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20.無理難題

 クティラの舌が、ほんの一瞬だけ僕の歯に当たった。

 それと同時に、クティラの体から赤色と黒色のオーラのようなものが湧き出る。

 あの日、あの時同様。それはクティラと僕の体を包み込もうと動き出した。

(まずい……!)

 僕は体を動かしそれから逃れようとするが、クティラからのキスはまだ続いてるし、正気を失ったリシアに肩を掴まれていて動けない。

「……え!? 何これ!?」

 その時、リシアがクティラから湧き出るオーラに気づき、上を見上げる。

 それと同時に彼女はその得体の知れない何かに恐怖を覚えたのか、僕の肩から手を離した。

「わわわ!? リシアお姉ちゃ!?」

 後ろからリシアを引っ張っていたサラが、リシアが手を離したと同時に彼女と共に後ろへと倒れた。幸い、ソファーからは落ちておらず、床に頭をぶつけるなど怪我はしていない。

 次の瞬間、僕の目の前は真っ暗になった。

 目を閉じていないのに閉じているかのような感覚。何も見えず、部屋の明かりすら感じられない。

 次にやってきたのは全身が引っ張られるかのような感覚。足が伸縮し、胸元が浮き出ているかのような奇妙な感覚。僕はそれを、自身の体が女体化し始めているのだと実感する。

「……あーもう……どうするんだよ……」

 目が開いた、と言うより視覚が戻った。それと同時に視界に入り込んできたのは、自身の大きく膨らんだ胸の谷間。

 僕は思わず顔を手で覆う。最低最悪どうしようもない状況だ。

 サラはともかく、リシアに見られた。見られてしまった。

「……へ? え? あれ?」

 リシアが僕を見ている。頭上にはてなマークを浮かべながら、何度も何度も何度も首を傾げながら、疑問符の付いた声を出している。

「えと……クティラちゃん……だっけ? クティラちゃんだよね? エイジそこにいたよね? なんでクティラちゃんが……? て言うかさっきの変なモヤモヤ何……? エイジどこ……? クティラちゃんなんか大きくなった……?」

 まるで振り子のように、ぶつぶつと呟きながら首を右左と傾げるリシア。

 一瞬の間に色々起きすぎて、何も理解出来ていないようだった。

 と、その時。僕の視界がサラを捉えた。

 彼女は一生懸命手を動かして、何かを伝えようとしている。

 口を動かしている。何か言おうと、何かを言っている。

 読唇術は使えなけれど、僕は必死にサラの口元を見て読み取ろうと試みた。

(……クティラの……フリして誤魔化せ……?)

 本当にそう言っているかはわからないが、多分そう言っている。

 それはいい考えだ。サラにしては妙案名案良提案。僕はすぐにそれを実行する。

「え……えっと……クティラでーす……ぴすぴす」

 ピースをしながら、僕はクティラを意識して喋る。

 すると、リシアはポケーッとした顔になった。何も考えていないというか、呆れが限界突破したというか、そんな感じの顔。

 何故だ、完璧な演技だったはず。バレたのは幼馴染が故に僕の喋る癖とかを知っていて、それが出てしまっていたとか、そういう理由だろうか。

 ダメ押しに、僕はもう一度リシアに向けて言う。

「クティラだよ〜……」

「……ほえええ?」

 変な声を出しながら、リシアは首を傾げた。

 ダメか。流石は幼馴染、と言うべきだろうか。よく僕だとわかったな。

 いや、本当は僕だとは気づいていないのかもしれない。だが彼女の反応は明らかに僕をクティラだとは信じていない反応。

 どうやってそれがわかった? 僕の完璧な演技をどうやって見破った?

「ごめんリシアお姉ちゃん、なんかお兄ちゃんどっか行っちゃったみたい。最近よく瞬間移動するんだ、お兄ちゃん」

(お前何言ってんの!?)

 と、何故かサラが僕に新設定を付け足しながらリシアに話しかけた。

 そんな言い訳誰も信じるわけ──

「そうなんだ……瞬間移動できるようになったんだエイジ……」

(お前何で騙されてんの!?)

 意外にもリシアは騙された。一切疑いの目をサラに向けず、感心したかのように頷く。

「はいはいクティラちゃーん。お兄ちゃんに盾にされてビックリしてちょっと変になってるんだよね? 私の部屋で休もうね」

 そう言いながら、サラは僕の手をキュッと握り、僕を持ち上げようとする。

「いた……っ!」

 それと同時に、サラの僕の手を握る手がもの凄く強くなった。つい悲鳴を上げそうになる。

 次の瞬間、物凄い馬鹿力でサラは僕を持ち上げた。それと同時に彼女は何故か顔を僕に近づけ、耳元で囁いてきた。

「お兄ちゃんのバカ……! あんな下手くそな演技で誤魔化せるわけないじゃん……!」

(へ……下手くそ!?)

 衝撃の評価、思いもよらぬ酷評に僕はショックを受けた。胸の奥のあたりが、少しズキズキと痛み始める。

「ごめんねリシアお姉ちゃん。クティラちゃん慰めてくるからちょっと待っててくれる? 喉乾いたら勝手に冷蔵庫漁っていいから」

「え……う、うん」

 何が起きてどうなっているのか全くわからないと声色で伝えてくるリシア。彼女の視線は僕に一直線に注がれている。

「ねえサラちゃん……エイジどこに行ったのかな?」

「え!? えっと……多分そのうち帰ってくるよ! じゃあまた後でねリシアお姉ちゃん!」

 僕の現在位置を問われた瞬間、サラは慌てて誤魔化しの言葉を並べリシアとの会話を打ち切り、僕の手を引っ張って走り始めた。

 答えられないのも無理はない。だって僕は瞬間移動なんてしてないし、目の前にいるのだから。女の子の姿になって。

 幸いまだ大人クティラが愛作エイジだとバレていないらしいし、ここはテキトーに誤魔化すの一択。愚昧な妹にしては良い判断だ。

「……エイジ、どこ行ったんだろう」

 と、リシアが、小さな声で呟く。

 僕の方をじっと見つめながら──

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