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183.銀髪赤眼美少女お──とデート♡

「……またこのショッピングモールか」

「しょうがないじゃん。この辺ここくらいしか遊ぶ場所ないしっ。本当だったらもっと遠出したいんだけど、急に決めたことだしねー」

 いつもの場所で、いつもの感じで。僕とサラはショッピングモールにやって来ていた。

 数刻前のサラの策略により、今日は二人っきりでの外出だ。クティラがウチにやって来てから何気に初めてかもしれない。クティラがいない外出は。

 それにしても、土曜日とは言え人が多すぎると思う。親交はないが、学校で見た顔もチラホラと。嫌な気分だ、心臓がドキドキ高鳴って落ち着かない。

「……お兄ちゃん、何キョロキョロしてんの」

 と。サラが脇腹を突きながら僕の名前を呼んだ。

 僕はそんな彼女の指を触れると同時に避けながら、じっとサラを睨みつける。

「んー? どうしたの? そんな睨みつけてさっ」

「……別に買い物に付き合うのはいいが、この服は無いだろ」

 と。僕は自分の着ている薄い水色のワンピースの裾を掴みながら、小さくも力強く言った。

 するとサラは不思議そうな顔をして首を傾げた。僕が先ほど声色に込めた怒りなど気づいていないかのように、彼女は自慢のポニテを揺らしながら、ポケッとした顔で首を傾げている。

「なんで? 似合ってんじゃん。お兄ちゃん可愛いよ?」

「男が女の子みたいな格好していたら目立つかもだが、女の子が男の格好をしていてもあまり目立たないだろ? だから僕は自分の私服でいいって言ったのにさ……」

「は? それ今更言う? なんだかんだ言って了承して着てくれたのはお兄ちゃんじゃん。紛れもなくお兄ちゃんの意思で、お兄ちゃんはその可愛い服を着たんだよ?」

「ぐ……! それはそうだが……!」

 僕がワンピースを着ているのは、最終的に着るのを認めたのは、あまりにもサラがしつこかったからだ。

 駄々こねるサラに、そんなサラの背後からじっと見つめてくるリシアの視線に耐えきれなかったからなのだ。断じて自分から進んで着たわけではない。僕は選んだのではなく、諦めたのだ。

 じっと、首を傾げながら見つめてくるサラに僕はそう伝えよう。そう思ったが、済んでのところでそれを言わないよう耐える。

 わざわざ余計なことを言ってサラを怒らせる必要がないし、それに応じて起きる不機嫌を直すのに手間がかかりそうだからだ。これでもサラは僕の妹、ここは兄である僕が堪えるべきだ。

「兎にも角にもお兄ちゃんは今女の子なんだから! 誰が見てもわかる銀髪赤眼美少女なんだから! せっかくこんなに可愛いのにオシャレをしないなんて余りにもナンセンス! だからお兄ちゃんは可愛い服を着るの! ドゥー・ユー・アンダスタン?」

 ビシッと、僕を指差し、敵を倒した時の決め台詞のように言うサラ。

 僕はそんな彼女の目を見つめながら、ゆっくりと頷く。

「……ああ、うん。わかったよ」

「……全然納得してないじゃん」

 僕は思わず、その場でため息をついてしまった。せめてもう少しスカートの部分が長ければいいいのに、ひらひらとした布が太もも部分を擽って、尚且つ普段曝け出していない所がスースーとしているのが非常に心地悪い。

 もし僕が最初から女の子に生まれていたとしても、ミニスカは絶対に履かないな。

「……あ、そう言えば忘れてた。ねえねえお兄ちゃん」

「なんだよ……」

「私さ、今日一日お兄ちゃんのこと、お姉ちゃんって呼ぶね」

「……は? なんでだよ?」

 僕の頬をプニプニと突きながら、サラがまた意味不明なことを言い出した。

 何故僕をお姉ちゃんと呼ぶと宣言したのか、どうしてそう呼ぼうと思ったのか、意味がわからなすぎる。推測も想像も全くできない。

「ほら、お兄ちゃん今さ、女の子じゃん。側から見たらどう頑張っても、どんなに必死に逆張りをしても、みんなが女の子だと認識できる正真正銘の銀髪赤眼美少女じゃん? そんな人を、女の子を、お兄ちゃんって呼んでいたらおかしくない?」

