく。

 お兄ちゃんが隣に座ってきてから何回ため息ついた? 知らない。数えてるわけない。意識すらしてない。

 目だけ動かして視線をお兄ちゃんに向け彼を一瞥。変わらず本を読んでいるお兄ちゃん、マジで意味わかんなくてムカつく。

(……んぇ?)

 と。次の瞬間、私の目の前にお菓子が現れた。

 ジャガイモを揚げたみんな大好きな棒状のお菓子。カップに入ったままのそれは、私に向け差し出される。

(んぇえ……?)

 お兄ちゃんの意図が読めなくて、読めなさすぎて頭が痛くなってきた。

 急に隣に座ってきて、突然お菓子をくれて、何がしたいんだろう。

「……食うか?」

 こちらに顔を向けずに、お兄ちゃんが私に問う。

 だから私はとりあえず小さく「うん」と呟き、お兄ちゃんの持つそれから一本抜き取った。

 人差し指と親指で挟んだまま、私はパクりと一口食べる。しょっぱくて美味しい。

 もう一口食べて一本食べ終えて、私はお兄ちゃんを一瞥する。お兄ちゃんはすでに私には視線を向けてなくて、片手で本を持ちながらそれを読んでいる。

(……お兄ちゃん)

 私は見つめる、見つめ続ける。ソファーの上にお菓子を置いて、本を読み続けるお兄ちゃんを。

 全然真意がわからないし、本意を察せられないし、心身共にぐにゃぐにゃしてくる。わけわかんなすぎて。

 もしかして私の考えすぎだった? お兄ちゃんは存外案外意外に気にしてなかった? そんなわけないと思うけど。

「……なあ、サラ」

「……んぇ」

 と。突然お兄ちゃんが話しかけてきた、名前を呼んできた。

 本当の本当に突然すぎて、私は思わず変な声で返事をしてしまう。そうしてしまったが故の羞恥心と、改めてお兄ちゃんと話すことになる緊張感で、全身が冷や汗をかいてしまっている。

 高鳴る鼓動に昂る脈動。頭クラクラ視線ユラユラグラグラ脳内。ドキドキトキメキドギマギズキズキ心室心房高揚心臓。

「その……さ……あの……ありがとな」

「あ、ありがとう……?」

「だからその……助けられたわけだしさ……だから改めてお礼をと思って……」

「……ぷ……なにそれっ」

 お兄ちゃんの下手くそな話の切り出し方に、私は思わず笑ってしまう。

 なんだ、やっぱりお兄ちゃんも思ってたんじゃん。恥ずかしいって、話しかけづらいって、ちゃんと仲直りしたいって。

 結局同じ。考えてる事そっくり。悩みまで似てるだなんて。私たちやっぱり兄妹だよ、ちゃんと血の繋がった仲良し兄妹。

 だから私は、だけど私は。お兄ちゃんに素直に甘えるのは下手だから、素直に目を見て気持ちを伝えるのは苦手だから──

「……もうっ」

 小さくそう呟きながら、私はお兄ちゃんの肩の上に頭を乗せた。

 それにビックリしたのか、お兄ちゃんは一度全身をビクつかせる。

 そんなお兄ちゃんを見て、見つめて──

「ねえお兄ちゃん……私って、お兄ちゃんの妹だよね?」

「え? あ……うん……そうだと思うけど……て言うかそうじゃないわけが……」

 お兄ちゃんの意図をなんとなく把握できた私は、変わらず彼の肩に頭を乗せたまま、見つめ続ける。

 きっとお兄ちゃんは、変に喋って話し合って気持ち吐露して仲を直すんじゃなくて。ちょっと変なことをしちゃったくらいで私たちの関係は変わらないよって私に伝えたくて、特に何も言わずにほとんど普段通りに、私の隣に座ってきたんだと思う。

 会話のきっかけを作るのは無理矢理過ぎて正直下手くそだなとは思ったけど、それでも、私のことを考えてくれたって言うのが嬉しくて。

 私のこの解釈は間違ってるかもだけど、だけど私はそうであって欲しいから──

「……お兄ちゃん。喉乾いたからジュース持ってきてよ」

「……自分で取りに行けよ」

「えー……意地悪だなぁお兄ちゃん。いいじゃん、可愛い妹が頼んでるんだからさっ」

「……じゃあ肩から頭どけろよ」

「うーん……やーだっ。ふふっ……」

 私はする。いつも通りに。ちょっと生意気な妹としてお兄ちゃんに接する。

 深く考えず、考えすぎず、都合の悪いことは忘れて。ありのままに、したいがままに、私はお兄ちゃんに接する。

 それが私とお兄ちゃんの関係なんだから。こんな感じの仲良いんだから悪いんだからよくわかんない兄妹関係、これこそが私たちの思う理想の関係なんだから。

 それを保つため、壊さないために。私はちゃんと愛作サラとして、お兄ちゃんの妹として──

「……お兄ちゃん。私からもありがとう、言っておくね」

「え……あ……おぅ」

「何恥ずかしがってんの? バカなの?」

「……うるせぇな」

「……バカお兄ちゃん」

「お前こそ……その……」

「……そだね。私たち、バカだね」

「……らしくないこと言うなよ」

「たまにはいいじゃん? なんかこう……エモくない? こう言う感じのセリフ」

「……いや、知らんけど」

「……ふーん」

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