234.共有享楽悦楽快楽・強愛強大共愛兄妹狂愛共依存:兄視点
サラが僕を見つめる。じっと見つめてくる。逃すまいと、絶対に離さないと、私だけを見てと、目力に己の欲を全て込めて僕に注ぎ込んでくる。
可愛い妹、僕の妹のサラ。なんて可憐で、美味しそうで、素敵な処女なんだろうか。
違う。そんなことは思っていない。思ってはいけないはずなのに。それでも考えてしまう、感じてしまう、察してしまう、己の本能を欲を欲求を夢を望みを希望を食欲を。
自然と開く口はサラを求めている。自然と動いてしまう身体もサラを求めている。僕は、本心と全身全てでサラを求めてしまっている。
吸わせて欲しい。その柔肌の内に流れる甘くとろける甘美で甘味な処女の血を。
ダメだと自分に言い聞かせる。だけれど、強い理由が見つからなくて、自分を全く納得させられなくて、溢れ出る激情が感情を乱していく。
なにも考えたくない。違う、考えて考えて自分を止めなければならない。だけど、それはもうしたくない。
吸いたい。ダメだ。吸いたい。ダメだ。僕の中の吸血鬼と人間が、激しくせめぎ合う。
僕を見て微笑むサラ。兄として最低の劣情を抱く醜い僕を憐んでいるのか、それとも、受け入れようとしてくれているのか。兎にも角にも彼女は、僕を否定しようとはせず、ただただ微笑む。
やがて彼女は、細く長く綺麗な白魚のような指をこちらに向け伸ばし、僕の目の前にかかる銀髪をそっと払いのけた。
と、同時に。またもニコリと微笑むサラ。直後、彼女は僕の両肩を両手でぎゅっと掴み、ゆっくりと顔を近づけてきた。
(……ッ!?)
次の瞬間、首元に感じたのは柔らかく、ぬるっとした不思議な感覚。
それは僕の首筋を優しく挟み、ゆっくりと優しく、されど、どこか情熱的に激しく、それを吸い始める。
ちゅうちゅうと、肌を吸う水音が部屋に響き始める。それを鳴らしているのはサラ、僕の肌を吸っているのはサラ。
彼女の甘噛みは甘噛みというにはあまりにも激しく、されど甘噛みと称しても問題ないほどに、僕にそれを感じさせてきた。
やがて触れるのは唇や舌だけではなく、少し硬めのサラの歯。肌に押し込むように食い込むようにそれは僕の肌に触れるが、不思議と痛くなく痒くもなく、ちょうどよい圧に僕は、心地よさを覚える。
そのまま僕の肌を吸い続けるサラ。こんなにも甘えているのに、こんなにも血を吸いたいと甘えてきているのに、何故か彼女は一向に血を吸おうとはしない。
ちゅうちゅうと。どこか艶やかな水音だけを奏で、彼女は必死に僕の肌に吸い付く、吸い付き続ける。
──羨ましい。
僕の首筋に口付けできる彼女が、人の肌に吸い付くことを躊躇わない彼女が、自分に素直になれる自慢の妹が。
感じる。サラの欲求、サラのお願い、サラの催促、サラの気持ち、サラの誘い、サラの頼みを。
私を吸ってと彼女は言っている。言葉にせずとも伝わるサラの想い、僕に甘える思い、僕を求める願い。
──サラが望むのならば。
僕は卑怯にも彼女のためだと、自身の欲に嘘をついて、その嘘を自分自身に真実だと思い込ませて、ゆっくりと彼女の首筋へと顔を近づける。
本当にサラは思っているのか? 僕を誘っているのか? 僕を求めているのか? 心の奥底ではそう思いつつも、それを否定して、自身に都合の良いサラの心情を真実として建前にして、僕は彼女に近づいていく。
僕はゆっくりとサラを抱きしめる。両手でしっかりと、離さないように離れないように離されないように離れられないように逃さないように。
柔らかい身体。久しぶりに触れる実妹の身体。穢れを知らない処女の身体。
僕の胸が高鳴り始める。美味しそうだ美味そうだと、僕の中の吸血鬼が人間の僕に共感を求めてくる。
──我慢ができない。
僕は気づいた時には、サラの首筋に唇を付けていた。
