209.銀髪赤眼美少女姉妹のお料理地獄!!
「エイジと!」
「ティアラ・ウェイト・ギルマン・マーシュ・エリオット・スマス・イン・ヤラ・イププトのー!」
「これぞ飯! これぞ食事! 究極無敵のつよつよお料理教室!」
「だよ!」
「えー……と……わー……パチパチ……?」
ビシッとバシッと決めポーズをするエイジとティアラちゃんを見ながら、私は首を傾げながら拍手をした。
現在時刻午後八時半。みんな疲れて眠ってしまっていたからか、いつもよりほんの少し遅い夕食。今日の当番はエイジ、エキストラでティアラちゃんだ。
「えー今日は……パスタを作ろうと思う!」
「わー! エイジお兄ちゃんすごーい!」
「ふふふ……もっと褒めてくれ、ティアラちゃん」
「すごいすごーい!」
何を作るかを宣言しただけなのに、やたら過剰にエイジを褒めるティアラちゃん。それに満更でもなさそうなエイジ。二人ともニコニコ笑みを浮かべながら、見つめ合いながら楽しそうに準備を始める。
(私もちょっと混ざりたいかも……でもティアラちゃん、楽しそうだしなぁ……)
私は小さくため息をついて。とりあえず彼らの調理を見守ることにした。
サラちゃんかクティラちゃんが居ればお喋りしながら待てたんだけど、二人は今、仲良くお風呂に入っているからこの場にはいない。残念。
「まずはパスタを茹でるぞ……ティアラちゃん! 塩!」
「はいどーぞ!」
「よっと……!」
(え……!? 入れすぎじゃない!?)
ドヤ顔で蓋を開け、明らかに異常な量を鍋に入れるエイジに私はつい、驚いてしまう。
塩を入れすぎたからダメなのかは知らないけど、けど、あれは絶対入れすぎだと思う。ちょっとおかしいくらい。
「リシア……疑っているな? その目は」
「へ!? あ、いや……!」
「安心しろ……安心しろよリシア……調味料ってのは、思っているよりも倍入れれば、それが正解なんだ」
「そうなんだ! 勉強になります! エイジお兄ちゃん先生!」
(……そんなことないと思うけどなぁ)
私は思わず、小さくため息をついてしまった。私も料理に詳しいわけじゃないから、強く言えないのがもどかしい。
「それじゃあ次に、沸騰したのでこの乾麺をポイポイポイっと入れまーす」
どこからか取り出した乾麺を、エイジはそれに付いているテープを外しながら、言葉通り放り込んでいく。
それを見ていたティアラちゃんは何故か目を輝かせ、元気よく片手を上げて叫ぶ。
「やらせてやらせてー!」
「はい、ティアラちゃん」
ティアラちゃんに頼まれたエイジは、すぐに彼女へ残りの乾麺を渡す。ティアラちゃんはそれを受けると、パァッと素敵な笑顔を咲かせ──
「アタッッッッックッッッ!」
「あちぃ!?」
勢いよく、まるでダンクシュートをするかのように鍋に乾麺を放り込むティアラちゃん。それの影響で飛び散ったお湯が、無慈悲にもエイジを襲う。
「ひゃー……」
エイジの乱暴さテキトーさ、ティアラちゃんの子供らしさが目立つ調理。なんか、すごい嫌な予感がする。
「あっつ……と、とりあえず次は具だな! 使うのはこれ! 豪華キノコセット!」
「はいはーいエイジお兄ちゃん先生!」
「はい! ティアラちゃん!」
「私に切らせて私に切らせてー!」
