245.えちかわ太ももに逃避して
(……結局ご飯食べてる時、お兄ちゃんに一言も話しかけられなかったなぁ)
夜ご飯を食べ終えた私は、私たちは、誰一人欠けることなくみんなでリビングに集まっていた。
お兄ちゃんは椅子に座っていて、私とリシアお姉ちゃんはソファーに。銀髪赤眼美少女姉妹は床に腰を下ろして、ティアラちゃんがクティラちゃんに抱きついている。
リシアお姉ちゃんは本を読みながら私を撫でてくれている。そしてお兄ちゃんは、お兄ちゃんも本を読んでいる。私は、スマホをいじるフリ。
(……うぅ……もう帰ろうかな部屋に……)
お兄ちゃんを見て、すぐに目を離して、もう一度見て、一瞥して、またすぐにスマホに視線を戻す。
私っていつもどうやってお兄ちゃんに話しかけていたっけ。改めて考えたことなんてないし、意識したこともないから、全然思い出せない。
こんな風にウジウジしていると、お兄ちゃんがどんどん遠くに行っちゃってるように感じる。すぐ近くにいるのに、同じ屋根の下暮らしてるのに、血の繋がった兄妹なのに、まるで他人。
(……お兄ちゃん全然話しかけてくれないしっ)
私は少しイラッとしながら、スマホをポケットにしまってから寝返りを打ってお兄ちゃんに背を向けて、リシアお姉ちゃんの柔らかい太ももに顔を押し付ける。
くすぐったかったのか、一瞬変な声を出すリシアお姉ちゃん。そんな彼女の反応に私は少し吹き出して、改めて抱きつくようにギュッと顔を押し付ける。
何も見たくない聞きたくない。考えなきゃだけど、意識したくない。ずっと考えて、頑張って、心が痛くなって、もう限界だから私は、現実逃避をすることにした。
リシアお姉ちゃんの太もも。柔くて暖かくてモチモチしてて吸い付くような素敵な柔肌。これぞ女の子って感じの、つよつよ可愛いムチムチえちかわ太もも。
それを意識して、そればかり考えて、私はリシアお姉ちゃんの太ももを堪能するフリをする。
(ダメだ……すぐ近くにいるからお兄ちゃんのことばかり考えちゃう……)
また鼓動が速くなってきた。嫌なドキドキ、緊張するドキドキ、痛みが増してくドギマギと。
(お兄ちゃんと話したい……話しかけたい……けどお兄ちゃん……お兄ちゃんは多分、サラとは話したくないと思う……私だって話しかけたいと思ってるけどそれ以上に……やっぱり……怖いが勝つもん……なんだかなぁ……多分二人してこんなふうに足踏みばかりしてるから……余計苦しむんだろうなぁ)
ため息。すると同時にリシアお姉ちゃんが一瞬ピクリと飛び跳ねる。
可愛い彼女の反応に癒されつつも、今度は息がかからないように、心の中だけでため息をつく。
この数時間。ずっと考えてるけど、お兄ちゃんとの接し方がずっと思いつかない。
考えてるのがダメなのかな? 勢いに任せてどうにかなれーって感じで当たって砕けろするべきなのかな? でも、結局それをして失敗したらと思うと、何回決心しても意を決して行動に移すことはできない。
一瞬寝返りして、私はお兄ちゃんを一瞥する。彼の視線は確かに本に向けられているけれど、あくまで向けられているだけに見える。
多分お兄ちゃん、読んでるフリをしてる。私と同じように、特に気にしてませんよーっていう雰囲気をリシアお姉ちゃんたちに感じさせて、平常心を保とうとして、その実気まずくなっている相手のことを考えて、頭の中は平然としていない。
(……リシアお姉ちゃんは多分気づいてるし察してると思うけど)
リシアお姉ちゃんを一瞥して、その視線を感じたからかすぐに私を見て微笑むリシアお姉ちゃんにビックリして、私はすぐの彼女から顔を逸らし再び太ももに埋まる。
(リシアお姉ちゃんも助けてくれればいいのに……)
チラッと、チラッチラッと私はリシアお姉ちゃんを何度もチラ見する。
確かにこれは私とお兄ちゃんだけの問題。私たちだけで解決するべきだけど、私たち二人と仲の良いリシアお姉ちゃんもちょっとは手伝ってくれても良くない? 私たちのこと、一番わかってくれているんだし。
──ダメ。そんな事は思っちゃダメ。
どうしようもなくて、どうにもできなくて、何も思い浮かばなくて、どうしたらいいのわかんなくて。私、今とっても嫌な女の子になってる。
お兄ちゃんのせいにして、リシアお姉ちゃんのせいにして。他責他責の他責嵐だ。
いっそのこと頼っちゃおうかな、ちゃんと。任せちゃおうかな、リシアお姉ちゃんに。
でもダメ。それだけは絶対にしちゃダメだと思う。理由はわからないけど、ハッキリと言えないけど、上手く言語化できないけど、ダメだって本能で察している。
きっとお兄ちゃんもそう思っているから、そう考えているから、リシアお姉ちゃんに頼らず任せずなんだと思う。だからこそリシアお姉ちゃんも、自分から私たちの仲を修復しようと動かないんだと思う。
「サラちゃん、私ちょっとお手洗いに……」
「……あ。ごめんなさいリシアお姉ちゃん」
と。申し訳なさそうに、私の頭を撫でながらリシアお姉ちゃんが優しい声色で、私に一旦退いてと懇願。
私はそれに素直に従って、すぐに太ももから頭を離してそのまま体制整えしっかりソファーに座り、お礼を告げるリシアお姉ちゃんに手を振りながら、必死に笑顔を作る。
(……はぁ。どうしようかな……ほんと……どうすればいいのかな……)
唯一の癒しであったえちかわ太ももに離れられて、私は小さくため息をつく。
こうなると嫌でも考えてしまう。ずっと考えてはいたけど、ちゃんと考えてしまう。
仲直りしたいなぁ。何回も何回もその言葉を頭の中で反復させ、何回も何回も何度目かのため息をつく。
俯きながら、小さく聞こえないように、それでも全てを吐き出すように──
(……ん?)
私がため息をつくと同時に、ソファーが少し揺れた。
誰かが座ったみたい。誰だろう? リシアお姉ちゃんはお手洗いから帰るには早すぎるし、クティラちゃんかティアラちゃんかな?
「……あ」
顔を上げて右を見て座ってきた人物を確認。そこに座っていたのは──
「おに……いちゃん……」




