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195.縦糸は紡がれ……

「はふぅ……ふふふ……随分堪能しちゃったよ……銀髪赤眼美少女愛作ちゃんを……♡ はい、お礼のアイス。奢ったげるっ」

「……ありがと」

 咲畑さんに揶揄われながらゲーセンを一周し終えた僕は、彼女と共にベンチに座っていた。

 サラと若井さんが居ないのは一周し終えてもなお、クレーンゲームに苦戦していたからだ。拳を握りしめながら血の涙を流していた二人を、僕たちはとりあえず放っておくことに決めた。邪魔したら怒られそうだったし。

「……ところでところで愛作くん。肝心要の気になるところ、聞いてもいい?」

 手に持ったアイスを咥えながら、それでも器用にハッキリとした発音で咲畑さんが問う。

 恐らく何故銀髪赤眼美少女になっているのか、或いは何故銀髪赤眼美少女になれるのかを彼女は聞きたいのだろう。そんな顔をしているし、そんな目で僕を見ている。

「気になるなー私……君は一体、愛作くんなのか、それとも愛作ちゃんなのか……♡」

「……愛作くん、だよ」

「へぇ……じゃあじゃあさっ、こんな可愛い女の子に変身している、もしくは変身しちゃったわけは?」

「……色々あって」

「その色々を私……聞きたいんだけどなぁ♡」

 ニヤニヤとしながら、アイスを一口齧りそれを口に含んだまま、咲畑さんがプニプニと頬を突く。

 僕は今日だけで何回頬を突かれればいいのだろうか。咲畑さんだけじゃなく、サラにも何回か突かれたし、今日はそういう日なのかな。

「クティラちゃんが関わってるのは間違いないよね……だってそっくりだもん。若干愛作くんの方が色々と大きいかなぁ……とは思うけど」

「まあ……うん……クティラは関わってるよ」

「だよねー……で? なんで銀髪赤眼美少女になっちゃったの?」

 首を傾げながら、食べ終えたアイスの棒を口で咥えながら、咲畑さんは僕をじっと見つめ若干睨みつけ、そう問う。

 素直に話した方がいいのだろうか。嘘偽りなく、クティラの正体も混えてハッキリと。

 それとも、多少嘘を混ぜた方がいいのだろうか。それをしたところで、咲畑さんには見破られそうだけど。

「ほらほら話しちゃいなよ♡ そしたらお互い、お互いだけの秘密を知っている素敵な関係になれると思わない……?」

「……咲畑さんの秘密って──」

 僕が思わず彼女の秘密を呟きそうになると、咲畑さんは少しむすっとした表情で、咥えていたアイスの棒を僕の口に突きつけ、言葉を遮ってきた。

(バ……! な……!? これ間接キ──)

「愛作くんってば口が軽いなー……もうっ。女の子は秘密を着飾って美しくなるって言葉知らないの?」

「……ごめんなさい」

「ふふ……許したげるっ♡ 愛作ちゃん可愛いから特別ね……♡」

 仕返しと言わんばかりに、咲畑さんは僕が呼ばれることを苦手に思っている「愛作ちゃん」を使いながら、ニコッと微笑む。

 それにしても二人だけの秘密と彼女は言っていた。もしかして若井さんは知らないのだろうか。咲畑さんが実は人間ではなくサキュバスだと言うことを。

(まあ……仲が良いからってわざわざ教える必要はないか)

 僕は抱いた疑問に自分で答えを出し、己を納得させると同時にため息をつく。

 自分はサキュバスだと僕に明かした時、咲畑さんは錯乱していたし、本当は誰にも明かしたくないのだろう。

 そう考えると、また新しい疑問が浮かんできた。クティラやケイは納得できるけど、どうして咲畑さんは僕たちと同じ学校に通っているのだろう、と。

 別にそれが悪い、というわけではない。ただ気になっただけだ。サキュバスである咲畑さんが人間の学校に通う事になった経緯が。

 僕がそれを考え、思わず首を傾げると同時に、ぷにっと再び、僕の頬が細い指に突かれた。

 その細い指は当然咲畑さんのもの。振り返ると彼女は、ほんの少しだけ頬を膨らませながら、僕を細く鋭い目で軽く睨みつけていた。

「聞いてるんだけどなー私、さっきから。ちゃんと話聞いて適切な返事しないとモテないよ?」

「ご、ごめん……えっと、何だっけ?」

「は? マジ……? 愛作くんが女の子になった理由に決まってるじゃん! 黙り込んで何考えてたの……? あっ、もしかしてさっきの間接キスとか……? ぷっ……チェリってるね……♡」

(……っ……やっぱりわざとか……間接は……)

 改めて言われると、思ったその瞬間よりも強く意識してしまい、頭から離れなくなる。

 頬に、耳たぶに、脳に、その他諸々に。熱が徐々に帯びていくのを感じる。咲畑さん視点の僕は恐らく、顔が真っ赤な銀髪赤眼美少女に映っていることだろう。

 恥ずかしい。湧き出る羞恥心が、溢れ出る恥ずかしさが、止まらない激情が僕を満たしていく。

「……こんなんで顔真っ赤とか。愛作くん、よくあの時我慢できたね?」

「……自分でもそう思う」

「……んでさ、そろそろ教えてくれない?」

「あ、ごめん」

 呆れ気味に、ため息をつきながら僕は咲畑さんに催促される。

 どこから話すべきなんだろうか。こんな時、クティラが居たらかくかくしかじかで上手いこと説明してくれるのになぁ。


 *


「へぇ……クティラちゃんが吸血鬼で、なんかすごい契約魔法使って、なんやかんやで銀髪赤眼美少女になったんだ。ていうか、なれるようになったんだ」

「そんな感じ」

「……なんか、漫画アニメすぎない?」

「……うん、まぁ」

「……サキュバスツッコミ待ちだったんだけど」

「……やっぱり?」

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