「ベネ!」
両手を上げ、元気よくお願いするティアラちゃんに、エイジは躊躇なく豪華キノコセットを渡す。
それを受け取ったティアラちゃんは、叩きつけるようにそれらをまな板に置き、何故か手のひらをそれらに向け、目をゆっくりと閉じる。
「ンラザ……ンジミ……ザラバク……トッカッ!」
小さくも力強い声で呪文を呟き始めるティアラちゃん。呪文の最後にティアラちゃんは叫ぶ。その直後、まな板を見えない何かが襲い、豪華キノコセットはバラバラに切られた。
とても歪なカット。微塵切りされていたり、薄切りだったり、ブロックカットだったり。なんかもう、色々とぐちゃぐちゃ。
「流石だティアラちゃん……!」
「えへへ……! 任せておいてよエイジお兄ちゃん先生!」
グッとお互いサムズアップをし、直後にガシッと握手をするティアラちゃんとエイジ。
すごく仲が良さそうだ。見ようによっては、サラちゃんよりも本当の兄妹に見えるかも。二人とも銀髪赤眼美少女だし。
「よし……茹で終わったな。それじゃあこれを取り出して……ティアラちゃん! フライパンの用意を!」
「すでに出来てるよ!」
「流石だ……!」
「次はこれだよね……エイジお兄ちゃん先生っ」
「そう……そうだよティアラちゃん……! これが必要だ……これ! ごま油!」
ニヤリと笑みを浮かべごま油を差し出すティアラちゃん。そんな彼女からドヤ顔をしながら、それを受け取るエイジ。
よくわかんない茶番的な何かが繰り広げられていて、私はどう反応すればいいのかわからなかった。コメディって感じじゃないから笑えないし、かと言ってシリアス一辺倒でもない。
頭を空っぽにした方がいいのかな。その方が夢を詰め込めたりもするし、そっちの方がいいのかも。
よし。何も考えないようにしよう。二人の仲良しお料理番組を特に何も考えず、ボケーっと見ることにしよう。
うん、そうしよう。
「はいドバー」
「入れすぎだよ!?」
「エイジお兄ちゃん先生! キノコ全部入れます!」
「フライパンから溢れそうだけど!?」
「そしてこの茹でた麺を……投! 入!」
「溢れたぁ!?」
「混ぜまーす♪ おりゃああああ!!」
「わー!? キノコがあちこちに!? エイジの顔が麺まみれに!?」
「そしてこれだ塩胡椒! これをかけとけば上手くなる! 上手くなるッ!」
「あー! 蓋が外れた!」
「混ぜまーす♪ えいやあああッッ!」
「うぎゃあ!?」
「飛び散った塩胡椒がエイジの目を穿った!?」
「混ぜ続けまーす♪ おぉぉおおぉぉぉおおおお!!!」
「更にここで刻みネギを投入……!」
「あ、エイジが入れようとしたネギが弾かれた……一個も入ってない……一個も入ってないよ!?」
「エイジお兄ちゃん先生! 火力上げますね!」
「ならばこちらはごま油を更に! 秘技! 追いごま油!」
「バチバチ鳴ってるけど!? キノコがポップコーンみたいに弾け飛んでるけど!?」
「うぐがぁ!?」
「あ……椎茸がエイジをノックアウト……!」
「んにゃあ!?」
「わ……今度はぶなしめじがティアちゃんをワンパン……!」
「リシア……あとは頼んだ……」
「リシアお姉さん……お願い……私たちの意思……受け継いで……?
