203.なんとなく
「あーいさくくんっ。何一人で黄昏ているのかな?」
「……咲畑さん。別に黄昏てはないよ……ただ、なんとなくここにいただけ」
「そっ。じゃあ私もなんとなくここに居ようかな」
クティラ主催で開催された姉兄会議が終わり、僕たちはまた、みんなでリビングに集まっていた。
ソファーに座っているのは若井さん、クティラ、ティアラちゃん、ケイの四人。みんなでテレビを使ってゲームをしている。そのすぐ近くで、床に腰を下ろしているのはサラとリシア。サラは何故か顔を真っ赤にしながら、リシアに抱きついている。
そして僕、それと一瞬前にやってきた咲畑さんは、椅子に座りながら机に肘を置いて、その他大勢の様子を見守っていた。
「……そういえば」
僕はふと気になり、椅子に座ったまま顔をキョロキョロと動かし、辺りを見まわした。
アイツの姿が見えない。恥ずかしげもなく、この場にいる全員にドヤ顔で愛作エイジの親友だと名乗っていた、あのバカが。
「もしかして親友くん探してるの? 彼なら帰ったよ? ここに俺の居場所はない……クールに去るぜ……とかなんとか言って」
「あ、そうなんだ……」
せめて一番仲の良い僕に一言言ってから帰ればいいのに。変にドヤ顔をしているアイツの顔を思い浮かべながら、僕は小さくため息をつく。
でもまあ、別にいいか。居たら余計なこと言い始めて面倒臭くなりそうだし。あとでメッセージでも送っておこう。
「ねえ愛作くん……聞いてもいいかな」
「ん……?」
僕の肩をちょんちょんッと突き、僕の名前を呼びながら問う咲畑さん。
当然僕はそれに反応し、小さく声を出しながら、僕はゆっくりと彼女の方へと振り返った。
机に肘を突きながら、手のひらで傾げた顔を支えている咲畑さん。彼女は僕が振り返ると同時に小さく微笑み、せっかく向かい合ったのに、何故か咲畑さんは僕から顔を逸らす。
「……なんか私さぁ。今、ここに居るのが少し恥ずかしいんだ……」
「え……あー……っと。僕と二人で居るのが?」
「違うよバカ……ここに居ることがだよっ」
呆れ気味にため息をつきながら、咲畑さんはまず目線をこちらに向け、その後、ゆっくりとこちらへ振り返る。
変わらず頬杖をしながら、振り返った咲畑さんはじっと、じっと僕を見つめてくる。
「……ま、愛作くんとアムと一緒なら、それでいいんだけどね」
「……どういう意味?」
「んー……内緒♡」
と。咲畑さんはニコッと笑みを浮かべながら、人差し指を己の口に当てる。
そして、それをそっと離すと彼女はその指を今度は──
「……改めて聞くのも禁止、ねっ♡」
「……はい」
悪戯っぽく笑う彼女を見ながら、僕はただ頷く事しかできなかった。
唇を、人差し指でそっと押される感触を感じながら──




