211.やる事思いつくことは同じだね
「こんにちは! 間違えたこんばんは! ティアラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトです! 司会務めます! じゃあ始めます! サラお姉ちゃん主催! 女の子だけのお泊まり会!」
「ふふふ……私は何度もラノベで読んだぞこの展開を。毒に薬にもならんやり取りを繰り広げ、何も考えず何も起きず、ただイチャイチャするだけの休息回……嫌いではない! 断じて嫌いではない!」
「せっかくみんな起きてるし集まってるんだしね! 三連休だから明日も休みだし! 全力で夜更かししちゃおー!」
「五人中三人が銀髪赤眼美少女……ぴえ……」
「……何で僕もここにいるんだよ」
全員が夜ご飯を食べ終え、全員が入浴を終えた夜遅く。僕たちは、サラの部屋に集まっていた。
集めたのは当然サラ。夜更かしするぞ楽しむぞと彼女は意気込みながら、僕らの意見は何一つ聞かずに、強制的にこの会は開かれた。強制的に。
一番謎なのは女の子だけと謳っておきながら、僕も参加していること。当然僕自ら参加したのではない。自分の部屋に戻ろうとしたら、サラに「お兄ちゃんもだよ!」と言われ無理矢理引っ張られ、連れて来られたのだ。
正直居心地は悪い。リビングにいる時は特に何も感じなかったのに、狭い部屋で女の子に囲まれたら、流石に何も思わないわけがない。
見た目は、身体は女の子でも、僕の心は健全な年頃男子高校生愛作エイジそのままなのだ。それをサラは忘れているんじゃないかと疑ってしまう。
不幸中の幸いは、親交の深い人ばかりと言うところだろうか。ここに咲畑さんや若井さんが居たら、緊張しまくって変な動きをしていたと思う。
「じゃあまずはー……えっと……サラお姉ちゃん、何するの?」
「んー……とりあえずお喋りしようよ。はいお兄ちゃん、お題もしくは話題出して」
顎に人差し指を当てながら唸り、直後それを離し僕へ向けるサラ。彼女は自分では何も提案することなく、何故かいきなり僕へ頼ってきた。
「……と言われてもだな。えー……」
必死に考える。脳をできる限り最速で動かし回し、自分の持つ知識と知恵をフル活用して、頑張ってものすごく考える。
だが何も思い浮かばない。当然だ、普段から僕は自分から話題を出す側ではなく、出される側なんだから。日頃プラクティスっていない事をいきなりできるわけがない。
「……じゃあはい! ここは頼りになるリシアお姉ちゃん!」
「ぴぇ!?」
僕に呆れたのか諦めたのか、小さくため息をついた後、サラは僕を差していた人差し指をリシアへと向け直す。
急に自分をピックされたからなのか、リシアは変な声を出しながら驚き、キョロキョロと辺りを見回し始めた。
「あ……うぇ……えっとね……えっと……えー……その……えっと……え……ええっと……あー……その……」
「じゃあ次クティラちゃん!」
「ぴぇ……今頑張って考えてたのに……」
数秒経つと諦めたのか、サラはリシアからクティラへと向ける指を変えた。
差され指名されたクティラは僕たちとは違い、ノーリアクションで目を閉じ、考えてる雰囲気を出す。
一秒二秒三秒。クティラは目を閉じながら、何も喋らない。
──瞬間。彼女は目をカッと開き、自信満々にドヤ顔を浮かべた。
「何も思い浮かばんッ!」
「自信満々に言うことじゃないだろ……」
「じゃあ次はティアラちゃん、はいどーぞ」
ビシッとではなくピシッと、サラはティアラちゃんを指差す。
するとティアラちゃんは可愛らしく首を傾げながら、猫のような声を出しながら唸り始めた。
三秒四秒五秒が経つと、ティアラちゃんは何かを思い浮かんだのか、ポンっと右で作った握り拳で左の手のひらを叩き、ニコッと笑みを浮かべ──
「じゃあ好きな人発表会しよう! 私はお姉ちゃん!」
と、彼女は言った。
僕はそれを聞いて思わずビクッとなってしまう。好きな人って、それ、誰を言っても揶揄われるやつじゃないか、と。
絶対に面倒くさい。特にクティラが面倒くさくなるだろう。もう目に見えている。
「次はサラお姉ちゃんね! もう聞いたけど!」
と。大声で叫びながらティアラちゃんがサラを指差す。
差していた相手に差され返されたことに驚いたのか、サラは目を見開きながら、何故か僕の方を一瞥した。
「そーなの? サラちゃん誰が好きなの?」
驚いた表情のまま固まるサラを見て、リシアが首を傾げながら問う。
それを聞いて正気に戻ったのか冷静になったのか。サラは一度全身をビクッとさせた後、質問をしてきたリシアの方を見て、ゆっくりと口を開いた。
「えっと……リシアお姉ちゃん」
「ぴぇ……! サラちゃん……! 嬉しい……♡」
サラの告白を聞いたリシアは、瞳孔にハートマークを浮かべ、これ以上ないくらいニヤけて、サラヘと勢いよく抱きついた。
物凄く嬉しかったのだろう。どう言う原理か全くわからないが、リシアはハートマークを全身から放出させながら「サラちゃん好き! サラちゃん好き!」と叫びながら、サラを力強く抱きしめ続ける。
「じゃあ次、お姉ちゃん!」
と。サラとリシアのイチャつきに飽きたのか、ティアラちゃんは一度その場でくるりと一回転してから、姉の名を呼びながらクティラを指差した。
指を差されたクティラは特にリアクションを取ることはなく、腕を組みながら、真顔に近い表情のまま口を開く。
「む? 私はティアラだが?」
「お姉ちゃん……♡ お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん! 私も大好きィィィィイイイイイイ♡」
「うむ、先程聞いたから知っている」
クティラからのラブコールを受けたティアラちゃんは、リシア同様瞳孔にハートマークを浮かべ、全身からそれを放出させながら、クティラにぎゅっと抱きついた。
お姉ちゃん好き、サラちゃん好き、お姉ちゃん好き、サラちゃん好き、と。ラブが止まらない二人のラブ宣言が止まらない。その声で、その愛で、部屋が満たされていく。
「じゃあじゃあ次、リシアお姉さんは!?」
「サラちゃん好き! サラちゃんだーい好き!」
「……痛いよリシアお姉ちゃん」
ティアラちゃんの質問に答えたのか、偶然答える形になったのか。リシアはずっと、延々とサラにラブコールをし続ける。
それを受け続けるサラの眉は、ほんの少しだけ顰められている。恐らくリシアに抱きつかれることに喜びつつも、あまりの力強さに痛みを感じているからだろう。普段通りの抱きつきなら、サラはこんな顔しないし。
(……て言うか僕、めちゃくちゃ浮いてないか?)
ラブを全身で表す二組の姉妹を見ながら、僕は小さくため息をつく。
ティアラちゃんもクティラに抱きつくのに夢中なのか、僕に誰が好きなのかを聞いてこないし。まあ、聞かれた方が困るからいいんだけど。
(……お茶でも取ってこようかな)
ハートマークで埋め尽くされていく二組のラブラブカップルを傍目に、僕はゆっくりと立ち上がった。