「へ!? え!? わ、私!? あ! えっと……わー! キノコが攻撃を!? 油が反乱を!? 麺が焦げ焦げパリパリに!? と、とにかく火を止めなきゃ……火を止めなきゃ……火を止めなければ……!」
*
エイジとティアラちゃんのお料理教室が終わって数分。私とエイジとティアラちゃんは、ソファーに座るサラちゃんとクティラを前に、床に座っていた。
「ねえお兄ちゃん……お兄ちゃん今高校生だよね? 良し悪しの判別つくよね? できるよね? できないとおかしいよね? 一歩間違えたら本当にやばかったからね? 終わりよければ全て良しじゃないよ? やっちゃったことは仕方ないけれど、ちゃんと何がダメだったか把握して反省してる?」
コップを片手に、それに入っているオレンジジュースを飲みながら、サラちゃんがエイジを睨みつけながら、そう説教をする。
「お兄ちゃん……私の目を見て? 怒られてるんだよお兄ちゃん。今、あなたは怒られてるんだよ? ちゃんと目を見て聞いてよね……もうっ」
「……ごめんなさい。マジでごめんなさい」
「リシアお姉ちゃんもリシアお姉ちゃんもだよ!」
「ぴぇ!? あ、え、へ、あ、や、わ、わ、私も……?」
「当ッ! 然ッ!」
エイジを説教し終えたサラちゃんは、今度は私をビシッと指で差し、説教を始めた。
私はそれが意外で、すごくビックリして、思わずしどろもどろになってしまう。
「見てたんだよねリシアお姉ちゃん。二人のことちゃんと見てたんだよね? いくらお兄ちゃんが好きだからって、ティアラちゃんが可愛いからって、ダメなものはダメだってちゃんと言わないとだよ? 甘やかすのはいいけど……甘やかしすぎはダメ。リシアお姉ちゃんそういうところあるよ? 私にも時折過剰なほど甘いし……リシアお姉ちゃんもさ、もうすぐ大人なんだから。ちゃんと甘やかす程度は考えないとだよ?」
「ご、ごめんなさい……」
ガチ説教だ。おふざけなしのガチ説教。声色も普段より感情がこもっていてちょっと怖い。
だから私は、弁明も何もできず、ただ俯きながら、彼女に謝ることしか出来なかった。
「ティアラちゃんも! お兄ちゃんはこう見えて基本お馬鹿さんなんだから、あんまり一緒になって何も考えずに色々な変なことしないこと! 関わるなとは言わないよ? 仲良くしゃダメって言ってるわけでもないよ? ただ、ちゃんと考えて遊ばないとダメ。お兄ちゃんをちゃんと反面教師にして、しっかり良し悪し考えられるようになろうねっ」
「はーい……ごめんなさい……サラお姉ちゃん」
「ん、よしよし」
(ティアラちゃんにだけ甘い……)
謝るティアラちゃんの頭を、ニコッと笑みを浮かべながら撫でるサラちゃん。明らかに私とエイジに対する態度と違う。年下だからなのかな、ほんのちょっぴりだけ甘い気がする。
「……サラ。このパスタ、よくわからない味がするぞ」
と。サラちゃんの隣にいたクティラちゃんが、更に盛られたパスタを片手で持ちながら、ズビズバと食べ終え感想を述べる。
よくわからない味ってどんな味なんだろう。反応から察するに、食べられないというわけではなさそうだけど。
「ん、じゃあ責任取ってもらって、お兄ちゃんに全部食べてもらうから」
「え!? 僕!?」
「当たり前でしょ諸悪の根源! 全部食べてもらうからね……勿体ないし」
「……全部……全部か……全部かぁ……」
頬を膨らませながら怒るサラちゃん。怒られたエイジは辛そうに呟きながら俯き、大きくため息をつく。
そんなエイジを、隣にいたティアラちゃんがポンポンっと肩を叩く。
「私も食べるよエイジお兄ちゃん……頑張ろうね、二人で」
「……ありがとうティアラちゃん」
鼻水を啜りながら、ティアラちゃんにお礼を伝えるエイジ。
私はそんな二人の様子を見ながら、ゆっくりと彼らに近づき、私もエイジの肩をポンっと叩く。
「エイジ……ティアラちゃん……私も食べるね。一緒に食べるよ……」
「リシア……ありがとう」
エイジが私にお礼を伝えると同時に、私たち三人は自然と、無意識に抱き合っていた。
なんだかよくわからないけど、友情が芽生えたような、強まったような気がする。
「……クティラちゃん、私たちは何食べる?」
「む? そうだな……なんかテキトーな冷凍食品でいいんじゃないか?」
「んー……そうしよっか」




