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24.キス・ザ・ガール

「エイジ……お願いエイジ……エイジには何もしないよ? 痛くしないよ? 苦しませないよ? 助けてあげるよ? ね? ね? ね?」

 ふらふらと全身を揺らしながら、グラグラと身体を動かしながら、リシアがゆっくりと僕に剣先を向けてくる。

「私が……私が痛めつけるのはその肩に乗っている小さくて可愛らしいミニヴァンパイアだけ……倒せばエイジはきっと助かるきっと戻れるきっときっと……」

 リシアの目が、瞳孔が渦を巻いている。明らかに正気ではない様子。

 僕の頬を、額を、首筋を、頸を、背中を冷や汗が滴る。ベタベタとして、少し気持ち悪い。

「なあクティラ……勝てないんだったらどうするんだよ……」

 肩の上に座るクティラを見て僕は呟く。

 クティラはいつも通り自信に満ちた顔をしていたが、少し顔がひくついているようにも見える。

「今必死に考えてるところだ……私が良い案を思いつくまで必死に避けろ」

 僕に不安を抱かせないためか、クティラはいつもと変わらず自信満々な声でそう言う。

 そんな彼女の優しさがちょっと心に沁みて、ほんの少しだけ泣きそうになった。

「死ぬ気で避けるんだぞエイジ……私が死んだらお前も死んでしまうからな」

「それ、リシアに伝えたらクティラを狙うのやめてくれるんじゃないか?」

「話を聞いてくれる状態ならな……今の感じでは無理だ」

 僕はリシアをじっと見つめる。彼女の動きを、予備動作を見逃さないようにじっと──

「……ッ!」

 リシアの顔を見た瞬間、彼女は目にも止まらぬ素早さで僕に襲いかかってきた。

 机が、ソファーが倒れる大きな音。それと共に僕に襲いかかってくる強風。すぐ横をすり抜けていった鋭利な刃。

「あぶね……!」

 少し反応が遅れていたらきっと、クティラはリシアの持つ剣で真っ二つにされていただろう。

 ただでさえ速いのに、攻撃してくるたびに更にに速くなっている気がする。

「……よしエイジ! 考えついたぞ思いついたぞ完璧な作戦だぞ!」

「マジか!」

 クティラの嬉しそうな声に、僕も思わず歓喜して彼女を一瞥する。

 普段同様自信満々に腰に手を当てて、ドヤ顔をしているクティラ。普段は少しウザく感じるその姿勢も、今はただただ頼もしい。

「……むぅ……私よりヴァンパイアと仲良くしてる……私エイジ守ってるのに守りたいのに……守れないからなのかな……守れていないからなのかな……私よりヴァンパイアなの? なの? なのかな……かな……なんで私よりヴァンパイアなのかな……?」

