228.似たもの同士……?
「まさか広末くんに会うとは……全然思いもしなかったよ」
「あ、あの……出来ればケイって呼んでくれると嬉しい……です……」
「ん? うん、了解。じゃあ……ケイちゃん♡」
「ぅ……ちゃん付け……嬉しい……ありがとうございます……」
ケイちゃんの隣に座って数分。ケイちゃんはこちらを見ず視線も合わせず、どこか遠慮がちに私と会話をする。
もしかしてだけど、やっぱりちょっと迷惑だったかな。そうだよね、知り合いの誰にも会う気がなかったからその格好をしているんだろうし、話しかけられた時も驚いたんだろうし。
でも私は悪い子だから、意地悪だから、もう少しケイちゃんの事を知りたいから。気持ちを察して別れ離れる、なんてことはしてあげない。
「ねえねえ……いつからその……可愛い服を着るようになったの?」
「えっと……小学生の時には既に……。好きだから、着たかったから……あはは……」
「へえ……じゃあ存外プロなんだ」
「プロって……そんな……誇れるものでも褒められるものでもないですよ……」
服装についての会話を始めると、ケイちゃんはほんの少しだけ表情を明るくして、私の方を見て、喋り始めた。
似ている。昔の私にほんの少しだけ似ている。諦める前の私、何もかも嫌になる前の私、達観したフリを始める前の私に。
表情からは自信の無さが察せられ、声色からは恐怖と怖気、視線の動きは辺りを過度に気にする怯え。
(……まあ、趣味が趣味だしね)
なんとなくわかる。自分の好きなことに自信を持てない気持ち。
ケイちゃんはきっと今、自分は世界全体から浮いてる存在だと思っているんだと思う。昔の私もよく抱えていた。気持ち悪い本能に侵されていく本心が、嘘か真かわからなくなって、何もかもに確立した自信を持てなくて、自分の存在意義と存在意味に疑問を抱く気持ち。
種としての正当性を持たない本音、本心、気持ち、望み。私もよく苦しめられた。異端な存在を見る周りの眼と、それによって起きる自己嫌悪に。
正直今も苦しめられている。多分一生苦しむことになる。私が私として生まれてしまった瞬間に、それは決まってしまっているんだと思う。
ウザすぎ。世界が、自分が。
「あ、咲さんは……どうしてここに? やっぱりお洋服を? それともランチとか……?」
(変な親近感覚えちゃうな……。まだケイちゃんのこと、ちゃんと知らないのに。勝手に想像して、自分にとって都合のいい想像して、同情しちゃうだなんて……あはは……私、バカみたい)
両手を合わせながら、可愛らしい仕草をしながら、会話の止まってしまった私の代わりに、話題を出してそれを続けようとするケイちゃん。
いい子だな。人が出来ている。私と違ってメンタルが強いのかも。自暴自棄になって自分を傷つけるようなバカな真似はしてなさそうだ。
いや、してるのかもしれない。パッと見は普通の女の子だけど、どこか幸薄げな雰囲気を纏ってはいる。漫画で言えば、ハイライトの無い瞳でケイちゃんは私を見ている。
やっぱりこの子、私とどこか似てる気がする。
「ねぇケイちゃん……ちょっと聞いてくれるかな」
と。私は自分語りをしたくなって、その欲求が抑えられなくなって、ケイちゃんに話を聞いてくれるか聞いてみる。
するとケイちゃんはすぐに頷いてくれた。本当にいい子、アムの数倍くらいいい子だ。
「……ありがとっ」
ケイちゃんの頷きにお礼を伝えてから、私は風に揺られて私の肌をくすぐってくる髪の毛たちを耳にかけて固定してから、ケイちゃんの目をまっすぐにみてから、ゆっくりと口を開いた。




