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199.素敵な一日だったね

「……ふわぁ……」

「む? どうしたエイジ……これ見よがしと口に手を当て大あくびなどして」

「……別にアピールしてねぇよ」

 サラとのデートを終え家に帰ってきて、夕食を終えた僕はクティラと二人でソファーに座っていた。

 リシアとサラとティアラちゃんは三人でお風呂に入っているため不在。三人も入れたかな、ウチの風呂。

「……ところでどうだったエイジ。妹とのデートは」

「ん……まぁ、普通だよ」

「……今時冷笑系主人公など流行らんぞ?」

「してねぇだろうが」

「ふふふ……それにしてもエイジ、それにしてもエイジよ……以前から思ってはいたが、リアルで実妹とのデートをこなすとは……私の想定よりもお前はラブコメ主人公ってるらしいな」

「……そんな動詞はない」

 存外サラとのデートに疲れていたのか、煽って揶揄ってくるクティラに強く言い返せない。この野郎、という怒りの感情よりも面倒くさい、という怠惰と呆れが混じった感情が湧いてしまう。

 思えばサラだけではなく、咲畑さんとも話したんだった。彼女と関わるといつもドキドキとさせられて本当に心臓に悪い。しかも今回は二つのドキドキで惑わされたし。

(……あれ? そう言えば僕、若井さんと話してなくないか? 別にいいけど……)

「ところでエイジ、ところでだエイジ。なんだか随分久しぶりな気がしなくないか……? 私とエイジ、二人っきりで会話するのが」

「そうか……? いや、確かにそうかも……」

 思えば今日はずっとサラと一緒に居たし、外出していたのもあって、クティラと話すのが随分久しぶりな気がする。具体的には二週間くらいクティラと会っていなかった気がする。

 いや、そんなわけがない。そんなわけがないのだが、それでもやっぱり随分久しぶりな気がする。二人っきりで話すとかそれ以前に、クティラとこうして顔を合わせるのが。

「どうしたエイジ……そんなにじっと私を見て」

「ん……いや、なんでもない……」


 *


「……はふぅ。あ、はふぅとか言っちゃった……」

 お兄ちゃんとのデートを終え家に帰ってきて、夕飯を終えた私はリシアお姉ちゃんとティアラちゃんと一緒にお風呂に入っていた。

 今浴槽に入っているのは私一人。他二人は椅子に座りながらイチャイチャしながらお互いの体を洗い合っている。

(……なんかリシアお姉ちゃん見るの久しぶりな気がする。二週間ぶりくらいな……そんな感じ……それだけ今日一日が充実してたってことなのかな)

 浴槽の淵に腕枕をしながら、私はあまり頭を動かさずにリシアお姉ちゃんたちを見守る。

 ティアラちゃんが洗い終わったら今度は私の番だ。今はそれを待つだけ、そう、待つだけ。

「……サラちゃん? じっと見てどうしたの……?」

「んー……リシアお姉ちゃん綺麗だなぁ……って」

「ぴぇ!? きゅ……急に……?」

「うん……急に」

「うぎゃあ!? 目に泡入ったー!」

 と。私とリシアお姉ちゃんが話していると突然、ティアラちゃんが叫び出した。

 彼女は両目を押さえながら、天井を見上げ絶叫している。そんなティアラちゃんを見て、ものすごく慌てているリシアお姉ちゃんはちょっと可愛い。

「ぴぇ!? ご、ごめんティアラちゃん! 油断した油断した! 今流すね!」

「私がかけたげる。それっ」

 リシアお姉ちゃんが桶を取るとほぼ同時に、私も彼女たちのイチャイチャに混ざりたくなって、リシアお姉ちゃんが動くよりも先に手を動かし、私は浸かるお湯に手のひらを浸し、それを一気に弾き持ち上げ、親を彼女たちに向け放った。少し意地悪をして、過剰に。

