239.会いたいLove
「お兄ちゃ……違うこのトーンじゃない……おに……ううんこんな声色じゃダメ……お……全然ダメだぁ……はぁ……」
お兄ちゃんの部屋の前で、私はその場にしゃがみ込み、小さくため息をついた。
ようやく気持ちが落ち着いたから部屋から出てみたものの、いざお兄ちゃんと会おうと思うと、罪悪感と羞恥心と嫌悪感が私を止まらせる。
リビングにも行けない。クティラちゃんとティアラちゃんとはどう絡めばいいのかわかんないし、今の私はリシアお姉ちゃんの超絶全肯定甘々撫で撫では求めていないから。
「……一旦戻ろ」
誰かに囁くように、扉の先にいる人に聞こえるように、自分にいい聞かせるように。私は小さな声でそう呟きながら、膝に手を当てながらゆっくりと立ち上がった。
わざとらしく足音大きく立てて、部屋の扉が開かないかと期待してその場で少しだけ足踏みをして、数秒後何も起きなかった廊下を私は歩き、真っ直ぐに自分の部屋へと向かう。
ドアノブ捻って扉開けて、部屋の中に入ると同時にため息をついて、閉じる音が聞こえないようゆっくり丁寧慎重にそれを閉める。
閉めたと同時に私は扉に背をもたれさせ、そのままゆっくりとその場に座り込んで、もう一度小さくため息。
(……あーあ)
なんか少しだけ泣きそうになってきた。目頭が熱くて、胸の辺りがきゅっと絞められて冷たい何かがそこを通り抜けて、心臓がバクバクと動き始めている。
「……どうしようかな」
何も思いつかない浮かばない考えつかない。だって本当に、どうすればいいのかわからないから。
あえて何もなかったかのように、いつも通り接してみる? そんなの無理だ。自分の抱えている想いを完全に隠し切ってお兄ちゃんを騙せるほど私は、縁起が上手ではない。
「……あーもう……もう……もぅ……。頭痛い……」
思わずこめかみを右手で押さえながら、私は絞り出すように呟く。
お兄ちゃんから来てくれればいいのに。お兄ちゃんから何か言ってくれればいいのに。お兄ちゃんの方から話しかけてくれればいいのに。お兄ちゃんの方から仲直りを提案してくれればいいのに。お兄ちゃんから私をフォローしてくれればいいのに。お兄ちゃんが私を助けてくれればいいのに。
溜まる不安、募る不満、止まらない自分欺瞞、抑えきれない我慢。
「……とりあえず……待とう……待ってみよ……どうせ夜ご飯の時間になったらみんなリビングに集まるんだし……お兄ちゃんも来るだろうし……私も行くし……その時になんかこう……うまいことお話しできればいいや……うん……そうだよ……そうだよね……そうそう……そうしよっ……」
私はぶつぶつ呟きながら立ち上がり、フラフラしながらみんなの布団を踏みつけながら部屋の中を進み、倒れ込むようにベッドの上へとぴょんっと飛び乗る。
そばにあるぬいぐるみを手に取って、抱き枕に足を絡めさせて、枕の元まで寝っ転がりながら移動して、頭を枕に乗せたら目を閉じて──
(……眠れるわけないじゃん)




