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180.二度寝の誘惑に逆らえるはずもなく

「……ん……んん……朝か……」

 目が覚めた。何がきっかけで目が覚めたのかはわからないが、兎にも角にも目が覚めた。

 僕はとりあえずあくびを一回してから、それから目を擦りながら、ゆっくりと上体を起こす。

「……あ……そっか……ソファー……」

 いつもと違う目覚めの景色に一瞬戸惑うが、すぐに状況を把握した。昨日は結局、あのままベッドをクティラ姉妹に明け渡し、僕は一人でソファーの上で寝たんだった。

 変な寝方をしてしまったのか、全身がギチギチと痛む。痛いと言いたくなるほどの痛みではないが、微かに確かに感じる痛みが居心地悪い。

「……ねむ」

 今日は確か土曜日。学校はないし、特に出かける予定も組んでいない。何時かは知らないが、未だリビングに居るのが僕一人なので、きっと朝もまだ早い。

 そうだ、二度寝しよう。誰かに言うように、改めて決心するように、僕は心の中で意を決しながら、ゴロンっとその場に寝転がった。

 胸が少し邪魔くさい。男の時はそんな事思った事ないのに、なんて不便なんだろう。

(……なんか、すっかり女の子の体に慣れてきたような)

 僕は思わずため息をつく。最初の方は新鮮に感じた女体も、今じゃあまり意識する事なく自然に自分の体として動かせている事実に、小さくため息をつく。

 なんか良くない傾向な気がする。このまま自然に心まで女の子になったらどうしよう。男の僕と女の僕で別人格が生まれ、自己を認識できなくなったりしたらどうしよう。そんなことをつい、考えてしまう。

(……考えすぎ、だな。とっとと寝よ……)

 面倒臭いことを考えるのをやめ、僕は大きくあくびをしながら、自分の右腕を枕にして──

「おはよー……エイジ……」

 眠ろうとしたその時、誰かが僕の名前を呼んだ。

 聞いたことのある声、確かに聞いたことのある声。だけど寝起き故か、へにゃへにゃとした声色で上手く聞き取れなかった。

 とりあえず僕は、襲いくる眠気を無理矢理押しのけ、ゆっくりと起き上がり、声のした方へと視線を向けた。

「……あ。おはよエイジ……改めておはようエイジ……おまけにもう一回おはようエイジ……」

 そこに居たのは、僕の幼馴染であるリシアだった。薄黄色のパジャマを着ていて、いつもポニーテールに纏められている髪はストレートで尚且つボサボサ。起きたばかりだからか、メガネも付けていないし半目気味だ。

「……おはよ、お兄ちゃん」

 そんなリシアの横に居るのはサラ。彼女もまたボサボサのロングで、薄ピンクのパジャマを着ている。そんなサラはリシアと手を繋ぎながら、空いている手で目を擦りながら、俯きながら僕に朝の挨拶をした。

「……おはよう二人とも」

 僕は二人の挨拶に対して纏めて返す。すると二人はほぼ同時に頷き、ゆっくりとこちらにやってくる。

 まずリシアが僕の隣に座る。その次に、サラが全身の力を抜いたかのように、倒れ込むようにリシアへと身を委ね、彼女の上に抱きつくように座った。

「……ねむ……」

 目を瞑りながら、サラが小さくそう呟く。

 そんなサラの頭を優しく撫でながら、リシアは眠たげな顔で僕へと視線を向けた。

「エイジ……クティラちゃんとティアラちゃんは?」

「ん……? えっと……ああ……まだ見てないから、まだ起きていないんじゃないか?」

「そ……寝る子は育つって言うし、それでいいのかもねー……」

 いつもの感じとは違って、どこかポヤポヤした感じで喋るリシア。

 そんな彼女もまだ眠気があるのか、うつらうつらとしながら、目をゆっくりと閉じ始める。

 そのまま彼女は寝てしまったのか、ゆっくりと僕の肩に頭を預けながら、静かに寝息を立て始めてしまった。

「……っ」

 僕の頬に吐息が当たる。耳元でダイレクトに、リシアの可愛らしい寝息が聞こえてくる。彼女の頬の体温も、彼女の肌の柔らかさも、服越しにだが確かに感じる。

「……起こすわけにはいかないもんな」

 僕は溢れ出る羞恥心を誤魔化すように、言い訳を呟きながら、ため息を静かについた。


 *


「ふにゃぁ……眠い……」

「んにゃ……眠いな……」

 朝の何時何分何秒。私は、お姉ちゃんと一緒に廊下を歩いていた。

 とても眠くて、凄く眠くて、どうしようもなく眠いけど。お姉ちゃんと手を繋ぎながら歩いているから、凄くドキドキもしている。

 お姉ちゃんと一緒に寝て、お姉ちゃんと一緒に起きて、起きて真っ先にお姉ちゃんとおはようと言い合って、お姉ちゃんと手を繋ぎながら、お姉ちゃんと一緒に朝を過ごす。こんな日々がまた過ごせるだなんて私、思わなかったし思えなかった。

 大好きなお姉ちゃんの手の温もりを感じる。まだ眠くて、だから目が痒くて、頭もうまく回らないけれど、それでもしっかりと体温を感じている。

「んへへぇ……お姉ちゃん大好き……」

 私はお姉ちゃんに愛を伝えながら、彼女から離れないように、彼女が離れられないように、ぎゅっと握る手に力を強く込める。

 すると、お姉ちゃんは私の手を握り返してくれた。それが凄く嬉しくて、私はさらに強い力で握り返す。

「……む? エイジとリシアお姉ちゃんとサラ……三人とも寝ているな」

「……んえ?」

 気づいた時にはリビングに着いていた。隣で首を傾げるお姉ちゃんに釣られて、私も思わず首を傾げる。

 そして、お姉ちゃんが視線を向ける先を見てみた。するとお姉ちゃんの言葉通り、そこにあるソファーには、愛作家御一行様が三人仲良く幸せそうに寝ていた。

「……ティアラ、まだ眠いか?」

「んにゃ……? うん、まだ眠いかも……」

「ならば私たちも混ざるか。愛作ファミリーたちに」

 ニヤリと笑みを浮かべるお姉ちゃん。私はそんな彼女の目を見て、力強く頷く。

「……うん!」

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