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224.自信喪失

「……そっか。サラ、吸っちゃったんだな……リシアの血」

「うん……吸わせてあげちゃった。可哀想だったから……苦しそうだったから……見ていられなかったから……」

 ティアラちゃんが血を吸った感覚がした、と言うので。僕たちがリビングに戻ると、そこにはリシアと、彼女に抱きつきながら眠るサラが居た。

 何があったのか。想像は出来ていたが改めてリシアに聞くと想定通り。サラがリシアの血を吸ったと聞かされた。そう答えたリシアの表情はどこか暗く、だけど何故かほんの少しだけ明るく感じる。

 僕は昨日、ケイに聞かされた言葉を思い出す。半パイアになったからには、半パイアの抱える苦しみ悩み、それをサラも抱くことになるという話。

 あの苦しみ。二度と感じたくない苦しみ。どうしようもない苦しみ。一人ではとても抱えきれない苦しみ。

 ケイはその時が来たら、僕がちゃんとサラの面倒を見てあげるべきだと語った。しかしその時、その時が来た時、実の妹が苦しんでいる間僕は、クティラやティアラちゃんと漫画談義をしていた。

 何も気づかなかった。言い訳にはなるがクティラと違い、ティアラちゃんは全然飢えた表情も素振りも見せなかったから気づかなかった。同じ部屋に居ないと言うのもあるし、正直、談義に夢中でサラのことなんて何も考えていなかった。

「……エイジ?」

 土曜日のデートの時もそうだった。サラのことを気にかけるきっかけなんていくらでもあったし、僕がもう少しちゃんと配慮してあげられていれば、あんな悲しい事を言わせることもなかった。

 僕はリシアを見る。そして、彼女に抱きついて寝ているサラを見る。まるで本物の姉妹、仲良しの姉妹、お互いを思い思い合っている理想の姉妹、未来永劫仲良好な姉妹。

「……どうしたのエイジ? 顔、暗いよ……? もしかしてサラちゃんが心配? あはは……それなら大丈夫だよ。私がちゃんと撫でてあげたから……吸わせてあげたから……サラちゃん、落ち着いてるよ?」

 そう言って。女神のように微笑みながら、彼女に抱きつくサラを優しく撫でるリシア。

 僕はその光景を見て。リシアの凄さを感じて。自分の情けなさに胸を痛めて。思わず俯いてしまった。

 実の兄は僕なのに。血が繋がっているのは僕なのに。どうして僕は、リシアのように大切な妹をちゃんと、妹として愛せていないのだろう。

「……リシア」

「ん? どうしたのエイジ」

 僕はリシアの名を呟きながら、彼女の隣へと腰掛ける。

 それと同時に彼女に聞こえない程度の大きさのため息をつき、視線だけをリシアに向け──

「……僕って、サラに必要なのかな」

 と。内に秘めていた思いをつい、吐き出してしまった。

「……何を……言ってるの?」

 睨みつけてくる。リシアが僕を睨みつけてくる。

 怒りを込めて、失望を兼ねて、呆れを混ぜて。リシアは信じられないと言った様子と表情で僕を睨みつける。

「……いや、だってさ」

 僕はそんな彼女から顔を逸らす。だが、そんな反応と態度を示しておきながら、聞いてほしいという欲求を抑えきれず、僕はそのまま話を続ける。

「土曜日の……その……サラとデートに行った時もさ。せっかくサラが楽しんでたのに……僕のせいでちょっと嫌な思いさせちゃってさ……。そしたら今日は……同じ半パイアとして一番苦しみをわかってあげられるのに、その場その時にそこに居なくてリシアに任せっきりにしちゃって……何も出来なかった。なんだかんだ言ってさ……サラは僕に甘えてくれるのに……信頼してくれているのに……僕はサラに何も出来てない、してあげられていない。リシアとは真反対に……」

「エイジ……あのねエイジ──」

「昔みたいに……素直に甘えてくれなくなったのはさ、僕がダメな兄だからだって、時折思うんだよ。それでも僕を頼ってくれる時があるから……僕はそんなサラの優しさに甘えて……変な風に兄貴ぶって……結局それっぽいムーブするだけで何も──」

 突然、僕の言葉は遮られた。唇に当てられた、リシアの人差し指で。

 僕は思わず唾を飲み込み、そのままゆっくりとリシアの方へと顔を向ける。僕の唇に人差し指を当てている彼女の表情は、一目見て怒っている顔だとわかった。

 頬を膨らませ、目を細め睨みつけ、唇をキュッと噛み締めているリシア。彼女は僕と目が合っても何も言わず喋らず、僕を見つめ続ける。

 数秒後。リシアの唇がゆっくりと動き始めた。

「ねえエイジ……それ以上自分を卑下したら私、本気で怒るからね。この前も言ったよね? 少しでも嫌な雰囲気になったら、少しでも嫌なことが起きたら、自分が悪い、自分のせいだと思い込むのはエイジの悪い癖だよって」

「……リシア」

「……お兄ちゃんが大好きなサラちゃんのことを、勝手にお兄ちゃんに不満を抱いている妹にしないで」

「……でも」

「……もうっ」

 僕がゆっくりとリシアから顔を逸らそうとすると、それと同時に彼女は何故か、僕の頭に手を添えてきた。

 そのまま優しく、丁寧に、暖かく。彼女は僕の頭を撫で始める。

「……あの……リシア……」

「いいから素直に撫でられてて……。あはは……本当に……手間のかかる似たモノ兄妹なんだから」

 嬉しそうに、どこか恥ずかしそうに。優しく微笑みながら僕を撫で続けるリシア。

 彼女の撫で撫でのあまりの心地よさに、得られる安心感に、僕はつい、この身を委ねてしまう。

「エイジはサラちゃんが好き……サラちゃんもエイジが好き……。それがわかってるんだから、変なことで一々ウダウダ悩まないで? サラちゃんはエイジに完璧なお兄ちゃんを求めてなんかいない……エイジその人を求めているの。エイジだって、今のサラちゃんよりも、もっと素直に甘えてくれる可愛い妹を本気で望んだことなんてないでしょ? サラちゃん以外の妹を望むだなんて……ありえないでしょ? 欠点含めてその人を好きになってるんだから……好意を向けられているのには理由がちゃんとあるんだから……不確かで自信がない自分の短所ばかり注視しないで、向けられた、与えられた愛を素直に受け取って? ちょっとのすれ違いだけで変にウジウジしてたら……どんどん道が逸れていって、本当に離れ離れになっちゃうよ?」

 優しい声色で、優しい言葉で、彼女なりに精一杯に、リシアは僕を慰めてくれる。

 僕はその言葉の心地よさに、リシアの包容力に。抵抗することはできなかった。

「……ありがと、リシア」

 僕はリシアにお礼を伝える。すると彼女はニコッと笑みを浮かべ、僕の頭を引き続き撫で続ける。

「うん! よしよし……」

(……でも流石に撫で撫では恥ずかしい。こんなのサラやクティラに見られたら……)

──そう思った瞬間、二人の鋭く強い視線を感じた。

 僕はそれに瞬時に反応し、向けられた視線の方へと顔を向ける。

 そこには。銀座赤眼美少女姉妹が二人仲良く横並びに立っており、僕たちをじっと見つめていた。

(……はっずかしい!!!)

「わ!? どうしたのエイジ!? 急に顔真っ赤だよ!? タコみたいだよ!?)

「なんでも無い……なんでも無いよリシア……本当になんでも無い……マジでなんでも無い……」

「……ぴぇ……ぇえ?」

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