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240.ぐちゃぐちゃ思考遠回り

 電気の付いた部屋。一人で居る部屋。僕の部屋。

 ベッドの上に座りながら、そこを照らす照明を見上げながら、僕は小さくため息をついた。

「……はぁ」

 さっきからずっと頭がボーッとしている。そして、何も考えたくないと必死に何かに抗っている。

 思い出すのは数刻前の出来事。サラとの出来事。実妹との事故。

 お互いがお互いを求め合い、抱き合い、吸い合い、快楽と悦楽に満たされ、達していたあの瞬間。

 忘れたいけれど忘れられない。心の奥底で、新たに作られた僕がそれをもう一度味わいたいと、僕の脳内から耳元にそう囁き続ける。

 理由は言えない、取り繕えない、決められない、考えられない、思いつかない。何故それがダメなのか、サラとの吸血のし合いがダメなのかハッキリと言葉にできない。けれど気持ちは、僕の心はサラとの吸血行為を否定している。

 違う。本当は、本心では、心の内ではそれを受け入れ始めている。わずかに残ったただの人間でしかない僕の心を、半パイアもしくは吸血鬼と化した僕がそれを徐々に蝕んでいる。

 またサラに会ったらきっと僕は、彼女の血を求めてしまう。リシアに会ったとしても、恐らく彼女の血を求めてしまう。

 そしてサラも、きっと僕に会ったら僕の血を求めてくる。

 サラと今の僕はWin-Winの関係。お互いが求めているものを互いに携えていて、受け渡すことができる。与えてることができてしまう。

 それはダメだと人間の僕が警告。なんでダメなのか言ってみろと吸血鬼の僕が反論。何も言えなくなる人間の僕、そんな僕を見て勝ち誇る吸血鬼の僕。

 今の僕は、どっちなんだ? 今ここで、ベッドの上で、サラとの関係について悩んでいる僕は一体全体どんな愛作エイジなんだ?

 自分がわからなくなってくる。求めている快感と、それを否定する心。拒否する悦楽と、それを受け入れる心。二つの気持ちが歪に入り混じって、自分自身の本心がどれか何か、わからなくなる。

「……っ……」

 息が乱れている。気がする。頭が痛い。気がする。身体がだるい。気がする。全身が汗だく。な気がする。

 僕は、愛作エイジがわからなくなってきている。この身体の感覚、手を握った感覚、髪の毛に触れた感覚、足で掛け布団を動かした感覚。これら全ては本当に、僕が触れて感じているものなのだろうか?

 そんなの疑問に思う必要すらない。なのにどうしてか、こうして首を傾げてしまう。

 サラも今、こんな感じの気持ちを抱いてるのだろうか? それとも僕が変に考えすぎなだけ?

「……あー……くそっ……」

 口内に残る血の感覚、味、匂いに嫌悪感を覚える。あんなに甘美で夢中になって求めていたのに、今ではそんな味覚一切感じない。

 僕はふと思う。時が戻らないかなと、叶うわけがない夢を思い浮かべ願う。

 僕がサラの血を吸う前、サラがリシアの血を吸う前、サラが半パイアになる前。遡って、遡って遡って遡って遡って遡って遡って遡って遡って──

「……バカじゃないのか」

 自分のバカさ加減に、アホな考えに、くだらなさに。僕は嘲笑し苦笑いしため息をつく。

 わかっている。ネガティブなことばかり考えて、ダメだダメだとそれを前提に置いて、部屋に引きこもっていては何も変わらないわからないって。

 それでも今の僕にはまだ、この部屋から出る勇気はない。ベッドから立ちあがろうとすると、それと同時に胸が傷み始めて、心臓が感じたこともないほ度に暴れ出す。

「はぁ……」

 ただ一度、変なことをしてしまったせいで、間違た道に一歩踏み出してしまったせいで、こんなにも妹に会うのに躊躇してしまうとは。正直想定外。

 今までの自分がわからないし思い出せない。僕は一体全体、どんな顔でどんな態度でどんな声色でどんな調子でサラと関わっていた? 話していた? 一緒にいた?

「……頭痛い」

 変なことを考えたからか、難しいことを考えてしまったからか、答えの出ない疑問に悩まされているからか。こめかみの辺りにズキズキとした痛みを感じた。

 僕はそれをなんとなく右手で押さえながら、全身の力を抜きながら横になるためゆっくりと倒れる。

 視線が変わり、天井の代わりに見えるのは部屋の扉。閉められている扉。開けなければいけない扉。

 それを見ながら僕は、舌打ちをしようとしてそれをやめて、小さくため息をついて──

「……もうちょっとしたら……出てみよう……」

 と。思ってもいないことをとても小さな声で呟いた。

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