244.延々と続く永遠かと見紛う悩み
「……頑張ってね」
リシアはそれだけ言うと、ニコッと笑みを浮かべてから、ソファーから立ち上がり僕の元を去っていく。
(……頑張れって)
自分が期待していたこれだと思える解決策を提案してもらえず、傲慢にも僕は、僕の話を聞いてくれたリシアに少しだけ、不満を覚えてしまう。
頑張れって言われても、頑張ろうと思い込んでも、頑張るぞと意気込んでも。目標が無いと正直、何をどう頑張ればいいのかわからない。
いや、目標自体はあるのか。サラと仲直りというか、元の関係に戻りたいって目標は。
けれどやっぱりそれは目標というよりは目的で、それを為すための手段がないと不安で仕方がない。
(それも含めて頑張れってことなのかな……そうだよな……これは僕とサラの問題だ……先のクティラとティアラちゃんの件もあるし……当人同士で頑張るしか……ないのか)
僕は小さくため息をつく。この後に及んで誰かに頼り何とかしてもらおうとする自分の甘えに、必死に考えてもいい案が浮かばない自分のダメさ加減に。
「……クティラとティアラちゃんか」
何となく辺りを見回して、僕は目に入った銀髪赤眼美少女姉妹の名前を呟く。
あの二人、よくあそこまで仲直りできたなと思う。僕とサラ以上に拗れて、すごく面倒くさい思いを抱えていたのに、今ではすっかり仲良し姉妹だ。
(まあ……なんだかんだ二人とも互いを好き合っていたし……喧嘩してたってわけでもないし……)
ティアラちゃんの件を思い返しながら、僕は先刻の出来事を改めて思い出す。
サラとの出来事。二人っきりで抱き合って、吸い合って、見つめ合って──
(……僕とサラも……ティアラちゃんとクティラと変わらないか……)
僕は手を組みながら、地面を見ながら小さくため息をつき、先のリシアの言葉を思い出した。
エイジは考えすぎだと言う言葉。改めて思い返すと、確かにそうなのかもしれない。
気にしすぎ、が近いのかも。
(だからと言って無理だろ流石に無神経……あぁもう……ずっと解決策が見えない浮かばない考えつかない……)
一体全体いつまでこうしてるのか。自分で自分が嫌になってくる。けれど考えずにはいられないし、考えないわけにはいかない。
正直瀬戸際今際の際。誰にも言わないから、自分にしか伝わらないから白状するが、僕はサラのことを相当大切に想っている。想っているはずだ。
生意気だし、時折ウザいし、嫌なところもあるにはあるけど。リシアと同じで、昔から小さい頃からずっと共に過ごしてきた。
その日々が好きだから、大好きだから、今も続いているそれを保っていたいから、だからこそ、絶対に失敗はしたくない。
(……みたいなのが、考えすぎなのかもなぁ)
その場にいないリシアに図星を指された気分になって、僕は思わずため息をつく。
(サラはどう思ってるんだろうな……)
もう一度ため息をついて。僕はサラの顔を思い浮かべる。
彼女も僕と同じように、こんなふうに、あれこれぐちゃぐちゃうだうだ考えていたりするのだろうか?
だとしたら僕たち、互いを思って考えてそれで拗れかけていることになる。それってすごく──
「……あ」
ふと。誰かからの視線に気づき僕は、顔を上げて視線の主を確認する。
思わず声が出てしまった相手。僕を見ていたのは、僕の目の前に現れたのは──
「あっ……その……あの……もうすぐご飯だから……ご飯の時間だから……今日私が当番だから……その……えっとね……なんでもない……」
俯きながら、なるべく視線を合わせないようにしながら。サラは僕に話しかけているようで、その実ただその場で佇み独り言を呟いて、それを終えると逃げるようにその場から去っていってしまった。
「……っ」
逃げるサラ。僕はそんな彼女の背中を見ながら、声をかけることはなく、ただ拳を握ることしかできなかった。




