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227.小さな世界、というより小さな街

(アムも一緒に来てくれればよかったのに……でもまぁ……あの人の誘いにアムが断れるわけないかぁ……優先順位ハッキリしてて凄いなアムは……)

 たくさんの人混み。そこに混ざる私は、スムージー片手に一人、特に目的もなく歩いていた。

 家になるべく居たくないから、あまり帰りたくないから。夜になるまで私はここで暇を潰す。夜遊びしてもウチは誰も心配しないから、寧ろ推奨されてるから、そこだけはちょっと助かる。

 とは言ってもまだ昼間。太陽はうざったらしいくらい眩しいし、幸せそうなカップルや友人グループが沢山いて、ちょっと歩きづらい。

 けれど私はこんな人混みが好きだった。オシャレな人たちに紛れて、私もそのうちの一人なんだよーっと歩けるから。そうすることで私も、普通の人なんだよーっと思えるから。

 だってそうじゃない? 休日に素敵なお店に行ってなんかキラキラしてる食べ物食べて、らしさ全開の雰囲気纏って飲み物片手に歩く。これが、大衆の考える普通でしょ?

 以前の私みたいに。夜の街ばかり歩いて、自分を傷つけるように、自分を確立させるために、本心殺して誰彼構わず無理矢理繋がりを持ち、ゆっくりと壊しながら、完全に無くなってしまわないよう崩壊させながら、ギリギリ心を保っていた毎日と比べたら、あまりにも健康的かつ平凡的すぎると思う。

 だからと言って。壊れかけているものが治った、というわけではないのだけれど。

(……いちごおいしー)

 ピンク色の液体を口に含みながら、喉に流し込みながら、私は歩き続ける。

 やけに甲高い声を持つ女の子がよくわからない単語を連発する五月蝿い広告。仲良さげに見えるけど裏では彼女を殴ってそうな雰囲気の男性。金だけ取られてそうな依存相手にゾッコン女子。

 私の見方が偏見だらけで穿っていることはわかっているけれど。何となーくみんなそんな感じに見える。誰かが作ったこの街の雰囲気に合わせて、浮くことないように自分を着飾って、楽しい話をしている感じのトーンで他愛ない世間話をして、定義が曖昧な幸せ人生を嘘で塗り固めて過ごしている。そんな感じに。

 そんなこの街の雰囲気が私は好きだった。だってここは一種のテーマパーク。みんながみんな、雰囲気も服装も喋り方も食べ物も何もかも統一されているから、まるで夢の国。

 素敵じゃない? 入園料を払わずにお手軽に現実逃避できちゃうなんて。まあ、事前準備と交通費は必須だけど。

(……わ……イケメン……彼女いるんだろうなー……でもあのアクセサリー……なーんか三人くらい浮気してそー……)

 他者を上辺だけで判断して、何も考えずテキトーな感想を述べながら、私は歩き続ける。

 私はどう思われてるかな。やばい女の子? 可愛い女の子? キモい女の子? ダサい女の子? 

 何でもいいよ。一瞬だけすれ違う人間を一々注視して、知りたいと思えるなんて稀だから。テキトーな偏見述べて印象付けて、すぐに存在を忘れて。私もそれをしているから。お互い様だから。

(ダメだってわかってるのに……自分がされたら嫌だって知ってるのに……何でしちゃうかなー……でもまぁ……口に出してないし、ちょっとくらいいいよねぇ……。災いのもと開かなければ、無病息災被害被らず……みたいな?)

 わけわからん事を考えてる自分に苦笑しながら、私はまだまだ歩き続ける。

 目的地を決めてないから、特にしたいことも決めてないから。ただひたすら歩き続けるしかない。強いて言えば目的は暇つぶし時間浪費、だけどそれを達するための手段がないから、思い浮かばないから、結局歩くしかない。

 歩いて。歩いて。歩いて。ぽけーっと過ごすしかない。

(知り合いとかいたりして……やだなぁ……セックスで繋がった仲ばかりだからなぁ……その時の私の外キャラ的に、また求められてホテル連れて行かれたりしたらダルいし……する気もないし……拒否するのほんと面倒だし……誰にも会わなくていいや)

 とか思いながら。私は見知った顔がいないか、キョロキョロと左右に顔を動かしながら、歩き続ける。

(……ん? あれ? なんか見たことあるような……あのベンチに座ってる可愛い女の子……んー……?)

 と。私は目に入った一人の女の子にやけに惹かれて、彼女をじっと見た。

 確かに見たことのある顔。だけど、誰だか思い出せない。

 そんなわけがないんだけど。あんなに可愛い子、知り合っていたのだとしたら、私が忘れるわけがない。

 もしかして有名な芸能人、もしくはインフルエンサー? にしては私以外の人が興味持たなすぎだし、彼女も隠さなすぎ。

(……話しかけてみようかな?)

 私はそう思い決心し、ゆっくりと彼女の元へと向かう。

 疑問は解消しておきたいし、万が一ただの勘違いで誤りだとしても、すぐに謝ればいいし。

「あのー……すみません」

「……ぅえ? え!? あ!?」

 私が話しかけ、彼女は顔を上げると、悲鳴にも似た驚きの声を上げながら、目を見開きながら、信じられないと言った様子で私から顔を逸らした。

(この反応……少なくとも彼女は私を知っている? もしかして過去にヤッたことある……? いやいや……だとしたら私、覚えてるし……)

 彼女の正体が気になる。何で聞けばいいのかな? 君の名は? とか?

「あ……っと……! さ、咲さんなんでここに……!」

「……ん?」

 咲さんと呼んだ、咲さんと呼ばれた。しかも聞き覚えのある声で。それも先日聞いたばかりの声色。

 そんな呼び方をする知り合い、いたっけ? アムは咲だし、愛作くんは咲畑さんだし。

(……あっ!)

 思い出した。つい先日知り合った子、愛作くんのお家で開かれたパーティで少しだけ話した──

──男の子。

「え……も、もしかして広末敬一……くん?」

「え!? あ! はい! じゃ、じゃなくて! あの……ぅぅ……ち、違いますぅ……!」

「いや……返事したししちゃってるし、今更誤魔化すとか無理だし……」

 正直驚いた。確かに可愛い男の子だなと思っていたが、まさかプライベートでは女装をしているとは。

 それも、家の中や人の少ない場所ではなく、こんな大勢のいる場で堂々と。

(へぇ……! 中々凄い子かも……ちょっと仲良くなってみたいかな……)

 私は何となくそう思い、驚き震える彼──彼女と呼ぶべき? え? どっちだろ?──の隣に座った。

 それにまた驚く広末くん。私はその様子にちょっと笑ってしまう。

「あ……あの……」

「私、今暇なんだよね……。広末くん、ちょ……っとだけ、暇つぶしに付き合ってくれない?」

「え……ぇ……ぅ……わ、わかりました! その代わりこの事……誰にも言わないでください……!」

「ん? うん、オッケーオッケー。言われたくないなら私、ちゃんと黙るよ隠すよ言わないよ……♡」

 いい暇つぶしになりそう。そう思いながら私は彼を見て、印象が良くなるよう笑みを浮かべた。

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