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190.一番気まずい関係からのスタート

「……ふわぁ」

 アムを待つ間、私は愛作くんの妹ちゃんと一緒に、お手洗いの入り口付近で待っていた。

 あまりにもそれが暇で、私は思わずあくびをしてしまう。聞こえてしまったかも、と妹ちゃんを一瞥すると、彼女はどこかそわそわとした様子で右へ左へとキョロキョロ視線を動かしている。私のあくびに気づいた反応した様子はない。

(……気まずいよねぇ。一回も話したことがない、知り合いの友達と二人っきりで待たされるの。正直私もメンタルやられそう……妹ちゃんも思ってるんだろうなぁ……アム、早く帰ってきて♡って)

 スマホでもいじろうかな。そう思ったけど、ちょっと印象悪く感じるかもだからやめた。

(んー……暇ぁ……)

 私は暇つぶしも兼ねて、妹ちゃんを観察することにした。彼女にバレないよう、私は妹ちゃんをじっと見つめる。

 髪色、瞳、唇、鼻、耳、バランス。それら全てに確かに、愛作くんの面影を感じる。愛作くんを女の子にしたらこんな感じかも、そう思ってしまうほどに彼女はよく愛作くんに似ている。

 違うところと言えば、やっぱり肌と髪の質。愛作くんは男の子というのもあってか、明らかにお手入れがされていなくて、将来大変なことになりそうな感じだけど、妹ちゃんは違う。

 あまり日差しが強くないにも関わらずしっかりと日焼け止めを塗ってあるし、一目見ただけで綺麗だとわかるツヤツヤな髪も、一本たりとも乱れていなくて凄い。日頃から丁寧にしっかりと確実に間違いなく拘って手入れをしている証拠だ。

 化粧もちゃんとしているのがわかる。それも、使っているのはめちゃくちゃ良いコスメだってことも。まるで、大好きな人と本気デートをする時かのように彼女は気合を入れているのが伺える。彼女曰く、友達──とは言ってもお兄さんのお嫁さんか。愛作くん達の言う設定が事実ならばだけど──である愛作さん、クティラちゃんと遊ぶために来たと言うのに。

 本当に日頃から頑張っているんだなぁと思わず感心してしまう。最近の女の子に可愛い子が多い理由がなんとなくわかった気もする。

「……あの」

「……ん?」

 と。意外なことに、なんと妹ちゃんが私に話しかけてきてくれた。

 あまり視線を合わせずに、落ち着かない両手が各々の指を絡めたり解いたりしながら、妹ちゃんはゆっくりと口を開く。

「あの……私、愛作サラって言います。えっと……若井先輩にはお世話になっています……!」

(わ……自己紹介と同時に共通の友人のフォロー及び持ち上げをした……。すっごくいい子だ……)

 私は思わず両手を合わせ、拍手をしてしまいそうになった。

 こんなに可愛いのに、こんなにしっかりとした女の子なのに、ちゃんといい子だなんて。この子は天使か何かなのかな。

 通りで私の誘惑が愛作くんにあまり効果がなかったわけだ。物凄く可愛くて、いい子で、尚かつ血の繋がった実妹。こんな漫画やアニメにしか存在しなさそうな、男の子の妄想が全て詰め込まれたかのような、都合のいい美少女と同じ屋根の下で暮らしていたら、突然現れたポッと出のエッチな女の子なんかに靡くわけがない。

(まあ……それは冗談として。私もちゃんと自己紹介しなきゃだよね……されたんならちゃんとお返ししなきゃ)

 私の返事を待つ妹ちゃんを見つめながら、私は口元に握った拳を添え一度咳払いをし、それから頭の中で何を言うか急いで考え、更にもう一度咳払いをしてから、私はゆっくりと口を開いた。

「私は咲畑咲……っと……えー……咲畑咲です。アム……あー……若井アムルの友達、です」

「咲畑咲さん……えっと、咲畑先輩。よろしくお願いします……!」

(……抱きしめたくなるくらい可愛いこの子。愛作くん、妹ちゃんを私にくれないかなー)

 手をぎゅっと握って、私をじっと見て、まだ少し距離は置いているものの、私を慕うように先輩と付ける妹ちゃんに私はつい、ときめきそうになってしまう。

 猫を被ってるかもだけど、それでも根はいい子って事はわかる。アムが認めてるくらいだし、少なくとも悪い子ではないのは確かだ。

「あ……そういえば咲畑先輩って若井先輩と同クラなんですか?」

「ん……? うん、そうだよ……」

「へぇ……あ、じゃあもしかして──」

 目を少し輝かせながら、どこか期待した様子で私に問おうとした妹ちゃんのほっぺを、私はつい突いてしまった。

 なんとなく、可愛くて、したくなって。

「……えと?」

 かなり困惑した様子で、首と全身を右に傾ける妹ちゃん。そりゃそうだよね、まだ大して仲良くない人にほっぺを突かれて、疑問を抱かない人なんていない。

 それでも突きたくなった。一番の理由は多分、妹ちゃんの言葉を途切れさせたかったから。

「妹ちゃんが言おうとしてる事は私、察せているよ? お兄ちゃんの事を知ってるかどうか聞きたいんでしょ……愛作くんのこと……」

「へ……あ、はい! それでその……もしかしたら私のこと、見たことあるかも……なんて気になって……」

(見たことがある……? 以前廊下でアムと歩いていた時に会ったことがあるけど……んーと……あー……なんかよく教室に来る元気な女の子が居たような……もしかしてあれが妹ちゃんだったのかもー

 チラチラと。視線を合わせたり離したりしながら、私の返事を待つ妹ちゃん。

 そんな様子が可愛くて、ちょっと面白くて。私はつい、彼女を揶揄ってしまいたくなった。

「お兄さん……愛作くんと私の関係、知りたい?」

「……へ!? も、もしかしてお兄ちゃんとお友達なんですか……!?」

「ふふ……放課後に、二人っきりで誰もいない教室で……密着した仲だよ……♡」

「へ……? ええええええええ!?」

(あはは……嘘はついてないよね……面白可愛いこの子……♡ ちょっと気に入ったかも……)

 私に背を向けながら、ぶつぶつと呟き始める妹ちゃん。

 きっと今、私の匂わせを聞いて色々な想像妄想空想をして、戸惑っているんだと思う。どんな風に捉えたかな? 年頃の女の子だし、案外ど直球にエッチな想像してたりして。

「お待たせー……あれ? サラちゃんどうしたの?」

 と。かなりタイミング良く、私たちの待ち人であるアムが帰ってきた。

 ハンカチで手を拭きながら彼女は、ぶつぶつと呟き続けている妹ちゃんを見て、ほんの少し首を傾げた。

「あ、アム……おかえり♡」

 私がおかえりと言ってあげると、アムはどこか困ったような、睨みつけているような、呆れているような表情で私の方へと顔を向ける。

 そして、一拍置いて。

「……もしかして咲、サラちゃん揶揄った?」

 と。彼女は微妙に困ったような表情をして、私に聞いてきた。

ので、私はついでにアムも揶揄うために、あえて曖昧に──

「さて、どうでしょう……♡」

 と、答えた。

 すると予想通り。アムは呆れた表情で私を睨みつけ、小さくため息をついた。

「もー……」

(あはは……二人とも私の好みの反応してくれて楽しいなぁ……。妹ちゃんともアムと同じくらい仲良くなれるよう頑張ろっと……愛作くんの妹だしね、大切にしてあげなきゃ……)

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