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208.好きなの?

 日曜日の午後七時後半。仮眠から目覚めた僕はソファーに座りながら、ボケーっとしながらテレビを見ていた。

 僕膝の上にはリシアが寝ている。結局あの後あのまま僕たちはソファーで爆睡。よくあの状況でちゃんと寝られたなと、変に自分に感心してしまう。

「……ふわぁ……まあ……まだ眠いけど……

「ふにゃああああああああ……」

「……は?」

 僕があくびをして呟くと同時に、後ろから変な声が聞こえてきた。

 猫の鳴き声に似ているような、けれど人間の声にも聞こえるような。兎にも角にも、首を傾げたくなる変な声。

 リシアを起こさないよう全身を動かさないよう。僕は慎重に、ゆっくりと首を後ろへと向ける。

 そこに居たのは。大きめの枕を左手に、小さな熊のぬいぐるみを右手に持って、目を細めながらそれを手で擦っているティアラちゃんだった。

 髪はとてもボサボサ、水色のパジャマは所々はだけていて酷い着崩れ。いまいち視線が定まっていない様子。誰が見てもわかるしすぐに察せられる。彼女は今、起きたてだ。

「……あ……エイジお兄ちゃんおはよー……? あれ……まだ夜だからこんばんは……? でも起きたからおはよう……?」

 僕の視線に気づいたのか僕の姿を捉えられたのか。ティアラちゃんは表情を和らげ、ニコッと微笑みながら、とても小さな声で挨拶をする。

「おはよう……ティアラちゃん」

「おはよー……ねむねむ……」

 僕が挨拶を返すと、ご丁寧にそれに返事をして、ティアラちゃんは大きくあくびをする。

 そして、両手それぞれに持つ枕と熊のぬいぐるみを彼女はぎゅっと抱きしめてから、ゆっくりと歩を進め、こちらにやってきた。

「……あれ……リシアお姉さんもいたんだ……エイジお兄ちゃんたち……もしかしてラブってた……?」

「へ!? い、いや……ラブってないよ、断じて無いよ……!?」

「ふーん……よいしょ」

 と。ティアラちゃんは小さなあくびをすると同時に、軽くぴょんっと跳ね、ソファーに乗り僕の隣に座ってきた。

 そのまま彼女は手に持っていた荷物を自分の左隣に置き、その後、コテンっと倒れるようにして、僕に全身を預けてきた。

「……そういえばエイジお兄ちゃん……お姉ちゃんの魔法の効果切れちゃったんだね……女の子に戻ってるよ……?」

「え……? あ……本当だ……」

 眠たげに指摘するティアラちゃんに言われたまま、僕は今の自分の姿を確認した。

 男の僕には無いものが、決してあってはならないものが胸元に確認できる。それを見て僕は思わずため息をつきそうになるが、ティアラちゃんに聞かせたく無いので我慢する。

(寝る前は男だったんだけどなぁ……面倒くさいなぁ……)

「……あー……だからお姉ちゃん疲れた疲れた言ってたんだ……今日ずっと魔法使ってたから……」

 と。納得したように一人呟くティアラちゃん。

 その後、彼女は大きなあくびをしてから、ゆっくりと僕に預けていた身体を起き上がらせ、両手を天井に向けて伸ばし、全身を伸ばし始める。

「……ぷはぁ」

 全身に込められた力を一気に解き放ち、満足げに息を吐くティアラちゃん。今ので目が覚めたのか、先ほどまで細かった両目が今はパッチリと開いている。

「……んにゃ」

 そして、一言そう鳴くと、ティアラちゃんは勢いよくソファーへと座り込んだ。

 僕の隣に座るティアラちゃんは、ゆっくりとこちらへと顔を向け、じっと見つめてくる。

 じっと、じっと、じっと。物凄くじっと、逃す意思はないとじっと、離さない離れさせないとじっと。彼女はすごい目力で僕を見つめ続ける。

「……えっと」

 僕は思わず、首を傾げながらそう呟いてしまった。

 何か言いたいのだろうか。気になることでもあるのだろうか。それとも僕の顔に何か付いている?

「エイジお兄ちゃん……本当にリシアお姉さんとラブってない?」

「ラブってないよ!?」

「えー……つまんない!」

「つ、つまんない……!?」

 僕の返事に不満を抱いたティアラちゃんは突如立ち上がり、ビシッと勢いよく人差し指で僕を差す。

 そしてその場で器用にくるりと一回転し、彼女は改めて僕を指差す。

「私は知ってるんだよエイジお兄ちゃん……日本の男女幼馴染は付き合う運命結婚する運命繋がる運命愛し合う運命だって!」

「そ、そうでもないんじゃ……」

「じゃあエイジお兄ちゃん、リシアお姉さんの事好きじゃないの?」

「へ!?」

 指で僕を差したまま、きょとんとした表情をしながら首を傾げ、問うティアラちゃん。

 僕はそんな彼女の反応に、質問に、オドオドしてしまう。どう答えればいいのか、それを答えるべきなのか、悩んでしまっているから。

「エイジお兄ちゃんはリシアお姉さんのこと……好き?」

「それは……」

「じゃあ嫌いなの?」

「そんなわけ!」

「それじゃあそれじゃあ?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、人差し指でティアラちゃんは僕を突いてくる。

 これはもう、答えるしかなさそうだ。決まっている答えを、分かりきっている答えを、僕は彼女に伝えなければならない。

 僕はリシアを一瞥する。彼女はまだ目を閉じている。だから多分、大丈夫だろう。

 ので。固唾を飲んで、拳をぎゅっと握って、一度咳払いをして、僕はティアラちゃんの方を見て──

「僕は……リシアのこと、好きだよ」

「大好き?」

「……大好き」

「やっぱり……!」

 僕の返事に、答えに満足したのか。ティアラちゃんは目を輝かせながら喜ぶ。

 そして、もの凄い勢いで僕の脇腹を人差し指で突いてきた。思わず全身でそれから逃げようとしてしまうが、リシアが寝ているので彼女を起こさないために、僕はそれを我慢する。

「ねえねえどこが好きなの!? どうして好きになったの!? 教えて教えてー!」

「……とりあえず突くのやめて」

 きっと彼女は勘違いしている。僕がリシアを好きなのはあくまで友人として、親友として、大切な幼馴染としてだ。それをティアラちゃんは、様子から察するに、恋愛感情の話と解釈しているのだろう。

 訂正するべきだろうか。したらしたらでまた面倒くさく、追求してくるかもしれない。

(ティアラちゃん……基本いい子で可愛いけど……やっぱりクティラと血が繋がってるんだな。ためにちょっと面倒くさい……と言うよりは子供っぽい感じかな? まあ、どちらにせよクティラよりはマシだけど)

 僕はそんなティアラちゃんの突きに必死に耐えながら、小さくため息をついた。

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