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194.見せつけてやろうよ、私たちの青春を♡

「んー……まだまだ色々気になることはあるけど、なーんか色々合点がいったかも……。そう言うことだったんだぁ……ってね♡」

 人差し指を立て、それをゆっくりとビシッと僕に向け、左目でパチリとウィンクをしながら咲畑さんは言う。

 僕はそんな彼女から顔と目を逸らしながら、落ち着かない気持ちを手で表しながらそこで抑えながら、必死に言い訳を考える。

 けれど何も思いつかない。秘密がバレたならば、そのバレた理由を間違いだと認識させなければならないのに、僕にはそれが想像つかない。一体全体咲畑さんはどうやって、見た目は銀髪赤眼美少女であるクティラそのものである今の僕を、まるっきり違う愛作エイジだと見抜いたのだろうか。

「あれ? 愛作くん……もう言い訳はしない感じ?」

 と。あざとくわざとらしく、口元に人差し指を添えながら、ほえっとした表情で疑問を口にしながら、咲畑さんは可愛らしく首を傾げる。

 そんな彼女の仕草を見て僕が困っているのを察したのか。直後、咲畑さんは口角を上げニヤリと笑みを浮かべ、どこか挑発するように僕を見つめる。

「もう素直に言っちゃった方がいいと思うなぁ……安心して、安心してよ愛作くん。私ってば存外、口は硬い方だからさ……♡」

 変わらずニヤニヤとニヤつきながら、咲畑さんは僕の脇腹をちょいちょいっと突いてくる。

 もうダメだ。うまい言い訳も思いつかないし、何よりここから必死に弁明したところで、彼女は僕が愛作エイジだと確信しているので、きっと信じないだろう。これからしようとする足掻きは全て無駄と化すに違いない。

 僕は咲畑さんを一瞥してから、ゆっくりとため息をつき、彼女の視線に目を合わせ、固唾を飲んだ後にゆっくりと口を開いた。

「えー……っと……うん……そうだよ咲畑さん。僕は……っ……愛作エイジだよ」

「あはっ♡ 言質と言辞入手……これで確定って感じ? ねぇねぇ愛作くん……なんで銀髪赤眼美少女になってるの? 可愛いじゃん……下手すりゃこの私より? 羨ましいなー……このこのっ♡」

「あ、あんまりくっつかないでくれ……」

 ニヤニヤから一転、ニコニコとした表情に変わった咲畑さんが僕に抱きついてくる。

 それから逃れようと腕を動かすが、想定よりも彼女の抱きつく力が強く、離れてくれない。

 女の子相手に──とは言っても、僕も今は女の子だが──本気で腕を動かして剥がそうとする、なんてことは流石に出来ないし、それをする勇気もない。

 腕から伝わる咲畑さんの柔らかい色々な部分をなるべく意識しないように。僕は彼女から視線を逸らしながら、ゆっくりとそっぽを向く。

「あっはは……♡ 何恥ずかしがってんの? 私たち今は花の女子高生、一番ときめき一番キラキラしてそうして一番青春楽しむ時期じゃん? 友達に抱きつくなんて当面当然。ほらほら愛作くん……んー……今は愛作ちゃん?」

「ど、どっちでもいいよ……。好きに呼んでくれ……」

「んじゃあ愛作ちゃん! ほら愛作ちゃん! 周りを歩く学生、ファミリー、ぼっち。彼ら彼女ら相手に見せつけてやろーよ……抱き合う私たち仲良し女子高生、青春楽しんでますっ♡ てな感じでさ……。知ってる愛作ちゃん? 青春ってわざとらしく演じて他人に見せつけてこそなんだよ……? だからほら……抱きしめ返して♡」

「……無理」

 ぎゅっと、ぎゅっと抱きついてくる咲畑さん。彼女が力を込めるたび、僕の抱く羞恥心も強まっていく。

 彼女のサラサラな髪の毛が時折二の腕に辺りこそばゆい。漏れる吐息は僕の肌を触れるたび触れた時だけ火照らせる。お互いの肌が擦れるたび、男同士では感じられない滑らかで、どこか湿っている不思議な感覚がダイレクトに伝わってくる。

 それらを感じる度に思い出すのは、先ほど彼女も話題に出した、あの日過ごした密室での放課後。咲畑さんが僕を襲おうと、あの手この手で攻めてきたあの放課後。

(く……っ! 色々とヤバい……!)

「……えいっ♡」

「んな……!?」

 僕が必死に我慢していると、咲畑さんが媚びたような声を出しながら、僕の頬を人差し指で突いてきた。

 それに反応し、僕は思わず振り返り彼女へ視線と顔を向けてしまう。すると咲畑さんは少し吹き出して、小さく笑い始めた。

「何その声……愛作ちゃんっておもしれー女? 可愛いっ♡ あははっ! もっともっと突いちゃう……ほれほれ?」

「……恥ずかしいからやめてくれ……やめてください」

「あはっ♡ 了解了解……恥ずかしがり屋さんだなーもう……愛作ちゃんは♡」

「せめて愛作ちゃんはやめてくれない……?」

「んー……でもさ、愛作ちゃんが好きに呼んでいいよって言ったじゃん?」

「……まあ、確かに」

「ねっ♡」

(……サラか若井さん、助けてくれないかなぁ)

 咲畑さんの絶妙に嫌じゃない揶揄いに、助けを乞うだけの受動的な自分に、僕は思わず、心の中だけでため息をついた。

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