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225.不可抗力

「ありがと、お姉ちゃん……」

「うむ! よしよし……だッ!」

「……もうやめてくれよ」

 リシアがサラを連れて、サラの部屋に戻った後。僕は、銀髪赤眼美少女姉妹にめちゃくちゃ煽られていた。

 見られた恥ずかしい行動。見られてしまった恥ずかしいやり取り。見て欲しくなかった情けない姿。忘れて欲しい黒歴史。

 それを彼女たちは先ほどから、わざわざ僕の目の前で実演をいている。ティアラちゃんは何故かガチで演技しながらやってるからまだいいけれど、クティラのそれは明らかに僕に対する煽りであり、挑発だ。

 とは言え、全く悪意を感じはしない。それ故、僕は彼女たちに強く、そのモノマネを止めるようにとは言えない。それをしたら絶対に気まずい空気になって地獄みたいな雰囲気になるのが目に見えているし。

「……あははっ! お姉ちゃんリシアお姉さんにそっくり!」

「ふふふ……ティアラもエイジそっくりだ。リシアお姉ちゃんに撫でられ珍しく表情が柔いでいた、甘えたがりモードのエイジにな」

(似てないだろどっちとも……特にリシアは)

 銀髪赤眼美少女姉妹のやり取りを見ながら、僕は小さくため息をつく。

 今日一日はこんな感じで煽られるんだろうなぁと思うと、ほんの少しだけ憂鬱だ。何よりそれが嫌な理由は、彼女たちの煽りにどう反応したらいいのか全くわからないから。

 やめろよとか、やめてくれとか、そんな感じの言葉しか思い浮かばないし、言えない。煽られるわ反応しづらいわ、己がした恥ずかしい行動をモノマネされて煽られるのって、この世で最も嫌な煽りかもしれない。

「……ねえねえエイジお兄ちゃん」

 と。突然、僕の左隣にティアラちゃんが現れ、服の袖をくいっと引っ張りながら、僕の名前を呼んだ。

 瞬きする直前まで、僕の目の前にいたのに、一体全体どうやって一瞬でソファーに座り、尚且つ袖を引っ張れたんだろう。

 そういえばクティラもいない。ほんの一瞬前までいたのに、そこに居た彼女の姿は消えている。

 ティアラちゃんが左にいると言うことはよもや、クティラは右に? 僕はそう思い、ゆっくりと右へと顔と視線を向ける。

「む? 呼んだのは私ではなくティアラだぞ?」

「……わかってるよ」

 僕の右隣に居たのは、予想想像想定通り、ドヤ顔バカ銀髪赤眼美少女お姉ちゃんクティラだった。僕がティアラちゃんに反応するよりも先にクティラが居るか否かを確認してしまったからか、ティアラちゃんの言葉に反応し自分の方を向いたと思い込んでいるからか、クティラは首を傾げながら疑問を声に出す。

「エイジお兄ちゃーん?」

「……あ、ごめんティアラちゃん」

 クティラの方を見る僕に疑問と不満を抱いたのか、ティアラちゃんは先程よりも強く、袖を引っ張りながら僕を呼ぶ。

 ので。僕はすぐに謝りながら、彼女の方へと振り向いた。

「あのねエイジお兄ちゃん……私、お腹空いてきちゃった」

「え……!?」

 ティアラちゃんの飢えを聞き、僕は思わず廊下の方へと振り向く。

 ティアラちゃんの飢え、ティアラちゃんの食欲、半パイアの欲求、吸血鬼の求める食事、彼女が望む栄養素、一心同体のサラ、先ほどのサラ、飢えたサラ、血を求めたサラ。

(まさかまた血を……!?)

「へ!? エイジお兄ちゃん!?」

 気づいた時には僕は、ソファーから立ち上がり走り出していた。

 歩き慣れた廊下を走り抜け、ノックをするはずの扉を勢いよく開け、僕はサラの部屋へと飛び込む。

「サラ!」

「ぴぇ!?」

 リシアの驚く声が聞こえた。僕に驚いたのか、それともサラに襲われかけ驚いているのか、それはわからない。

 目の前には驚きの表情を浮かべ僕を見るリシアと、上下下着姿のサラ──

「……あ」

 プルプルと震え、顔を真っ赤にして、見開いた目で、されど睨みつけるように、サラは僕を──

「バカァァァアアアッッッッ!!!!!」

 サラが大声で叫んだ瞬間、僕の目の前に現れたのは、五百円玉が沢山入る系の貯金──

「わあ!? エイジが一撃ノックアウト!?」

「あ……お兄ちゃんごめんなさい……だけどお兄ちゃんが悪いもん……急に入ってくるんだもん……普段そんなことしないのに……バカ……」


 *


 愛作サラの部屋の前。閉ざされた扉の前に倒れている愛作エイジ。廊下に力無さげに倒れる彼を、ティアラがツンツンっと突いていた。

「エイジお兄ちゃん起きてー。お腹空いちゃったよー?」

 そんなティアラを見ているクティラは、腕を組みながらドヤ顔を浮かべている。

 数秒後。クティラはティアラの肩をポンっと叩いた。ティアラはそれに反応し、クティラの方へとゆっくりと顔を向ける。

「本日の食事当番が倒れたならば仕方があるまい……たまには二人で作るか? 姉妹で仲良く、な」

「わぁ……それいいかも! うんそうしようお姉ちゃん!」

「うむ……では行くか。キッチンに」

「……ねえお姉ちゃん。この倒れてるエイジお兄ちゃん……どうするの?」

「放っておけ。妹の生下着を見たのだ。相応の罰だろう……ふふふ」

「お姉ちゃん楽しそう……なんで?」

「妹を思うが故の後先考えぬ行動……それで生じるラッキースケベ……信頼親愛する妹からの不可抗力的暴力……まるで一昔前のラノベの主人公、及びラブコメの主人公のようなシチュだろう? 私はそれがリアルで見れたのに満足しているのだ」

「……んにゃ?」

「さてティアラ。とっととご飯を作りに行くぞ? 何を作りたい?」

「えっとね……私、お姉ちゃんとなら何でもいいよ! 何でも作るよ!」

「ならば冷蔵庫にあるモノを見てその場その場で考え、謎の創作料理でも調理しようか……行くぞティアラ!」

「はい! お姉ちゃん!」

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