198.咲とアムのデート終わり帰り会話録
「ねぇねぇアム、手を繋いで一緒に帰らない?」
「え? なんで?」
「何となく……だって歩くの飽きたんだもん。ずっと一緒に居たからもう話す話題も無いしー……身体を交わらせて直接触れ合ってイチャつくしかやる事なくない?」
「言い方がさぁ……別にいいけどさ、手を繋ぐくらい。はいっ」
「ん……珍しいねアム。素直に繋いでくれるなんて。いつもなんか屁理屈って繋いでくれないもん……♡」
「そう言う気分だったからねー……いつもはこう言う気分じゃないから繋がないけど」
「具体的にどんな気分なの?」
「それ聞く必要ある……?」
「だって、知れたら好きな時に確実に手を繋げるじゃん。冗談半分では言っているけど、アムに断られるたびに私、地味にダメージ負ってるんだからね?」
「ふーん……そっ」
「それでアム……アムは今、どんな気分なの? 私みたいな可愛い女の子と横並びでドキドキ……大好きな親友とのデート終わりに哀愁感じてシクシク……それとも存外何も感じずポケーッとしてたり……?」
「うーん……改めて言葉にしろって言われると、難しいかも」
「自分の気持ちなのに?」
「自分の気持ちだからこそじゃないかな……だってさ、わざわざ説明しなくても言語化しなくても私は私の気持ち、なんとなーくわかってるじゃん? 理解できてるじゃん? それを改めて実像として捉えようとするとさぁ……ちょっと悩んじゃわない? わかりきってる事を説明しろってダルいじゃん……」
「へぇ……アムってそんな考え方、するんだね」
「普段はしないよ……咲が変なこと聞くからじゃん」
「変なことって……私、そんな変なことアムに聞いたかなぁ? 今どんな気分ー? なんて割と気軽に頻繁に聞かない?」
「でもその質問ってさ……映画観たりさ、本を読み終えたり、誰かの話を聞いたりして、感情が動かされただろうなって時に聞かれるのが普通じゃない? でも今は私は、何となく手を繋いでもいいなーと思ったその感情を聞かれてるんでしょ? 正直本当になんとなーく抱いた気持ちだから……何も考えてないから……説明して? って聞かれた時に改めて初めて考えちゃうんだよ……何となくの理由を。だから今こう言うふうに、変に考えちゃってるの……考え込んじゃってるの……」
「別にそんな真面目に考えなくてもいいのに……咲が好きだからだよ♡ そんくらいでよくない?」
「でも咲……テキトーなこと言うと不満そうな顔するじゃん」
「するよー? だって不満だもんっ」
「……めんどくさっ」
「でもでもアムアムでもでもさー……そんな面倒くさい私をさ、私とさ、もっと仲良くなってくれる……受け入れてくれる……そう言ってくれた私の大親友は誰だっけ……♡」
「……私」
「うわっ。よく言えるねこの質問にそうハッキリと……だから大好き♡」
「ふぇ!? だ、抱きついていいとは言ってないじゃん!? 離れて!」
「えー……私とアムの仲の良さを世間に見せつけやろーって思ったのに……」
「そんなの見せつけてどうするの……!?」
「自分たちでこれだって思うものは、それを知らない他人に知らしめてこそ、形作られるものなんだよ……?」
「よ、要するに……?」
「共通認識の拡大……♡ 狭い檻の中で私たちは正しいと地下深くで二人っきりで叫ぶよりも、世界の中心で皆で吠えるほうがより正しくそれを感じられるでしょ……?」
「えっと……み、民主主義?
「全然違う……多数決だよ♡」
「それも咲の言ってることとは違う気がするけど……」
「とにかくとにかく兎にも角にも♡ 二人の思い出を二人っきりで共有するよりも、世界に発信していいねを沢山貰えた方が楽しくて気持ちいいでしょ? 色々な人たちからたくさんの人たちから私たちを肯定して貰えて承認欲求満たせるんだからさ……」
「え……私、前者で十分なんだけど。ていうかそっちの方がいい……」
「……あはっ♡ 流石アム……実は私もそうなんだー♡ お揃いだね……♡」
「ふぇ!? じゃ、じゃあ何で見せつけるーとか! いいねの数がー! とか言ったの!?」
「……なんとなく♡」
「なんとなくって……! むぅ……なんか納得出来ない……! ちゃんと説明して!」
「……っ♡ じゃあアムもさ……私も手を繋ぎたいと想ったその時の感情、なんとなくなんて一言で済ませずに、しっかりハッキリ言葉にしてよ……♡」
「あ……そういう……」
「……あはっ♡」
「むぅ……咲の意地悪」
「最初に意地悪したのはアムだよー?」
「……意地悪っ!」
「アムもでしょ……♡」
「……むぅ……手、離しちゃうよ?」
「え、やだ……!」
「じゃあもうこの話おしまい! さ! 早く帰ろ咲!」
「え……アムは早く帰りたいの? 私と別れたいの?」
「そういうわけじゃない……そういうわけじゃけど……あーもう! 咲って本当に面倒くさい!」
「でもそういう所が……」
「言わないから! バカッ!」
「えー……アムの意地悪っ♡」
「あーもーニヤニヤするな! ニヤニヤしながら見るなー!」
「はいはい……♡」