決して噛まないように、唇だけで柔らかく挟むように、僕は彼女の首筋に吸い付く。
口内に広がるのは少ししょっぱい不思議な味。汗の味だろうか? こんなものは求めていない。僕が求めているのは、欲しいのは、しょっぱい柔肌に滴る汗のではなく、その内側に流れる鮮血。
だけどそんな僕を止めるのは、抑えるのは、未だ残る最低限の倫理観。
人間の僕の心が否定する。必死にそれ以上進まないように押し留めてくる。吸うな飲むな噛みつくなと、僕が僕を否定する。
それとは正反対に。僕の首筋に吸い付くサラは、僕が彼女に吸い付いたと同時に、勢いを増して激しく艶やかに淫らに乱暴に力強く、僕の首筋を吸う力を強めてきた。
僕の吸い付きに抵抗して増したのではなく、彼女はそれが嬉しくてより激しく僕を求めてきた。そう感じた。根拠はない。だけど確かに、そう感じる。彼女はそう、思っている。
それに気づいた僕はほとんど無意識に、サラの首筋の肌を吸う力を強めていた。激しく激しく、汚く艶やかに水音を奏でて。
──サラ。サラ。サラ。サラ。サラ。サラ。
大好きな妹の、大切な妹の、貴重な処女の、美味しそうな彼女の名を、僕は何度も何度も心の中で叫ぶ。呼びかける。
吸ってもいいのか? 僕は本当に彼女の血を吸ってもいいのか? この短時間で僕の脳内に何度も浮かぶ疑問と問い、その答えを──
──サラが今、僕の耳元で囁いてくれた気がした。
だから僕は、だから僕は、だから僕は、だからこそ僕は──
「……っ……ラ……!」
ゆっくりと彼女の肌に歯を立て、そのまま彼女の血を──
(……ッッッ!?)
サラの血を吸った瞬間、僕の脳内に、本来溢れてはならない何かが溢れ出した。
甘々で、トロトロで、クラクラで、ふわふわで、ズキズキとして、きゅるきゅるで、ゆらゆらで、くるくるで、ほにゃほにゃで、へにゃへにゃで、グサァっときて、ぬりょぬりょで、ぐらぐらで、ドロドロに、脳内が変な感じになってくる。
気持ちいい。美味しい。快楽と悦楽が、とても素敵な快感と爽快が脳内を満たし全身を解放させ、僕をおかしくする。
血の吸い方なんてわからないのに、わからないはずなのに。今までしてきたかのように、さも当然のように、僕はサラの血を吸う。吸い続ける。
──次の瞬間。僕が感じたのは、自分の血が吸われる感覚。
チラッとサラを一瞥。彼女は僕の肌を吸うのではなく、僕同様に、血を吸い始めていた。
目をぎゅっと瞑って、頬を赤く染めて、にこやかに微笑んで、嬉しそうに楽しそうに僕の血を吸い続けるサラ。
それを見て僕は嬉しくなって、楽しくなって、サラの血をさらに勢いよく、吸い始めた。
サラを抱きしめる。強く抱きしめてあげる。感謝を込めて、愛を込めて、彼女を求めて。
なんだか。ようやく。サラを。満足させられた。というか。なんというか。美味しいというか。素敵だなというか。
こんなにもサラが喜んでくれるのならば、こんなにも素敵な気持ちになれるのならば、どうして?
どうして僕はこれを今まで、必死に虚勢を張り拒んでいたのだろうか?
「……っは……っ……!」
僕たちはほぼ同時に、お互いの首筋から口を離し、お互いを抱いていた手を離した。きっと兄妹だから、満足したタイミングが同じだったのだろう、
口元に滴る一滴の血。それをサラは人差し指で拭って、僕を見て微笑む。
とろんとした焦点の合わない目で僕を見つめながら、はぁはぁと息を激しく乱しながら、全身に滴る汗を着ている服で拭いながら、サラはゆっくりと、倒れ込むように身を預け、そのまま僕を抱きしめてきた。
サラが何かを耳元で囁く。心地の良い声色、うまく聞き取れなかったが素敵な言葉。それを聞いた僕は小さく頷き──
「……ありがとう……ごめんな……サラ……色々とダメな兄で……」
脳内を侵す快楽と罪悪感と嫌悪感と悦楽に浸りながら、サラの頭をそっと撫でながら、僕はそう呟いた。




