220.今日強狂依存
ベッドの上。柔らかく、ふわふわとしているベッドの上。そこに私は、アムと一緒に寝っ転がっていた。
時折聞こえてくるのはアムの観ている動画の音楽。どこの国の言語かはわからない、おしゃれな感じの曲。多分、可愛い女の子がそれに合わせて踊る動画をアムは観ているんだと思う。
私は顔を上げ、チラリとアムの表情を一瞥。彼女は笑い声を出さずに、スマホの画面を見ながらニヤついていた。
そんなアムに私は少し不満を覚えた。だから私は顔を彼女の背中に埋め、ぎゅっと力強く抱きしめる。
それに反応してか。アムが一瞬顔を上げ振り返り、私を確認する。だが彼女は特に何も言わず、すぐに上げた頭を枕に戻し、スマホへと視線を戻した。
だから私はもっと力強く抱きしめる。アムの腰に左手を添えて、胸元の下あたりに右手を這わせ、ぎゅっと抱きしめる。
アムの柔らかい肌、ふわふわな身体、ぽかぽかとした温もり。私はアムに抱きつくのが大好き。
アムに出会う以前の私は、人に抱きつくのが苦手だった。だってそれは、自己を保つためだけに仕方なくやっていたことだから。
私を抱いて、私を犯して、私で感じて、私を認めて。それを言葉だけでは無く態度と身体で伝えるために、抱きたくもない人間を抱いていた。自分の存在意義を見出せなくて、生きていいと思える自信が無くて、自分が間違っていると思い込んでいて、必死に矯正しようと自身に強制していた。
アムに抱きつくことすら怖かった。抱きつきたいから、我慢できなくて時折抱きついていたけど、それをするたびに私は恐怖心を抱いていた。
嫌われたらどうしよう。嫌がられたらどうしよう。きっとアムは受け入れてくれる。そう信じていて、そう信じ込んで、必死に思い込んで、そうしてようやく私はアムに抱きつけていた。
彼女に抱きつきたい。そう思うたびに胸がドキドキと高鳴っていたのを覚えている。嬉しいドキドキではなく、恐ろしいドキドキが。
今はそうでもない。あの日あの時あのアムの言葉で私はようやく確信できたから。私は親友、アムが仲が良いと思ってくれている親友なんだって。
それでもやっぱり時折、あの頃感じていた恐怖心が私を襲う時がある。
私にはアムが必要だから。自分のしたいことをして、アムに嫌われたらどうしようって、いつも考えている。
こんな事言ってもいいのかな、こんなメッセージ送っても大丈夫かな、こんな事しちゃっても大丈夫かな。ずっと、ずっと考えてしまう。
変なことを言って誤解されて、地雷を踏んでしまって、アムに嫌われたらどうしよう。
私が話したい話題を送って、私が面白いと思った話を送って、それがアムにとってはつまらなくて興味がなくて、既読スルーをされたらどうしよう。
大好きだからしたい、もっとアムを感じたいからしたい。だけどその行動行為でアムを傷つけたり、怒らせちゃったりしたらどうしよう。
私はアムに依存している。自分でも怖いくらいに依存している。アムが居ないと生きていけない、そう言っても過言ではないほどに私はアムに依存している。
自分を、咲畑咲という存在を確立させてくれているのはアムだけなのだから。以前まではサキュバスとしての自己を証明するために無理してセックスに明け暮れる日々を過ごしていたが、今はそれをしていないから、余計に。
いや、アムだけは言い過ぎたかも。私には今は、アムだけでは無く愛作くんがいる。
けれど彼には正直強く依存できない。友達になったからとは言え、経緯が経緯だし、お互い大事な一歩を踏み出せずにいるから、それ以上の仲になるにはまだまだ時間がかかると思う。
もしかしたら、愛作くんの存在がより強く、私をアムに依存させているのかもしれない。愛作くんとも仲良くなりたいけど、私は人との付き合いが苦手だから、どれだけ強がっても心の奥底ではやっぱり嫌われることを恐れてしまう。
怖い。嫌われるのが怖い。嫌な女の子だと思われるのが怖い。私を好きになって欲しいから、私を嫌いになってほしくない。失敗したくない。不安。不安。不安。不安すぎて怖い。絶対に失敗する。間違える。嫌われる。怖い。嫌。絶対に嫌。でもやらかす。間違える。だから保険が欲しい。愛作くんが私を嫌ってしまったとしても、そんな私を受け入れてくれる、優しい誰かが待っていて欲しい。
私はそう思っている。そう思ってしまっているからこそ、私を好きだとハッキリと言葉にしてくれたアムが、仲良くなりたいと思うと同時に抱く恐怖心を和らげてくれていて、それがとっても安心できて心地よくて、より強く依存してしまっているんだと思う。
例えこれから何があっても、きっとアムは私を受け入れてくれて、私のそばに居てくれる。一緒に居てくれる。隣に立っていてくれる。そう思い込んで、そう信じ込んでしまっているから、私はもう──
──彼女から離れることはできない。のかもしれない。
今の私は、今の私のメンタルじゃ、アムと離れたらきっと壊れてしまう。
でも正直アムは、多分私が居なくても割と平気で暮らしていけると思う。きっとアムは私よりも、あの人のことが好きだから。
本当はアムにも私に依存して欲しい。私を求めて欲しい。けれどそれは、依存させてくれる彼女に失礼だから、思ってはいても私はそれを彼女には求めない。
だからこれは。私とアムの関係は、仲良しの女の子二人が抱く共依存じゃなくて、私だけが抱える狂依存。