「……いや、そんな他人の会話を一々聞く人なんていないだろ。ましてや呼称に注視する人なんて──」

 と。僕が話している途中、サラは急に己の中指をちょんっと軽く僕の唇に当て、ニコリと笑みを浮かべ、僕の言葉を遮った。

 想像以上に柔らかく、どこか暖かくも感じるサラの中指は、僕の唇を一瞬だけ軽く押すと、すぐにその場から離れていった。

 代わりに目の前に現れるのはニコニコとしていて、どこかニヤニヤもしているサラの顔だった。

「そんな人居ない……なんてさ、お兄ちゃん言える? なんとなく、意識していないにも関わらず、会話中に何故か、他グループの話し声がやけに耳に入ってくる時ってあるよね? 人間ってさ……どんな人でもどんな人とでもいいから群れていたい生き物なんだよね。だから自然と無意識に、他者のことが気になってしょうがなくなる時があるの……特に、可愛くて綺麗な銀髪赤眼美少女なんてさ、周りの目と耳と心を奪いまくりだよ?」

「……色々言ってるけどさ、結論お前が僕をお姉ちゃんって呼びたいだけだろ」

「……あははっ♡ 半分正解で半分不正解かなっ。私もちゃーんとお兄ちゃ……お姉ちゃんのこと、考えて言ってるんだよっ?」

 と。サラはイタズラっぽく笑い、今度は自分の口元に人差し指を当て、どこか上目遣いをするように僕を見つめる。

「ほら……私ってさ、お兄ちゃ──お姉ちゃんのクラスじゃそこそこ有名人じゃん? リシアお姉ちゃんに会いにしょっちゅう行ってるから。そのついでにお兄ちゃんにも会ってるし? 知られてると思うんだよねぇ……私がお兄ちゃんの妹だってこと」

「……何が言いたい?」

「もしももしもだよ? お兄ちゃんのクラスの人がここに遊びに来ていて、私がお兄ちゃんをお兄ちゃんって呼ぶ姿を見られたらさ、誤解を生むと思わない? お兄ちゃんがプライベートでは女装をしているんだって……ねっ」

「……っ。いやそれは──」

「絶対に無い、とは言い切れないでしょ? 高校生ってなんだかんだ言って人をバカにすることを最大限の楽しみとして生きている人が多いから、ちょっとでも隙を見せたらお兄ちゃん、クラスのおもちゃになっちゃうかもよ?」

「……まあ、うん」

 ニヤニヤとしながら話すサラの言葉に、僕は思わず理解を示してしまった。

 確かにあるかもしれない。変な誤解が生じ、そこから面倒なことが起きるパターンが。

「……わかったよ。ショッピングモールにいる間は呼んでいいよ、お姉ちゃんって」

「ハァイ♡」

 僕が許可を出すと、何故かサラはぎゅっと僕に抱きついてきた。

 それと同時に僕は辺りを見回してしまう。湧き上がる羞恥心を誤魔化すために、誰かに見られていないかを確認するために。

「じゃあ行こっか……お姉ちゃん♡」

「……っ。慣れないな……お姉ちゃん呼び」

「ぷっ……恥ずかしがってるお兄ちゃん面白っ。お姉ちゃんお姉ちゃん♡ 可愛いなーお姉ちゃん♡ ね、お姉ちゃん♡ 好きだよ、お姉ちゃん♡」

「……マジでやめてくれ。恥ずかしい」

「オーキードーキーです。お姉ちゃん……♡」

「……誰か助けてくれ」

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