 剣と剣を勢いよく叩き合わせ、鈍い金属音をリシアが奏でた。

 それに反応し僕は思わずリシアを見る。ぶつぶつと呟きながら、彼女は延々と剣を擦り合わせている。

「は、早く言ってくれクティラ! その完璧で究極の作戦を!」

「うむ! お手軽……とまでは言わないが、簡単かつわかりやすい凄い作戦だぞ!」

 にこやかな笑顔でサムズアップをするクティラ。僕もそれに釣られて、思わず彼女に向け親指を立ててしまう。

「よし! ではエイジ! リシアお姉ちゃんにキスをしろ!」

「……はあああ?」

 何を言っているんだこのバカ吸血鬼は。

「あー! 今エイジバカって言ったな!?」

「当たり前だろバカ! なんで僕がリシアにキスをしないといけないんだ! それに今のリシアにどうやってキスをしろっていうんだよ!?」

 僕はクティラを睨みつける。すると、クティラは僕に睨み返してきた。

 負けないように睨みつける。唸りながら、僕はクティラを睨み続ける。

「いいかエイジよく聞け! リシアお姉ちゃんは情緒不安定な繊細な女の子だ! お前がヴァンパイアと契約した事を聞いてあんなに大暴れするほどにな!」

「そ、それがどうしたってんだよ!」

「大きなショックによる暴走を止めるには、更に大きなショックを与えればいいのだ! つまりキスだ!」

「だからなんでそれでキスになるんだよ!」

 僕はクティラを怒鳴りつけながら、睨みつける。

「ええい! 童貞の鈍感さは化け物か!」

 すると彼女はぴょんっと飛び上がり、僕の頭の上に乗ってきた。

 見覚えのあるシチュエーション。脳裏に浮かぶデジャブ。もしかしてこれは──

「ふんっ!」

「あいたぁ!?」

 やっぱりだ。頭に何かを刺される感覚。棒状のものがブスッと刺さった感覚。

 コントローラーだ。クティラと初めて会ったあの夜同様、彼女は僕の頭にコントローラーを刺してきた。

「では行くぞエイジ!」

「クソ……! わかったよ! その代わり絶対作戦成功させろよ!」

 僕の意思に関係なく、僕の身体が動き始める。

 妙な構え。例えるなら、荒ぶる鷹のポーズ。そんな構えをしながら、クティラの操る僕はリシアを見つめる。

「……何それエイジ……あはは……はは……」

 目は死んでいるのに、リシアが笑みを浮かべる。

 それと同時に彼女は突撃してきた。なのに何故か、クティラはそれを避けようとしない。

「おま……!」

 速すぎて見えないが、今、リシアが目の前の現れたのを感じた。

 その瞬間、僕の身体はしたこともない変な動きをして彼女を避け──

「行くぞエイジィィィィイイイイイイ! 堪能しろおおおおおおお!」

 リシアの動きが止まった瞬間、僕の身体は彼女の元へと瞬時に向かい──

「……ひゃ!? エ、エイジ!?」

 片手でリシアを優しく抱きしめ、空いている手で彼女の顎を優しく持ち上げた。

「わわわ……!?」

 瞳孔をぐるぐると渦巻かせたまま、リシアの顔が真っ赤に染まる。

 僕の顔も熱が帯びてとても熱い。つまり、顔が真っ赤になっているということ。

 仕方ないんだ。これは仕方ないことなんだ。後で謝ろう。全力で謝ろう。

 そう思った瞬間、僕の左手は更に高く彼女の顎を持ち上げ、そのまま彼女の元へと顔を近づけ──

 優しく、口付けをした。

 温かく、少し湿っている柔らかい唇。リシアの小さく、甘い唇。

 その感覚が、味が、唇を通して僕の全身に伝わっていく。

「んむむむぅ!?」

 次の瞬間、リシアの顔が更に真っ赤に染まり、全身から湯気を出しながら──

「ひゃう……ぅう……!」

 リシアが爆発した。大きな音を立てながら頭上から煙をたくさん出して、彼女は意識を失った。

「……ふう。とりあえず落ち着かせることに成功したなエイジ」

 ブチッと、僕の頭からコントローラーが引き抜かれる音がした。

 自由になった僕は、自分の体を自分の意思で動かして、リシアを優しく抱き抱える。

 そしてゆっくりと倒れたソファーの元に向かい、そこに彼女を優しく寝かせた。

「……ったく。作戦成功したからいいけどさ……」

 僕はそっと、自分の唇に人差し指で触れる。

 まだ残っている気がする。リシアの温かさが、柔らかさが──

「……ッ! 後で土下座しないと……」

「別にしなくてもいいと思うがな。よっと」

 と、クティラが肩の上にぴょんと降り立ってきた。

「とりあえず、これでリシアお姉ちゃんを落ち着かせることに成功したな。目が覚めたら流石に暴走状態ではなくなっているだろう……キスもしたしな」

「そうかよ……まあ、誰も大怪我しなくてよかったよ」

 僕はそう呟きながら、荒れに荒れた部屋を見回す。

「リシアが起きるまでに片付けておくか……」

「大丈夫だぞエイジ。この前のヴァンパイアハンターから手に入れた例の便利装置、発動しておいたから」

「……クティラって、何気に優秀だよな」

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