229.繋がり
「私さ……自分が生きているって自信が無いんだよねぇ」
「……へ?」
にこやかな笑顔とは正反対に、咲さんは結構重いことを言い出した。
生きている自信がないって、どう言うことだろう。どう考えても見ても、咲さんは今、息をして今私の目の前で生きている。
「あは……♡ 疑問符浮かんだ? はてなマーク浮かべちゃった? 言い方が悪かったかもね……もしかしたら普通にこの表現、間違ってるのかも? でもそれ以外になんて表現すればいいかは私、わからない。だからもう一度言うね。私、生きてるなーって自信を持てていないの」
発する言葉の重さに対し、軽い調子で話す咲さん。一瞬脳がバグりそうになってしまう。突然こんな話を聞かされた驚きと、咲さんの歪な表情と言葉で。
「生きてていいんだって自信はあるんだー……。アムと……愛作くんのおかげでね。私を受け入れてくれた二人……バカみたいに閉じこもっていた私を無理やり外に出してくれた二人……大好きな二人……だから私、恵まれてるなーとは思うの」
「……うん」
「でもさ……結局それって二人の優しさに甘えてるだけでさ、与えられてるだけでさ、そう考えると……私ってなんなのかなーって思うときがあるの。二人は私に何かをしてくれたけど、私は二人に何かできてるのかなって。人との繋がりってさ……目に見えないじゃん? どうやっても確証を得られないじゃん? だから時折不安になる……与えられてるだけの私って、二人にとってどういう立ち位置の人間で、どんな関係の人間で、どれだけ大事に思われてるのかなって。私は二人のことが大事……だけど、思ってるだけでちゃんと伝えてないし、遠回しに伝えたりはするけれど、その意図が伝わっているかは不明瞭。生きているならさ……誰かと繋がってないとじゃん? 私はそれに確信を持てていない……好きな人に、依存しちゃっている相手に、自分という存在をちゃんと正しく、私が思うように相手が私を大切だと思ってくれるように、刻めているのかが心配なの。とても……心配になるの」
ゆっくりと。長々と自分の考えを語る咲さん。
私は彼女の言葉を完全に、完璧に理解できているとは思えないけれど。それでも端々に、理解できて共感できる部分があった。
繋がれているか、関係を築けているのか不安。その気持ち、私も時折感じる。
友達が少ないから、ずっと友達がいなかったから。私のことをわかってと一方的に言うわりに、どうせ理解されないと決めつけて、知らせようとせず知ろうとしなかったから。私は、エイジくんたちと友達になってからも、友達としての付き合い方がよくわかっていない。
それでも彼らは私と繋がってくれるから、私を繋げてくれるから。私は、今自分が生きているんだって、思えている。
「ケイちゃんは……どう? そんな風に思ったことある? あはっ……勝手だけど私とケイちゃん……似てるところ、あると思うんだよね♡ だから言ったの教えたの伝えたの……私の内緒の気持ち……」
ニコニコ微笑みながら、だけど、どこか憂いを帯びながら。咲畑さんが私に問いかける。
私はどう答えようか迷って、迷って、迷って──
「……うん。私たち、似たもの同士かも」
と。答えた。
すると咲さんはほんの少しだけ口角を上げて、両手を広げ私に抱きつこうとするが、すぐに思い止まり、私ではなく自分自身を軽く抱きしめる。
そのままゆっくりと。咲さんは私から視線を逸らし、小さく呟いた。
「……そっか」
その呟きを聞いて。私は一度小さく咳払いをしてから、ゆっくりと口を開く。
「私ね……」
吐露する。吐き出す。誰かに言いたかった秘めた気持ちを、誰かに伝えたかった私の気持ちを、誰かに聞いてもらいたい大切な気持ちを。
「……私ね、エイジくんたちが大好きなんだ。だって……私と友達になってくれたから……怖がって佇んでいた私に歩み寄ってくれたから……私が引っ込めちゃった一歩をちゃんと見て、彼からも出してくれたから……。それまでの私はね……一人で勝手に色々抱え込んじゃって、一人でずっと嫌悪感抱いて、一人で延々と肯定感下げてた……。だけどね……あはは……こんな事エイジくんやクティラちゃんの前じゃ言えないけど……私、彼らのおかげでね……今、生きてていいんだ、私は私そのままでいいんだって思えてるの。大好きなの、二人が。悩みを打ち明けられる存在……一緒に悩んでくれる存在……考えてくれる素敵な存在……本当に助けられてるんだよ……エイジくんとクティラちゃんには」
「ふーん……意外と愛作くん、やるんだね」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、少し小馬鹿にするようにエイジくんの名を呼ぶ咲さん。私はそんな彼女に釣られ、思わず笑ってしまう。
「あはは……ね。咲さん、もしかしてだけどその言い方、やっぱり……咲さんもエイジくんやクティラちゃんがキッカケで、何かこう……変われたの?」
「……んー……まぁ……愛作くんのおかげ、ではあるかなぁ……あはっ♡ 聞きたい? 私と愛作くんの馴れ初め……多分笑っちゃうかもよ?」
「いいの? よかったら聞かせて……!」
「もちろんいいよ♡ んー……それじゃさ……」
と。私がお願いをすると、咲さんはベンチから立ち上がり──
「ランチでもしながら……ね。どう?」
「……え?」
私に手を差し出しながら、優しい声色で彼女はそう言った。
一瞬、私は躊躇してしまう。だけどそれを察してか、咲畑さんは笑みを浮かべながら──
「……あはっ♡ 私たちもう友達なんだし……お互いぼっちよりは二人でこの街、楽しまない?」
と。言ってくれた。
私を友達だと、彼女は言ってくれた。
差し出された咲さんの手。それを手に取りながら私は、ゆっくりと立ち上がり──
「うん……! そうしよう……咲さん……!」
私は頷きながら、彼女の手をぎゅっと握った。
友達の手を、ぎゅっと。