「うぴゃあ!?」

「ひゃっ!? わ、私にまでかけなくてもいいんだよサラちゃん!?」

「……えへ」

 毒にも薬にもならないやり取りに満足し、私は思わずニヤけてしまった。

 なんだかんだ言って、結局こういう日常のどうでもいい部分が一番過ごしていて楽しいのかもしれない。それでもやっぱり、刺激は足りないなと思うけど。

「……サラお姉ちゃん。なんでそんなにニコニコしてるの?」

「……え? えっとね……ニコニコしたいからかなっ」

「んー……?」


 *


「もう……っ! あの人はもう……! 私が一日居ないだけでこれなんだからもう……!」

 咲と別れ家に帰った私は、同棲している愛しのあの人とその愉快な仲間たちに憤慨していた。

 今日は土曜日。休日。日頃平日に勤務しているから疲れていて、ストレスが溜まっていて、それらを発散したいのはわかるけど、それでも酷いと思う。

 だってその辺に缶ビールのゴミが投げ捨てられているんだもん。足の踏み場が無ければ、物を置く場所すら無い。そもそも缶ビールの数を一瞥して把握することすら出来ない。

 三人、三人で飲んでいるからって普通こうなるのかな。ダメな大人だ。養ってもらっているからあまり強く言えないけど、それでもこういう時は言わないとダメだと思う。

 ので私は、その辺に落ちていた空き缶を一つ手に取り、床へ全身真っ赤にしながら倒れ、ニヤニヤとした表情を浮かべているあの人にそれを向け、叫んだ。

「──さん! お酒飲むのはいいですけど……飲み過ぎないでくださいっていつも言ってますよね!? せめてゴミは捨ててくださいよ!」

「んぇ……? だってアムルちゃんが居るからぁ……」

 と。そう呟きながら、あの人はゆっくりと上体を起こし、意外と力強く私の足に抱きついてきた。

「アムルちゃんが居るからさぁ……ついね……甘えちゃうのぉ……」

「ふぇ……わ、私を頼りにしてるってことですか……?」

「そうだよぉ……アムルちゃんだーいすきぃ……」

「ふぇぇ……!? も、もう! しょうがないですね! 今日は私が片付けますから! 来週からはちゃんとしてくださいね!?」

「アムルちゃん……ラブ……」

「……ふぇぇ……もう……この人はもう……」


 *


(アムの家に泊まれば良かったかなぁ……でもなぁ、流石に二泊は迷惑だしなぁ……)

 アムとのデートを終え、彼女と別れた私は、一人公園のベンチに座り、スマホをいじっていた。

(……それにしても、昨日初めて見たけどアムの好きな人……結構ダメ人間っぽかったなぁ。アムはどうやって知り合ったんだろ……)

 すでに別れた大好きな親友のことを考えながら、私はふと顔を上げ、辺りを見回してみた。

 このくらい公園を、こんな遅い時間に歩いているのは、疲れ切った顔で歩く明らかに残業帰りのサラリーマン。嫌なトーンで喋るなんとなーく雰囲気が怖いカップル。全体的にボサボサなおじさん。素敵なお洋服だけど、それでもやっぱり背景には不似合いになってしまうゴスロリを着ている可愛い女の子。その他諸々。

 存外多種多様な人が、こんなに遅い時間に公園を歩いてるんだなぁと、私は変に感心してしまった。

(……みんな帰る家があるんだなぁ。私もあるっちゃあるけど……あんま帰りたくないな)

 私は小さくため息をつく。昨日今日と楽しかったから、あの家に帰らないといけないという、逃避したい現実が普段よりも酷く感じる。

 別に最低最悪な環境というわけではない。正直慣れたから、諦めもついてるし、何よりアムや愛作くんと会える毎日があるから。我慢はできる。

(……ていうか、いくら私でもこの歳で独り立ちとか無理だし。もう……そういうことはしないって決めもしたし)

 スマホの画面を暗くして、私は俯いてからわざとらしく大きくため息をつく。

「……帰るかな」

 ポツリと呟いてから、私はゆっくりと立ち上がり、公園を後にした。

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