185.兄妹? 姉妹? デート
「あ、お姉ちゃん見て見て。めっちゃデカい綿飴売ってるよ? ああ言うのってオシャレな街で食べるからいいんだけど……やっぱりちょっと惹かれるよね」
「……ん……」
「……お姉ちゃん?」
「……ふわぁ……」
「……お兄ちゃんっ」
「うわぁ!? 急に耳元で囁くなよ!?」
「だってお兄ちゃん全然反応しないんだもん! せっかく私が話しかけてるのにさっ!」
腰に手を当てながら、頬を思いっきり膨らませながら、頭上に怒りマークを浮かべながら。怒っているアピールをするサラ。
物凄く不機嫌そうな顔で、彼女はじっとずっと僕を睨みつける。
「しょうがないだろ……お姉ちゃん呼び慣れてないんだから」
「だ! と! し! て! も! 私が今話しかける人なんてお兄ちゃ──お姉ちゃんしかいないじゃん!」
「……やめれー……」
相変わらず僕を睨みつけながら、サラは僕の頬を人差し指でプニプニと押してくる。
結構強い力で押されているからか、頬の肉が歯と歯の間に押し込まれる感覚がして、若干気持ち悪い。
「……そういえばサラ。何か買い物がしたくてここに来たんじゃないか?」
と。僕はサラの機嫌を戻そうと、頬を突かれるのを止めようと話題を振る。
すると目論見通り。サラは少しキョトンとした顔をして、僕の頬からゆっくりと人差し指を離した。
「あ……あはは……! そうそうそうだよ! 買い物したかったの! お姉ちゃんに付き合ってもらおーって思って誘ったんだったね!」
何故かどこか慌てた様子で、思い出したとジェスチャーするように両手をパンっと合わせ、サラは作り笑顔を僕に見せる。
そして一瞬だけ辺りを見回し、一拍置いて彼女は、ビシッと少し遠くにあるお店を指差した。
「あそこ! さぁさぁ行こうお兄ちゃ──じゃなくてお姉ちゃん!」
「お前もお姉ちゃん呼び慣れてないじゃないか……」
「う……うるさいバカお兄ちゃん!」
「ほら、またお兄ちゃんって──」
「むぅぅ……! はーん? いいんだー? そう言うこと言うなら私! 才色兼備でとっても可憐な銀髪赤眼美少女が私のお兄ちゃん、愛作エイジその人だってここで言いふらしちゃうんだから!」
「……すみませんでした。サラさん」
「うむ! それでよろしい! それじゃあ行こっ! お兄ちゃ──お姉ちゃん!」
(……ここでまたツッコんだら、めっちゃ怒られるんだろうな)
*
「……流されるがままここまで来たが、冷静に考えたらおかしいだろ……」
立ち鏡と睨めっこをしながら、僕はサラに持たされたフリフリのドレスを一瞥してから、そう呟いた。
僕の持っているドレスはまるで雪のような白さで、たくさん付いているフリフリがどこか儚さを感じさせる。どう考えても僕に不釣り合いなドレスだ。
服には全く詳しくないが、そんな素人な僕でも一度触れただけでわかる程に、高級な感じがするドレス。正直、こうして手に持ち触れているだけで震えてくる。少しでも傷つけたらどうしよう、雑に扱ってしまったらどうしよう、と。
「おに──お姉ちゃーん? 着替え終わったー?」
と。サラが僕を呼ぶと同時に、予告もなしにカーテンを勢いよく開けた。
「うわバカ! 覗くなよ!」
僕は思わずドレスをぎゅっと握りながら、それで体を隠すようにして後退りをしてしまう。
そんな僕をサラは、どこか呆れたような目つきで見ていた。
「別に女の子同士だからいいじゃん……ってか、お姉ちゃんまだ脱いですらいないし。何してんの?」
首を傾げながらそう呟くサラ。すると彼女はさも当然かのように、試着室へと入ってきた。
「バカお前……! 入ってくるなよ……!」
「お姉ちゃんどうせその服の着方わからないでしょ? ふふんっ……私が手伝ったげる!」
サラはニヤニヤとしながら、手をワキワキとさせながら、ゆっくりと僕に近づいてくる。
そんな彼女から逃れようと僕は彼女に背を向けるが、サラは変わらずニヤニヤしながらむかってくる。
鏡越しに見るサラの姿は、銀髪赤眼美少女を襲おうとする変質者そのものだった。
「……っ! ちょ……! 触るな……!」
「んー……? は……? もしかしてお姉ちゃんノーブラ? ありえないんだけど……渡したよねワンピースと一緒に」
「うるせぇバカ……届かないから諦めたんだよ……着けるの……」
「言ってくれればいいじゃん! 私じゃなくてもリシアお姉ちゃんも居たし、クティラちゃんもティアラちゃんも居るのに!」
「……恥ずかしくて言えるか」
「そういえばお姉ちゃんの下着も買わなきゃだよねー……よしよし……服見終わったらランジェろうねお姉ちゃん! 私がとびっきり可愛いの見つけたげる……♡」
「マジで勘弁してくれ……」




