182.排他
「ねえお兄ちゃん……今日、暇だよね? だったらさ……デートしよ? 私と」
じっと僕を見つめながら、ほんの少しだけ頬を膨らませながら、サラはそう言った。
「……へ? デ、デート……?」
「そうデート! とは言ってもただのお買い物だけどね」
僕は思わず首を傾げてしまう。彼女の言ったことがイマイチ理解できなくて、しっかりと把握するのに時間がかかって。
「お兄ちゃん覚えてるよね? みんなが私を置いて遊びに行った日にした約束。週末買い物に付き合ってもらうって話」
「ん……? あ、あぁ……なんかあったような……したような……」
そんな約束してたかな。そう思い返しながら曖昧な返事を呟くと、サラはペチっと僕の頬をビンタしてきた。全く力が入っていなし、勢いもなかったので全然痛くない。
「やっぱり忘れてた……! まあ、正直私も忘れてて友達と遊ぶ約束とかしてたけど……」
と。サラは僕の頬を叩いた手の指で、頬を掻きながらどこか申し訳なさそうに言った。
「じゃあ、お互い様じゃないか?」
「うん……それはそう……だから……だから! 思い出したから! 今日デートに行こうって誘ったんじゃん!」
ビシッと僕を人差し指で勢いよく差し、大声で叫ぶサラ。
それに反応したのか、銀髪赤眼美少女姉妹が二人同時に一度ビクつき、ゆっくりとこちらへと振り返った。
サラも撫でていたリシアも、彼女が急に叫んだのに驚いたのか。「ぴえっ」と変な悲鳴を上げ、何故か僕へと視線を向ける。
「サラちゃんとエイジ、お出かけするの?」
リシアが首を傾げながら、提案をしたサラではなく、何故か僕を見ながら問いかける。
それを聞いたサラは力強く頷き、リシアに預けていた身を上げ、何故かビシッとリシアを指差した。
「ただしリシアお姉ちゃんはお留守番!」
「ぴぇ!? な、なんでぇ……?」
少し悲しげに、泣きそうな声色で、折れそうなほどに首を傾げながら呟くリシア。
そんな彼女をサラは頭を撫でながら、彼女の左頬に右手を添えながら、じっと見つめる。
「お兄ちゃんと私のデートだからね……ごめんねリシアお姉ちゃん」
「……ぴぇ……だけどうん……サラちゃんがそうしたいって言うなら私、我慢してお留守番するよ……!」
「ありがとうリシアお姉ちゃん……! 大好き!」
「私もサラちゃんのこと好き!」
(……抱きつくほど仲が良いならリシアも誘えば良くないか?)
行動と言葉が矛盾しているように見えるサラに対し、僕は疑問を抱きながら思わず首を傾げてしまう。
僕はどちらかと言うとリシアが居た方が良いのだが。サラと二人っきりだとめちゃくちゃ荷物を持たされそうだし。
「それでサラ? どこに行くのだ?」
と。いつの間にか僕の隣に立っていたクティラが首を傾げながら、サラに問う。
するとサラはリシアから離れ、クティラを見ながら一度頷いた後、両腕でバッテンを作り、それをクティラに向け見せつけた。
「もちろんクティラちゃんたちもお留守番だから!」
「んなっ!? な、何故だ……? 私とエイジは一心同体、故にエイジは私、私はエイジなのだぞ? エイジが誘われたならば、エイジが行くならば、私も行くのが道理にして必然だろう……!?」
目を見開きながら、やけに大袈裟に身振り手振りをしながら、クティラがサラの指示に反抗を示す。
そんなクティラをどこか余裕そうに見ながら、サラは人差し指をピンと立て、それを左右に振りクティラを煽る。まるでその反応を予測していたかのように。
「クティラちゃんはティアラちゃんと遊ぶんでしょ? ね、ティアラちゃん」
わざとらしい作り笑顔を見せながらティアラちゃんに話しかけるサラ。突然話を振られたティアラちゃんは、可愛らしく首を傾げながら、自身を呼んだサラへと視線を向ける。
「んにゃ? 私、クティラお姉ちゃんとならなんでもいいよ?」
「じゃあはいこれ。最新の家庭用ゲーム機ボターンツー、おじさんカート同梱版。なんとモーモーさんが使えます」
「モーモーさんが……!? お姉ちゃんやろう! 使えるんだってモーモーさん! あのモーモーさん! みんなのモーモーさん!」
「むぅ……まあ、ティアラが言うならば仕方あるまい……」
「……よし!」
ティアラたちにゲーム機を渡し、彼女たちの同行を防いだサラは、どこか満足げに笑みを浮かべながら、やり切ったようにため息をついた。
そんなに僕と二人っきりがいいのだろうか? それだけ僕だけをコキ使うつもりなのか、それとも別の思惑があるのか。彼女の真意が見えないわからない察せられない。
「……ほらお兄ちゃん、準備しよ? 早速出かけようよ……二人っきりのデートに」
「……はいはい」
ハニカミながら言うサラに、僕はため息まじりに返事をする。
以前サラと一緒に、二人っきりで出かけたのはいつだっただろうか。あの時はサラの荷物をたくさん持たされて、すごく大変だった。
何せ持たされた袋の数およそ十袋。運動部ではない普通の男子校生には少しキツイ量だった。特別力が強いと言うわけでもないし、本当に辛かった。
「えへへ……どんな服を着て行こうかな」
笑みを浮かべながら、楽しげに独り言を呟きながら、サラがソファーを降りる。
僕もそれに合わせてソファーを降り、彼女の隣に立ち、共にリビングを出るため歩き出す。
「……お兄ちゃん、楽しみだね」
ニコッと笑いながら、僕の名前を呼ぶサラ。
心の底から楽しそうな笑顔を見て、僕は思わず、されど彼女に聞こえないよう、小さくため息をついた。
(まぁ……これだけサラが楽しそうにしてるなら、別にいっか。付き合ってやるか……とことんまで)
僕は彼女に察せられないよう悟られないよう、隠しながら拳を握りながら、力強く頷く。
たまには兄らしいことをしてやらなければ。そう、決意して。




